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レティシア15歳 時代の変革者たち
第82話 モヤモヤ
しおりを挟むフィリップとの婚約話は、正式に断ることとなった。
先方は、返事は急がないと言っていたが……
中途半端な気持ちのまま返事を引き伸ばすのは誠実ではない……レティシアはそう思ったのだ。
そして今はまだ、鉄道の正式開業に向けて全力を注ぐときであり、そのほかの事を考える余裕はない。
そういった事や、自分を選んでくれたことに対する感謝、そして謝罪を自ら手紙にしたため、フィリップに送った。
すぐに返事は来た。
その手紙には『大事な時期に惑わすような事をしてしまい申し訳ない』という謝罪から始まっていた。
続いて『今回は残念だが一技術者としてはこれからも交流を図りたい。予定通り視察には伺うから、どうかよろしく』と。
そして……『イスパルの鉄道が開業した暁には、ぜひ婚約の件も再考してもらえると嬉しい』とも。
どうやら長期戦を覚悟したようだ。
……いや、もともとそのつもりだったのかもしれない。
そして、手紙の内容からフィリップの真剣な気持ちを察したレティシアは……今回は答えを先延ばしにしてしまったが、自分も真剣に向き合っていこうと思うのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
モーリス商会会長室にて。
「ねぇ、リディー?」
「ん?」
「リディーはさ……そろそろ結婚とかしないの?」
今日も今日とて書類と格闘していた会長だったが……副会長が部屋にやってくると手を止めて、唐突にそんな質問をした。
「……どうした、藪から棒に?」
彼は一瞬だけ固まったものの、すぐに気を取り直して聞き返す。
「いや、なんとなく。恋人とかいないの?」
自分で聞いておいて、彼女は何だかモヤモヤを感じ始める。
「いや、いない。知ってるだろ?」
「知らないよ。じゃあ、気になる人は?……あ、ほら、エリーシャとか」
そう言えば前にエリーシャにも似たような質問をしたことがあったな……と彼女は思い出した。
その時も、リディーが誰かと……と考えて、モヤモヤした気持ちになった。
そして、もしリディーとエリーシャが……
そう考えたとき、『そうなったら嬉しい』という気持ちも確かにあるのだが、それで心が晴れることはない。
「エリーシャさんは仕事一筋って感じだからな……。それに、それは俺も同じかな。今はとにかく、鉄道の開業に向けて集中したい」
「……そっか。じゃあ私と同じだね!」
モヤモヤは晴れた。
そして彼女は、なぜそんな話をしたのか……その理由を話す。
「実はさ……私に婚約の申込みがあったんだよ」
「!」
レティシアの言葉を聞いて、リディーはピクリと眉を上げたが、黙って話の続きを聞く。
「ま、断ったんだけど。まだ私、そういうのってよく分かんないし……。それに、リディーと同じで今は鉄道の事しか考えられないから」
「……そうか」
どこか安堵したように彼は呟いた。
「変な話してごめんね。そう言えば、何か用事があったんじゃないの?」
「あぁ、そうだった。実験線の事で報告があったんだ」
入室早々に話をふられたが、リディーは本来の用件を思い出す。
「報告?何かあったの?」
「少し予定が遅れるとのことだ。何でも、建設ルート上にある森に厄介な魔物が住み着いてるらしい」
「魔物?イスパルナ近郊で、そんな強い魔物が出るなんて……珍しいね」
イスパルナは人口が多く、近郊には衛星都市も多い。
実験線はイスパルナから、衛星都市の一つであるトゥージスまでが予定されている。
その近辺には小型の魔物はそれなりに出没するものの、高ランクの強力な魔物が出現したなどという話は(少なくともレティシアは)聞いたことがない。
「まあ、強いといってもBランク程度ということだし、既に討伐のため冒険者も向かってるそうだ」
「そう、なら良かったけど。でも…………何か最近、なんとなく不穏な感じがするね……」
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その事件に彼女が直接関わることは無いが……
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