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レティシア15歳 時代の変革者たち

第91話 同胞(中編)

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「ご、ごめんね……突然、迷惑だったよね」

「ううん……驚いたけど。泣いてスッキリしたかな?」

「うん」


 レティシアが、その心の内をすっかりさらけ出したからであろうか。
 彼女たちの口調はお互いに、すっかり砕けたものになっていた。

 多くの言葉を重ねなくても、長い時間をかけずとも……通じ合う事がある。
 いま、二人はそれを知った。


「ちょっと、自分でも制御ができなかった。もう一人の私のこと理解してくれる人がいると思ったら、嬉しさがこみ上げて……つい」

「やっぱり……転生したのは本意じゃなかったんだね」

「うん。カティアさんは……違うの?」

「カティアでいいよ。私もレティって呼ぶから。……私の場合は少し特殊なんだよね」

 そして彼女は、自身が転生した経緯を話し始める。

 それによれば、彼女はもともとこの世界で生まれたカティアに憑依する形で転生したとのこと。
 何らかの理由で損傷したカティアの魂を補う形で、それを願った女神エメリールの力によって。


「……私とは少し違うんだ。それはそれで大変そうだね」

「そうでもなかったよ。もとのカティアの記憶があったし、それに私は納得して転生したから……。レティの方が凄いと思う。私だったら立ち直れないかも……」

「ううん。私が凄いんじゃないよ。父さんも、母さんも、兄さんも……根気よく私のことを支えてくれた。見捨てないでくれた。だから、私は立ち直れたの。だから、今度は絶対に家族を悲しませる事はしないんだって誓ったんだ」

 彼女のその言葉にカティアは、やはり彼女は芯が強く優しい少女だと思った。



「……それでも、ふとした拍子に前世を思い出すと寂しさを感じることもあって……同じ日本からの転生者に会えたのは、本当に嬉しかったの」

「私もだよ。ある意味『同胞』はこの世界にはいないと思ってたからね」

 カティアは、ここまでの道中でレティシアの話をリュシアンたちから聞いていた。
 彼女がモーリス商会で開発してきた品物の数々や、これまでの功績など……『もしかしたら転生者なのでは……』という疑念を抱いていた。
 だから今日、実際に会って魔導力機関車を見せられたとき、その疑念は確信に変わったのだ。

 事前の予想があったからこそ、レティシアよりもその衝撃は小さかったが……同じ世界からの転生者に出会えて嬉しかったのはカティアも同じである。


 それから二人は、これまでの生い立ちをお互いに話し始める。
 そして、それはいつしか前世の話題へと移っていく。

 どこに住んでいたの?
 趣味は何だった?
 好きな音楽は?
 あのゲームやったことある?

 他愛のない話で大いに盛り上がった。


 そうすれば自然とお互いの前世の人物像も、朧気ながら見えてくる。

 それはつまり……

「……カティアの前世って、男の人?」

 ということだ。
 話の内容からすると、どうやら彼女の前世は自分と同じく男性だろう……と当たりをつけ、レティシアはやや躊躇いながらも聞いた。


「え、ええ……まぁ……。もう、そういう感覚はすっかりないけど」

「やっぱり。それで、その……あのカイトって人とお付き合いしてる……?」

 はっきりそう紹介はされなかったが、二人の雰囲気からそれは察せられた。
 ……それ以前に、晩餐の席で周りが引くほどに惚気話を披露していたが。


「つ、付き合ってるわけじゃないけど……いや、まあ、付き合ってるのかな?」

「まあ、どっちでもいいけど。その……悩んだりはしなかったの?」

「もちろん、悩んだよ。でも、結局自分の気持ちに素直になる事にしたんだ。……もう少しで後悔するところだったし」

「そう……なんだ。自分の気持ちに、素直に……か」

 その言葉は、ロアナからもらったアドバイスにもあった。
 自分の境遇に近い人物から再び同じ言葉を聞いたレティシアは、その言葉通り素直な気持ちで自分の悩みを告白しはじめる。


「その……私も、前世は男だったんだけど」

「あぁ、やっぱりそうなんだね」

「……そんなに私って男っぽい?」

「何となくね。あんな機関車を創り上げようなんて思うのは、どちらかと言うと男の人かな……って」

「まあ、それもそっか……」

「で、レティは前世男性で…今も男の思考なの?……はっ!?まさか、さっき抱きついたのは!?」

「へ!?いやいやいや、そういうんじゃないよ!私は別に女の人が好きってわけじゃないから!」

「あ、そうなの?」

「うん。転生前は女の子が好きだったけど、もう今はそういう感情は無いよ。……でも、じゃあ男が好きかというと……それもよく分からないんだよね……」

 以前はあまり考えなかった……いや、ずっと先送りにしていた自分自身の性自認の問題。
 フィリップから婚約の申し込みがあってから、少しずつ真剣に考えるようになった悩みだ。


 そしてその悩みは、カティアにもよく理解できた。
 身体に残っていた『女』のカティアとしての感情と、前世の『男』の記憶を持つ魂……転生の経緯は異なるものの、同じ悩みを持っていたから。

 そして彼女は、それを乗り越えてきた経験者としてレティシアにアドバイスする。

「少し違うかもしれないけど、私と似ているね。とにかく自分の気持ちに素直になるのが一番だと思う。これからレティに好きな人ができた時、きっと前世の記憶のことで悩むかもしれない。でも、やっぱり……その時の自分の素直な気持ちを大切にするべきなんじゃないかな?」

「自分の気持ちに、かぁ……。流石、経験者の言葉は含蓄があるね」

「でしょ?」


 三度、語られるその言葉。
 素直な気持ちで、ありのまの自分で。
 それは大切な言葉として、レティシアの心に深く刻み込まれた。


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