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レティシア15歳 時代の変革者たち
第84話 牽引試験
しおりを挟む学園の入学試験を受けることになったレティシアであるが、それで日々の生活が大きく変わることもない。
試験に合格して実際に学園に入学することになれば、その生活も一変するだろうが……それも、まだ先のこと。
そんなわけで、今日も鉄道関係の仕事である。
公爵邸の裏、車庫兼工場の中。
作業員たちに混じってレティシアやリディーの姿はあった。
「トゥージスまでの線路は完成までもう少しかかるから……今日は先に客車の牽引試験をやってみよう!」
先日の初走行以来、これまでは機関車のみの単機による試験が行われていた。
本来であれば、実験線の全線開通を待ってから、単機の高速度試験を実施。
その上で、客車を連結した本格的な試験に移行……という予定であった。
しかし実験線の建設に遅れが生じているため、先に客車を繋いで試験をしようというわけだ。
今回は初回ということでリスクを想定し、連結する客車は1両だけということになった。
実車で連結・解放を行うこと自体も初めてのことであり、それも試験項目の一つ。
そして、車庫の中では機関車と客車は並んで格納されていて、連結するためには機関車を転線させる必要がある。
転轍機が正常に機能する事を確認するのも、今回の試験の一つだ。
「機能状態よし。前方よし。901型、最徐行で進行」
ピィッッ!
親方が指差し確認し、警笛を一つ鳴らしてから機関車がゆっくりと動き出す。
歩く速度くらいにゆっくりと、やがて車庫から出てすぐのところにあるポイントへと差し掛かる。
転線方向に切り替えられたポイントを先輪が通過すると、機関車は進行方向を変えた。
合流側のポイントも通過してから、機関車は一旦停止する。
そして、合流側ポイントを切り替えると、機関車と客車は同じ線路上に配置された。
機関車が、今度はバックで動き出す。
再び車庫の中に戻ってきた機関車と、客車が近づいていく。
「距離10…………5……はい、ゆっくり~!」
作業員の一人が手旗信号で誘導を始めると、歩くほどだったスピードはさらに緩やかになる。
そして、機関車と客車の緩衝器同士の距離が1メートル程のところで一旦停止。
ピッ!!
また警笛を鳴らしてから、最後の距離を詰めるためジワジワと動き出す。
「はい、やわやわ~……」
ガシャン……
「停止!!」
音を立ててバッファーが僅かに押し込まれたところで、機関車は停止した。
この状態で機関車と客車は密着したが、連結作業はこれからだ。
機関車と客車の間の隙間に作業員が潜り込む。
彼は、バッファーの間にある連結器……『ねじ式連結器』の、機関車側の鎖を客車側のフックにかける。
そして、鎖の途中にあるネジを回して締めていくと、鎖のたるみが無くなってピンと張り詰めた。
続いて、ブレーキ管や導魔管などのホース類を接続すると……連結作業は完了となる。
「連結完了!」
作業を終えた作業員が車両の間から抜け出して、完了を告げた。
今度は客車に乗り込んだ別の作業員がチェックを行う。
しばらくすると客車の照明が点灯し、窓から明るい光が漏れ出した。
この照明には、機関車から導魔管を通じて客車に供給されるサービス用の魔力が使われる。
照明の他、空調や車内アナウンスなどにも用いられる。
車両側に魔力池を装備する事も検討されているが、当面はこのような方式になるようだ。
「よ~し、それじゃあ牽引試験、始めるぞ!」
「私たちは客車に乗るよ!」
レティシアとリディー、他に何人かの作業員が客車に乗り込む。
901型魔導力機関車の設計上の牽引力からすれば、客車1両程度など余裕のはずだ。
なにせ営業時には10両以上も連結することになるのだから。
「よし!ブレーキ緩めるぞ!チェックしろ!」
親方が合図とともにブレーキを緩め、客車のブレーキ状態をチェックするように指示が飛ぶ。
機関車のコンプレッサーで作られた圧縮空気が、ブレーキ管を通って客車に供給されれば、客車のブレーキも緩む仕組みだが……
「公式側、前方台車はオーケーです!」
「同じく後方台車オーケー!」
「非公式側前方、問題なし!」
「同じく後方、よし!」
目視でブレーキシューが緩んだことを確認した作業員が、声を張り上げて報告する。
「よし!出発進行!」
ガチャンッ!!
連結部分から衝撃音を発し、列車は動き始めた。
単機の時と大きく挙動は変わらず、滑らかに加速する。
「うん、まだまだよゆ~だね」
「ここで躓いても困るからな」
リディーは当然とばかりにそう言うが、ほっとした様子でもあった。
レティシアとともに考え抜いた設計には自信をもっているし、親方たち製造部門の事も信頼している。
しかし、これから試験を重ねていけば、何か想定外の事が起こる可能性も十分にある。
だからこうして、一つ一つ試験項目をクリアするたびに胸をなでおろすのだ。
客車を牽いた機関車は徐行で実験線の終点まで進み、折り返しは推進運転で車庫まで戻る。
そうして何度か往復してから、最後は機関車と客車の連結を解放。
無事に本日の試験メニューを終えるのだった。
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