【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
106 / 191
レティシア15歳 時代の変革者たち

第92話 同胞(後編)

しおりを挟む


「それにしても……あの機関車。というか、鉄道は凄いね」

 昼間に見せてもらった魔導力機関車の整備風景を思い出し、カティアはその話題を口にした。
 まさかこの世界でそれを見ることになるとは思わなかったので、彼女はかなり驚いていた。
 思わず日本語で呟いてしまうくらいには。


「そうでしょうそうでしょう!……私ね、前世は鉄道オタクだったんだ。いわゆる乗り鉄ね。だけどこの世界には鉄道がないことを知って……前世の家族に会えないことと同じくらいショックを受けたんだよ。まぁ、結局開き直って、『無いなら私がつくる!!』ってなったんだ」

「何というか……凄い情熱だよねぇ……」

 半ば呆れたようカティアは言う。
 だが、なにか大きなことを成し遂げる人物というのは、そういうものなんだろう……とも彼女は思った。


「もちろん情熱もあったし、いろいろ頑張ったんだけど。でも、私だけじゃ限界がある。一人でできることなんてたかが知れてるからね。少しずつ協力してくれる人が増えていって……今ではもう、数え切れないくらいに多くの人が関わっている」

 彼女はそのことを良く理解している。
 だからこそ、驕り高ぶることなく誰に対しても感謝の気持を忘れることがない。
 だからこそ、彼女のもとに多くの人が集まってくる。

「最初は自分の夢を叶えるために始めたことだけど、きっとこの世界のためになるはず。だから頑張るよ。それに、私はもうこの世界の住民だからね。今この時を一生懸命生きるんだ」

「レティ……やっぱり凄いよ」

 カティアは素直にそう思う。
 そして眩しそうにレティシアを見つめた。


 

 そして、話題は変わり……今度はカティアの事について、レティシアが切り出した。


「カティアは、これからどうするの?」

「どうするって?」

「あなたは、この国の王女で……でも、今までそれを知らなかったんでしょ?」

 リュシアンの報告によれば、リッフェル領で起きた事件で初めてそれが判明したとのこと。
 であれば、カティアはまだそれを知ってから日も浅いはずだ。
 だからレティシアは、彼女の今後のことが気になった。


「う~ん、そうだね……出来ることなら、これまで通り一座の歌姫は続けたいと思ってる。でも、王族としての責務も果たしたいって考えてるんだ」

 自分自身で整理をするように、彼女は答える。


「リッフェル領の事件も、その前のブレゼンタムの魔軍襲来も……この世界で何か良くない事が起ころうとしている前触れだと思うんだ。私はそれを何とかしたい。私はシギルの継承者だし、王族でもあるのならきっと、それには意味があると思うんだ。……それにレティの話を聞いて、私はいろんな人の夢を守りたい……って思ったよ」

 その言葉を聞いたレティシアは、英雄姫はまさしく英雄なのだと思った。
 そして彼女は既に、王族としての自覚が芽生えている……とも。

 これからきっと、もっと大きな事を成し遂げる……レティシアは漠然とそう思った。


「そっか……ありがと。じゃあ今度は、私からのアドバイスね。……やりたい事は諦める必要はないと思う。王女様が歌姫なんて素敵じゃない。そりゃあ、何でもかんでもできるわけじゃないし、結果として何かを諦めることだってあるかもしれないけどさ。最初から諦めるくらいだったら、チャレンジしなきゃね。……私は、そうしたから」

 レティシアは自分の経験を踏まえ、アドバイスをした。
 実際に夢を諦めず、もうすぐ叶えられるところまで来ている彼女の言葉だからこそ、それは実感を持ってカティアに伝わる。


「……そうだね。そう、私は前向きなのが取り柄だからね。何でもチャレンジ……その通りだよ。流石、経験者の言葉は含蓄があるね」

「でしょ?」

「「……ぷっ!あはははは!」」

 先ほどとセリフが逆になったやり取りに、思わず二人は顔を見合わせて吹き出してしまった。






 その後も話は尽きることなく……時間を忘れた彼女たちの楽しいひとときは、深夜にも及んだ。

 だが。


「……あ、いけない。もうそろそろ寝ないと。ごめんね、旅の疲れもあるのに」

 レティシアも流石にまずいと思い、ここでお開きにすることに。


「ううん、私も楽しかったから……ついつい話し込んじゃった」

「私も楽しかった。……それじゃあ、明日は列車の旅を楽しみにしててね」

「うん、凄く楽しみだよ。いいよね~、列車の旅って。流れる車窓、見知らぬ土地、そして美味しい駅弁……」

 カティアのその言葉を聞いたとき、レティシアの目がキランと光った。


「今……なんと?」

「へ?……」

「そうだよ!!駅弁!!私としたことが……何で忘れてたのっ!?」

 くわっ!と目を見開いて、こぶしを天に突き上げて彼女は叫ぶ。

 カティアは理由もわからず目を丸くして、恐る恐る聞く。
 
「え、駅弁がどうしたの?」

「大事な旅の醍醐味じゃないの!!……こうしちゃいられない。開業に間に合わせるために今から計画を立てないとっ!メニュー決めと、業者選定と……販売体制も……」

「え、あ、あの……?」

 もはやカティアの言葉はレティシアの耳に入ってこない。
 これからもう寝ようという時に、彼女の目はメラメラと燃えていた。

「カティア、ありがとう!!それじゃっ!!」

「あ、レティ!?ちゃんと寝なさいよ~っ!!」


 そう言うやいなや、レティシアはピューッと部屋を出ていった。
 果たして、最後のカティアの言葉は届いたかどうか……



 そして。

「……あれは、徹夜するね」

 静かになった部屋に残されたカティアは、ポツリと呟いた。

 それから少し先程までの会話の余韻を楽しんでから、明日に備えて休むため養女ミーティアが眠る寝室に向かうのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...