【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

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レティシア15歳 時代の変革者たち

第85話 土下座の人

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 また、とある日のモーリス商会にて。
 秘書のエリーシャがレティシアに来客を告げる。


「会長、ランドール様がいらっしゃいました」

「ランドールさん?なんだろ。工事関係かな……?応接室?」

「はい、応接室にお通ししました」

 ランドール商会は、鉄道開発事業に出資する商会の一つだ。
 主に土木工事関係を取り仕切っている。


「分かった、すぐ行くよ」

 そう言って彼女は書類もそのままに執務室を出ていった。

 部屋に残ったエリーシャは、テキパキと書類を分かりやすいように分類して整理し始める。






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「申し訳ありませんでしたぁーーーっっ!!」


 応接室の扉を開けたとたん、見事な土下座をして謝罪するランドール商会会長がレティシアを迎えた。



「あ、ランドールさん、こんにちは。今日も見事な土下座ですね~」

 異様な光景にも関わらず、レティシアはにこやかに挨拶する。
 ……どうやらそれは、いつもの光景らしい。


 ランドールがレティシアを怒らせたのは、最初の一度きりなのだが……
 その見事な土下座によってピンチを乗り切った経緯から、何かネガティブな話をする時は土下座から入るのが、彼の習慣と化していた。
 最初は止めていたレティシアも、すっかり慣れたものだ。


「それで、今日はどうしたんです?」

「は、はい……それが……」

 顔を上げたランドールは、申し訳なさそうに訪問の理由を話し始める。



「実は工事が予定よりも大幅に遅れている区間がありまして……」

「そうなんですか?前回の会議では、順調だって聞いてましたけど……」

「すみませんすみません!」

 再び土下座をしかねない勢いで謝るランドールをなだめながら、レティシアは遅れの原因を聞き出そうとする。



「実は、前回の報告時点では、まだ着工しはじめたばかりだったので……それは予定通りだったのですが、そのあと難工事となる事が少しずつ分かってきたんです」

「そっか~……そういう事ならしょうがないですね。それで、難工事……というのは?」

 事前にルート選定のため調査したときには、『大河』を除いて、そこまで難工事となる区間があるという報告は無かった。


「軟弱地盤です。どうやら過去にアレシア大河の氾濫域だった場所のようでして……湿地というほどではないのですが、相当な路盤強化工事を施す必要がある……とのことです」

「ふむふむ……じゃあスケジュールを見直さないとだね。え~と、工程管理表は……」

「こちらです」

「あ、ありがとうエリーシャ」

 いつの間にか応接室に来ていたエリーシャが、工事の進捗管理をするための資料をレティシアに手渡す。

 工事関係の話になることを見越して、応接室に来る前に関連資料を準備してきたのだ。
 デキる秘書である。


「工期はどれくらい伸びます?」

「およそ一ヶ月ほどかと」

「遅れ分の増員は?」

「調整可能です」

「増分の見積もりは後で下さいね。じゃあ、この工事は期間を伸ばして……ここの線路敷設と設備工事をこっちにずらして……ここは並行できるから……」

 ランドールに聞き取りを行いながら、管理表に書き込んでスケジュールを修正していく。


「うん、クリティカルパスじゃないみたいだから、全体スケジュールには遅れを出さなくて済みそうです」

「そうですか……良かったです」

 レティシアの言葉に、ランドールはほっと胸をなでおろした。
 初対面こそアレだったが、彼はなかなか真面目な人物のようだ。
 今は商会同士も良好な関係を築いている。



「まあ、不可抗力で遅れるのはしょうがないですよ。スケジュールを厳守するより、安全第一ということを忘れないでくださいね」

「はい、それはもちろんです」


 レティシアは関係各所に対しては、『安全第一』の意識を徹底するように伝えている。
 それは、最終的な成果物の品質が人の命に関わる……というだけでなく、作業従事者の安全管理も疎かにしてはいけないということだ。
 納期を守ることや、利益を出すことも重要であるが、安全であることは何よりも優先する。



「それじゃあ、引き続きよろしくお願いします」

「はい、お任せ下さい!……ところで、なんですが」

「?」


 ひとまず話は終わったと思いきや、ランドールには何か他の話があるようだ。

「レティシア様は……そろそろご婚約などは?」

 またその話か……と、彼女は顔をしかめそうになるが、何とかそれを我慢した。


「いえ……いまは鉄道開業のことで頭が一杯なので……」

「そうですか……実は……」

 と、彼は切り出した。
 いわく、『知り合いの息子に良い人がいる』とか、『得意先の青年が誠実そうだ』とか……あれこれ候補を上げてくる。

(……お見合い薦めてくる近所のオバちゃんみたい)

 内心で辟易としながらも、好意を無下にすることもできず……
 だが結局のところは『今は興味がない』と、やんわりと断った。

 そして、彼女の応えを聞いて残念そうにしながら、ランドールはモーリス商会をあとにした。








「……私、モテ期が来てるの?」

「それはそうですよ。モーリス家の家柄、類まれなる美貌、穏やかで明るい性格、モーリス商会会長としてのこれまでの功績と展望……モテる要素しかないですね。年齢を考えても、そろそろ……となるでしょうし」

「そ、そんな大層なものでは……」

 と、彼女は謙遜するが、エリーシャの言うことは正しいだろう。

 レティシアの心の内がどうあれ、周りの者はそういう目で彼女を見る。
 家柄や功績を見る者のは打算的な思いで、人柄を知るものは純粋な好意で……これからも彼女は、否が応でも注目を浴びることだろう。

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