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レティシア15歳 時代の変革者たち
第92話 同胞(後編)
しおりを挟む「それにしても……あの機関車。というか、鉄道は凄いね」
昼間に見せてもらった魔導力機関車の整備風景を思い出し、カティアはその話題を口にした。
まさかこの世界でそれを見ることになるとは思わなかったので、彼女はかなり驚いていた。
思わず日本語で呟いてしまうくらいには。
「そうでしょうそうでしょう!……私ね、前世は鉄道オタクだったんだ。いわゆる乗り鉄ね。だけどこの世界には鉄道がないことを知って……前世の家族に会えないことと同じくらいショックを受けたんだよ。まぁ、結局開き直って、『無いなら私がつくる!!』ってなったんだ」
「何というか……凄い情熱だよねぇ……」
半ば呆れたようカティアは言う。
だが、なにか大きなことを成し遂げる人物というのは、そういうものなんだろう……とも彼女は思った。
「もちろん情熱もあったし、いろいろ頑張ったんだけど。でも、私だけじゃ限界がある。一人でできることなんてたかが知れてるからね。少しずつ協力してくれる人が増えていって……今ではもう、数え切れないくらいに多くの人が関わっている」
彼女はそのことを良く理解している。
だからこそ、驕り高ぶることなく誰に対しても感謝の気持を忘れることがない。
だからこそ、彼女のもとに多くの人が集まってくる。
「最初は自分の夢を叶えるために始めたことだけど、きっとこの世界のためになるはず。だから頑張るよ。それに、私はもうこの世界の住民だからね。今この時を一生懸命生きるんだ」
「レティ……やっぱり凄いよ」
カティアは素直にそう思う。
そして眩しそうにレティシアを見つめた。
そして、話題は変わり……今度はカティアの事について、レティシアが切り出した。
「カティアは、これからどうするの?」
「どうするって?」
「あなたは、この国の王女で……でも、今までそれを知らなかったんでしょ?」
リュシアンの報告によれば、リッフェル領で起きた事件で初めてそれが判明したとのこと。
であれば、カティアはまだそれを知ってから日も浅いはずだ。
だからレティシアは、彼女の今後のことが気になった。
「う~ん、そうだね……出来ることなら、これまで通り一座の歌姫は続けたいと思ってる。でも、王族としての責務も果たしたいって考えてるんだ」
自分自身で整理をするように、彼女は答える。
「リッフェル領の事件も、その前のブレゼンタムの魔軍襲来も……この世界で何か良くない事が起ころうとしている前触れだと思うんだ。私はそれを何とかしたい。私は印の継承者だし、王族でもあるのならきっと、それには意味があると思うんだ。……それにレティの話を聞いて、私はいろんな人の夢を守りたい……って思ったよ」
その言葉を聞いたレティシアは、英雄姫はまさしく英雄なのだと思った。
そして彼女は既に、王族としての自覚が芽生えている……とも。
これからきっと、もっと大きな事を成し遂げる……レティシアは漠然とそう思った。
「そっか……ありがと。じゃあ今度は、私からのアドバイスね。……やりたい事は諦める必要はないと思う。王女様が歌姫なんて素敵じゃない。そりゃあ、何でもかんでもできるわけじゃないし、結果として何かを諦めることだってあるかもしれないけどさ。最初から諦めるくらいだったら、チャレンジしなきゃね。……私は、そうしたから」
レティシアは自分の経験を踏まえ、アドバイスをした。
実際に夢を諦めず、もうすぐ叶えられるところまで来ている彼女の言葉だからこそ、それは実感を持ってカティアに伝わる。
「……そうだね。そう、私は前向きなのが取り柄だからね。何でもチャレンジ……その通りだよ。流石、経験者の言葉は含蓄があるね」
「でしょ?」
「「……ぷっ!あはははは!」」
先ほどとセリフが逆になったやり取りに、思わず二人は顔を見合わせて吹き出してしまった。
その後も話は尽きることなく……時間を忘れた彼女たちの楽しいひとときは、深夜にも及んだ。
だが。
「……あ、いけない。もうそろそろ寝ないと。ごめんね、旅の疲れもあるのに」
レティシアも流石にまずいと思い、ここでお開きにすることに。
「ううん、私も楽しかったから……ついつい話し込んじゃった」
「私も楽しかった。……それじゃあ、明日は列車の旅を楽しみにしててね」
「うん、凄く楽しみだよ。いいよね~、列車の旅って。流れる車窓、見知らぬ土地、そして美味しい駅弁……」
カティアのその言葉を聞いたとき、レティシアの目がキランと光った。
「今……なんと?」
「へ?……」
「そうだよ!!駅弁!!私としたことが……何で忘れてたのっ!?」
くわっ!と目を見開いて、こぶしを天に突き上げて彼女は叫ぶ。
カティアは理由もわからず目を丸くして、恐る恐る聞く。
「え、駅弁がどうしたの?」
「大事な旅の醍醐味じゃないの!!……こうしちゃいられない。開業に間に合わせるために今から計画を立てないとっ!メニュー決めと、業者選定と……販売体制も……」
「え、あ、あの……?」
もはやカティアの言葉はレティシアの耳に入ってこない。
これからもう寝ようという時に、彼女の目はメラメラと燃えていた。
「カティア、ありがとう!!それじゃっ!!」
「あ、レティ!?ちゃんと寝なさいよ~っ!!」
そう言うやいなや、レティシアはピューッと部屋を出ていった。
果たして、最後のカティアの言葉は届いたかどうか……
そして。
「……あれは、徹夜するね」
静かになった部屋に残されたカティアは、ポツリと呟いた。
それから少し先程までの会話の余韻を楽しんでから、明日に備えて休むため養女が眠る寝室に向かうのだった。
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