【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
107 / 191
レティシア15歳 時代の変革者たち

第93話 駅弁

しおりを挟む

 翌日、レティシアは朝早くから公爵家のとある場所へと向かっていた。

 彼女は眠たそうに目を擦り、あくびを噛み殺しながら廊下を歩いていく。
 すれ違う使用人たちと挨拶を交わし、やがて目的地に到着する。


「おじゃましま~す……」

 少し遠慮がちに声をかけながらやって来たその場所は、公爵邸の厨房。
 ここは公爵一家や来客だけでなく、住み込みで働く使用人たちの食事も賄うためかなりの広さがある。
 そして、まだ早朝であるにも関わらず、朝の仕込みのため既に多くの料理人達が仕事をしていた。


「おや……お嬢さま?どうされましたか?まだ朝食まで随分と時間がありますが……」

 レティシアが来たことに気付いて声をかけてきたのは、この厨房を取り仕切る料理長だ。
 

「あ、おはようございます、料理長さん。すみません、お忙しいところ……」

 と言いかけて、彼女は少し逡巡する。
 徹夜の勢いでここまで来たものの……厨房の慌ただしい雰囲気を見ると、邪魔するのは憚れると思ったのだ。

 彼女が口籠っていると、料理長は雰囲気を察して先回りして応える。

「今は待ち時間なので……何かお話があるのでしたら、お聞きしますよ」

 流石に長年モーリス家で働いてきただけのことはある。
 レティシアの事も小さい頃から良く知っているので、彼に気を遣って遠慮してる事はすぐに分かったのだろう。


「ありがとうございます!それじゃあ……ちょっと相談したいんだけど……」

「私に……ということは、何か食べたい料理があるということですかな?」

 これまでもレティシアは、前世で食べていた料理が無性に恋しくなることがあって、彼に頼んで何度か作ってもらったことがあるのだ。
 ……前世も今世も料理はからきしの彼女の説明なので、彼はかなり苦労したものだが。

 今回もそうなのだろうと料理長は思ったが……

「えっとね、私が食べたいんじゃなくて……ちょっとこれを見てもらいたいんだけど」

 そう言って彼女は手に持っていた資料を手渡す。

「これは……企画書?……ふむ……ほぅ……なるほど、この『駅弁』というのを作りたいということですな」

「そうなの。コンセプトとしては、コンパクトな箱詰めの1人分、でも十分な食べごたえがあって、食べやすくて、冷めても美味しくて……」

 傷みにくく、大量生産が可能で、バリエーションも豊富……
 そういった事を、身振り手振りを交えて料理長に伝えるレティシア。

 料理長はメモを取りながら、興味深そうに彼女の話を聞き、時おり質問もする。
 いつの間にか他の料理人も集まってきた。

 そして。

「……なるほど。今まで以上に変わったオーダーですが、なかなか面白そうですな。朝食の準備が一段落したら早速、試作品を作ってみましょう」

 などと、かなり乗り気になって応えた。

「本当?ありがとう!そんなすぐに作ってもらえるとは思わなかったよ」

「お嬢さまのご依頼は、料理人にとってやり甲斐のあるものばかりですから。我々としても料理の幅が広がる事になりますし……こちらこそ、ありがとうございます」

 それは本心からの言葉だ。
 彼らはいつも、新たな食材や調理方法の探求しており、向上心を持っている。
 一流の料理人たる所以だろう。


 カティアの何気ない一言によって、レティシアが徹夜して企画を考えた『駅弁』計画は、こうして始まった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 厨房をあとにしたレティシアは、流石に眠気が限界にきていた。
 朝食までの僅かな時間だけでも寝ておこう……と、ふらふらとした足取りで自室に向かう。

 すると、その途中の廊下で、ルシェーラと出会った。

「あ、レティシアさん。おはようございます」

「あ~、ルシェーラちゃ~ん……お~は~よ~」

「ど、どうされました……?なんだか具合が悪そうなのですが……大丈夫ですか?」

 ふらふらしながら間延びした声で挨拶を返すレティシアに、彼女は心配そうに言う。

「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ……ちょっと寝不足なだけだから~。……ルシェーラちゃんはこんな朝早くからどうしたの?朝食にはまだ早いけど」

 話しているうちに少しだけ覚醒した彼女は、自分のことは棚に上げて聞く。


「私は日課の鍛錬をしようかと思いまして……ちょっとお庭をお借りしますわ」

「そっか~、頑張ってね~」

 やはりふらふらしながら答えるレティシア。
 もうほとんど瞼は閉じかけている。

「ほ、本当に大丈夫ですの……?お部屋までお送りしましょうか?」

「だいじょ~ぶですって!じゃあ、またね~」

「あ、レティシアさん……」

 そう言ってレティシアは、ふらふらと頼りない足取りで立ち去っていった。






「…………商会の仕事がお忙しいのかしら?」

 残された彼女はポツリと呟いた。

 レティシアがモーリス商会の会長として日々忙しくしていることは、彼女も知っている。
 大切な友人であり、将来の義理の妹でもあるレティシアにはあまり無理をしてほしくない……彼女はそう思うのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...