【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

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レティシア15歳 時代の変革者たち

第86話 英雄姫

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 レティシアの、忙しくも充実した日々は過ぎていく。

 鉄道事業はいくつかの問題点は出てくるものの、全体的には概ね順調。
 実験線は予定からやや遅れたが、トゥージスの街まで整備が完了。
 本格的な走行試験が開始された。

 その一方で、彼女は『学園』の試験に向けての勉強もしていた。
 過去問をいくつか解いてみたが、合格ラインの点数は十分取れそうだった。
 これまでのモーリス家の教育のほか、前世の知識がかなり役に立ったらしい。

 そして試験の日を迎え……無事に合格を果たした。
 彼女が『学園』に入学することは既定路線となり、活動拠点の中心を王都に移すことも決まった。



 更に月日が過ぎ……
 ある日、モーリス公爵家に大きなニュースが舞い込んだ。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 公爵家の談話室にて。
 アンリからそれが語られたのは、いつものように家族が集まって団らんを過ごしている時のことだ。



「王女さま?クラーナちゃん……じゃなくて?」

 アンリが始めたのは『イスパル王国の王女』に関する話だ。
 しかし、イスパル王国の王女といえば、ユリウスとカーシャの娘であるクラーナのこと……レティシアはそう思っていたのだが、どうやら彼女が知らない人物の事のようだった。


「『カリーネ様の遺児を見つけた』……リュシアンからそういう報告が来たんだ」

「カリーネ樣?……そう言えば兄さん、何か事件があったとかで、ウチにも寄らずにリッフェル領に向かったんだっけ」

「カリーネ様はユリウス陛下の元婚約者。カーシャ様の姉君だ」

 初めて聞く話に、レティシアは驚きをあらわにする。

 更にアンリが語ったところによると……

 かつてあった戦争の際、ユリウスの婚約者カリーネは身重ということもあり、戦火を避けるため疎開していた。

 しかし、疎開先のアダレット王国でクーデターによる政変が勃発。
 その混乱の中で彼女は行方不明となった。


「じゃあ、その王女様というのは……」

「残念ながらカリーネ様は亡くなられた事が分かったのだが、その御子であるカティア様は生き延びて、これまでずっと旅芸人一座の一員として、市井で過ごされていた……とのことらしい」

「へぇ~…………あれ?『カティア』って名前、どこかで……」

 その話、レティシアは初めて聞くはずなのだが、王女の名前には何故か聞き覚えがあった。
 彼女がそれを思い出す前に、アンリが答えを告げる。

「暫く前にあったブレゼンタムの軍団レギオン襲撃事件。その戦いで多大な功績を上げた英雄『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』、その人こそがカティア様だったんだよ」

「はぇ~……」

 ブレゼンタムの英雄の話はレティシアも聞いていた。
 しかし、それよりもルシェーラを心配する気持ちのほうが大きかったので、すぐに英雄の名と同じであることを思い出せなかったのだ。


「行方不明だったお姫様が英雄だったなんて……物語みたい」

「そうね……。カリーネ様が亡くなられていたのは本当に残念なことだけど……お子様が生きてらっしゃったのは喜ばしいことよ」

 アデリーヌの瞳から滲む涙は、悲しみと喜びが混じり合うものだろう。


「それでだね……カティア様の御一行はいま、リッフェル領を出発して王都に向かっている。リュシアンとルシェーラちゃんも一緒だ」

「あ、ルシェーラちゃんは学園の入学準備があるから、早めに王都に行くって手紙が来てた」

 ルシェーラも問題なく入学試験に合格してるということだ。


「それじゃ、途中で公爵家うちに寄ってくのかな?」

「そうなるね。ご本人はまだ戸惑われてると思うが……丁重におもてなしするから、君たちもそのつもりで」

「分かったわ」

「は~い」

 これまでユリウスとカーシャの国王夫妻を何度か招いているので、王族を迎えることの気負いは特に無い。
 レティシアも、もう慣れたものだ。


「そう言えば……なんで王女さまだって分かったの?兄さんは断定してるみたいだけど……」

「カティア様がディザール様のシギルを発動したところを見たらしい。カリーネ様のものと思われる『王家の守護石』もお持ちだとか」

「ディザール様の……じゃあ間違いないね」

「そうだね。……それだけじゃなくて、エメリール様のシギルも発動できるらしいのだけど」

「「ええっ!!?」」

 アンリが明かす事実に、母娘は驚きの声を上げた。

 カルヴァード12神が各国の王族に授けた『シギル』は、当代一人のみ、一つだけ継承できる……それは常識である。
 2つのシギルを発動できる人物がいるなど……少なくとも、モーリス一家の面々は聞いたことがなかった。

 それだけでなく……エメリール神のシギルを受け継いでいたアルマ王国は数百年前に滅んでおり、以降は継承者が途絶えていたはずなのだ。
 その継承者が再び現れた……それも、彼女たちが驚愕する理由なのだ。


(ホントに物語の主人公みたいじゃないの。……もしかして転生チートとかだったりして)


 レティシアは内心でそんなことを思う。
 伝説の力を受け継いだ英雄姫。
 まさに物語の主人公に相応しい人物だと。



 そして運命の出会いは……もう、すぐそこまで迫っているのだった。

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