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レティシア15歳 時代の変革者たち
第97話 出発!進行!
しおりを挟む無事に聖剣を入手した一行は、いったん公爵邸に戻ってルシェーラと合流した。
そこから今度は馬車で『駅』に向かうことになる。
カティアの養父であるダードレイは、街の宿に泊まっている旅芸人一座の者たちと合流してから、直接駅に向かうことになっていた。
リュシアンも彼らの案内をするため同行している。
そしてレティシアたちがやってきたのは、イスパルナ市街の北の外れに建設された『駅』だ。
「まぁ、『駅』なんて言っても、まだまだ整備の真っ最中なんだけど」
彼女が言う通り、広々とした土地にはホームが一面だけ。
駅舎と呼ぶにはいささか物足りない小屋が建っているだけの『駅』だった。
「ずいぶん外れの方にあるんだね……」
「それは仕方がないね。今はこんなだけど……何れはホームもたくさん並ぶターミナルになる予定だから。これだけの広さを確保できる土地は、市街中心には無いよ」
「それもそうか」
そして、レティシアがカティアたちにあれこれ説明をしていたとき。
遠くから、タタン……タタン……という音が近付いてくる。
「ママ、あれ!!すごい!!」
ミーティアが興奮しながら歓声を上げ、指差すその先には。
901型魔導力機関車を先頭にした列車がレールのジョイントを刻む音を響かせながらやってくるところだった。
まだ徐行程度のスピードに過ぎないが、その巨体が実際に動くところを初めて見る者たちは、その迫力に息を呑む。
そしてゆっくりとホームに滑り込んできた列車は、キキィー……と、ブレーキの音を立てながら停止した。
「実際に動くところを見ると……凄い迫力ですわ」
「全くだ。こんな巨大なものが動くなんてな……」
ルシェーラとカイトが、やや呆然としたように呟きを漏らした。
ミーティアも興奮しきりで、目をキラキラと輝かせている。
その一方でカティアは、他の者たちよりは落ち着いた様子だが、どこか感慨深げであった。
「レティ、回送してきたぞ」
機関車の運転室から降りてきたリディーが、レティシアたちのところにやって来て声をかけてきた。
運転室には親方の姿もあり、どうやらリディーは彼から運転操作のレクチャーを受けていたらしい。
操作方法自体は知っていても、実際の運転は熟練者から指導を受けなければならない。
そのため、最近は親方が教官となって運転士の育成を進めているのだ。
「リディー、ありがと!……あ、紹介するね。この人はリディーって言って、私と一緒に鉄道開発関連プロジェクトの陣頭指揮を執ってもらってるの。リディー、こちらが今日のお客様で、ダードレイ一座のカティアさん、カイトさん、ミーティアちゃん。こちらは兄さんの婚約者のルシェーラちゃんね。ダードレイ一座の他の皆さんも後から来るよ」
「リディーです、はじめまして。今回皆様をお迎えすることが出来まして、誠に光栄でございます。まだ試験段階ではありますが、安全性の確認は既にできておりますのでご安心ください」
「こちらこそありがとうございます。今からとても楽しみでワクワクしていますよ」
「ええ、ぜひ鉄道の旅をお楽しみください。では、私は出発の準備がありますので、一旦失礼させていただきます。レティ、また後でな」
「うん、お願いね」
お互いに挨拶を交わすと、リディーは再び機関車に乗り込んだ。
レティシアとリディーの気安いやり取りを見たルシェーラが、何やら目を輝かせながらカティアに耳打ちしていたのだが……レティシアは気が付かなかったようだ。
そしてその後しばらくしてから、リュシアンとダードレイ一座の面々も駅にやって来る。
いよいよ出発の時が来た。
「じゃあみんな揃ったことだし……早速乗りましょうか!」
「わ~いっ!パパ、ママ、早く乗ろ!」
「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
魔導力機関車の後に連結された客車は5両。
さらにその後ろには貨車が2両連結され、一座の荷物や馬車などが積み込まれようとしていた。
レティシアたちは客車に乗り込み、デッキから客室に入る。
客車は鋼製車体だが、客室内は木を主体にした内装で、非常に高級感があり落ち着いた雰囲気だ。
座席は四人掛けのボックス席だが、足元は広々としていて中央にはテーブルも配置されている。
他にも二人掛けや、コンパートメントなどもあるようだ。
ゆったりとした座席は柔らかそうな革張りでクッションも効き、かなり座り心地が良いだろう。
魔道具らしき照明の暖かみのある柔らかな光は、内装の雰囲気と合っており、それも高級感を演出するのに一役買っていた。
「ふぇ~……凄い豪華じゃない?」
前世の鉄道を知るカティアも、今度は驚きの声を上げる。
いや、前世の知識があるからこそ……か。
「一座の皆さんは50人くらいって聞いたからね。今回はオール一等車の豪華編成だよ!」
開業に向けた客室設備については、一等車~三等車の三等級制を予定している。
一等車は、貴族や富裕層をターゲットにしているので、内装はもちろん、台車にも非常にコストを掛けて揺れを抑える工夫を施しており、乗り心地も最上のものとなる。
「一等と言う事は、これが一番グレードが高いということですの?」
もともと平民として過ごしてきた(前世も庶民の)カティアとは異なり、生粋の貴族令嬢であるルシェーラは、内装の豪華さにはさほど驚いてはいないが、興味は尽きない様子。
「一等の上に特等を予定してるけど……それは王族や国賓の方を乗せるための特別な車両だね。今回はカティアがいるからそっちにしようかとも思ったんだけど、開通したら式典で最初に陛下に乗っていただこうかと計画してるんだ」
「これでも十分すぎるよ。……それに、まだ正式に王女として認められたわけでもないし」
「そお?でも、もう間違いないんでしょ?……後は、二等、三等だね。料金は検討中だけど、今のところ三等で駅馬車の倍くらいって考えてるよ」
駅馬車に比べればスピードがあまりにも違いすぎるので、倍の料金であったとしても十分な利用者が見込まれると予測されていた。
「そうすると、御者さんの仕事が無くなっちゃう……?」
「それも対策は検討してて、希望があれば乗務員とか駅員とかね、募集はかけようと思ってる。まあ、運賃に差をつけてるからすぐに必要なくなるわけじゃないと思うけど。そのへんは慎重に検討するつもり」
「さすが。私が考えつくようなことは当然検討しているか……」
カティアはそう言うが、そのようなことに目を向けるのも、彼女が王族としての自覚を持とうとする意識の現れだろう。
「レティ、出発の準備は整ったぞ。全て問題なし。貨車の積み込みも終わったみたいだ」
「あ、ありがとね、リディー!」
一行が話しているところに、再びリディーがやって来る。
どうやらもう出発できるようになったようだ。
「よし、それじゃあ行きますか!車内放送でみんなに報せてもらえる?」
「ああ、分かった」
彼はそう言って、機関車の方ではなく客車の後方…客車の一部に設けられている車掌室に向かった。
運転は親方に任せ、車掌業務を担当することにしたらしい。
そして、しばらくすると……車内放送から彼の声が聞こえてきた。
『皆様、本日は当…………レティシア鉄道(仮)にご乗車頂きありがとうございます』
「あ!?こら、リディー!勝手に名前をつけるんじゃないよ!カッコカリって何よ!」
リディーのお茶目なアドリブ放送に、レティシアがツッコミを入れる。
当然それが彼に聞こえるはずもなく、車内放送が続けられる。
『当列車は世界初の魔導力機関車、901型を先頭に5両の一等客車、2両の貨物車による編成となっております。まもなくイスパルナ北駅を出発します』
そのアナウンスが終わった直後、ピィーッ!と鋭い警笛が鳴り響く。
「さあ行くよ!!出発!進行!!」
レティの掛け声と同時に、ガシャン!という衝撃音と共にゆっくりと列車が動き出した。
そして、グングンと力強く加速していくと、またたく間に馬車などよりも速いスピードとなる。
「うわ~!すごい、すごい!!はやい~!」
窓を流れていく景色の速さに、ミーティアだけでなく初めて乗車した乗客の誰もが驚き興奮した様子だ。
「本当に凄いですわ。これが鉄道……」
幼馴染の友人が成した偉業の凄さに、ルシェーラはその実感を込めて呟いた。
そしてカティアも……流れる車窓の景色を眺めながら、決意を新たにする。
きっと、レティシアたちと同じように夢と情熱をもった人がこの世界にはたくさんいるのだろう。
誰もが夢に向かって頑張れる、そんな世の中を守りたい……と。
彼女の行く先には大きな運命が待ち受けている。
これから彼女は、幾多の苦難を乗り越えていくことになるのだ。
しかし、それを乗り越えた先の未来で……彼女はこの国の王女として国を、人々を導いていくに違いない。
レティシアも流れる車窓を見ながら、自分の夢が着実に現実のものとなっている事を実感する。
その夢が叶うとき、きっと新たな時代が幕を開けるだろう。
そして彼女たちだけでなく……
二人の周りに集まる者たちも、新たな時代を築き上げる立役者になるのだ。
そんな時代の変革者たちの想いを乗せて、列車は走るだろう。
未来に向かって。
~~ レティシア15歳 時代の変革者たち 完 ~~
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