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レティシア12歳 鉄の公爵令嬢

第76話 鉄の公爵令嬢

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 式典は進み、様々な研究成果、技術、製品が表彰されていく。
 モーリス商会の名はまだ呼ばれていないが、『銅賞』以上の三賞を残すのみとなった。


『それでは、いよいよ三賞の発表です!!まずは『銅賞』!!アスティカント学院金属材料研究室の【高張力魔法合金における軽量化と強度向上の両立、及び製造技術革新による生産性向上に関する研究】です!!』

 研究タイトルを聞いたレティシアの目が、きら~ん!と光る。
 そして、研究内容の概略説明に真剣な様子で耳を傾け……

「リディー」

「もうコンタクトを取ってる。室長がマティス先生の知り合いだったから話も通しやすかったな」

「さっすが~!!」

 レティシアが名前を呼んだだけで、リディーは彼女の言いたいことを察して先回りして答えた。

 軽量かつ強度の高い金属材料は鉄道車両の車体や部品のみならず、建築部材などにも幅広く応用が考えられるため、モーリス商会研究開発室としても、常に
最新の研究成果についてチェックしているのだ。


 そして、二人の様子を横目で見ていたアデリーヌは……

(阿吽の呼吸なのね。そろそろ副会長の座も、彼に譲ろうかしら……)

 などと考えていた。



 その後、銀賞についてはヴァシュロン王国の魔道具工房が受賞。
 【生産・品質に関する新たな管理手法】という内容で、他の出展とは少し方向性が異なる内容だった。
 一般来場者の反応はいまいち薄いものだったが、銀賞受賞は評価が厳正に行われた事の証左であろう。

 フィリップは国内の停滞を嘆いていたが、結構新しい事も頑張ってるじゃないか……とレティシアは思った。



 そしてついに、残るは金賞の発表のみとなった。
 モーリス商会の名は、まだ呼ばれていない。

 レティシアはあまりの緊張感で、少し身体が震えている。


『さあ!!いよいよ金賞の発表です!!第5回技術開発品評会の栄えある金賞を受賞したのは……!!』

 これまで以上の激しいドラムロールが響き渡り、観客たちの期待感を煽る。

 レティシアは祈るようなポースで。
 それまで余裕の表情だったアデリーヌとリディーも、流石に緊張した面持ちで発表を待つ。


 そして……!


『金賞は!!アスティカント学院応用魔法工学研究室の【魔法触媒の遷移状態を活用した魔導回路の集積化、及び大規模演算の可能性に関する考察】です!!』

 発表とともにファンファーレが鳴り響き、この日最大の歓声が上がる。
 ……しかし、どこか戸惑うようなどよめきも起きていた。
















「「「……あれ?」」」

 モーリス商会の面々からも、気の抜けたような声が漏れた。


「うそ……選外……?」

 呆然としたレティシアが呟く。

「そんな馬鹿な……確かに唯一対抗馬になるかもしれないとは思ってたが……現段階の成果内容から考えればウチのほうが……」

 絶対の自信を持っていたであろうリディーも、茫然自失と言った雰囲気だ。

「というか、観客も戸惑ってるわよね……」

 アデリーヌが言う通り、来場者に好評だったかどうかは評価に関係ないとは言え、モーリス商会が選外というのは殆どの人々が納得していない様子だった。
 それどころか、司会に促されてステージに上がった受賞者も、不思議そうに首を傾げている。


 そんな空気をよそに、ステージ上には国王ユリウスが登場し、表彰のセレモニーが続けられる。
 受賞者は戸惑いの様子を見せつつも、金賞受賞の喜びと感謝の言葉を述べる。

 続いて国王の祝福の言葉を賜わり……何事もなく式典は進む。


 その時、ステージ上のユリウスの視線がレティシアの方に向くと、何やらいたずらっぽい表情になった。


『さて、これで全ての表彰が終わった……と、皆は思っているかもしれないが、実は今回はもう一つだけあるのだ』

「え……」

 国王の言葉に会場はどよめき、レティシアは再び戸惑いの声を漏らす。


『皆も、なぜモーリス商会が選ばれていないのだ、と思ってるだろう?』

 戸惑う空気が期待に変わっていく。


『実は今回、我の提案で新たな賞を設けているのだ。歴史的な偉業となる成果に対して贈る賞……栄えある初代受賞団体の代表者に因み……【レティシア=モーリス賞】の設立をここに宣言する!』

「えぇーーーっっ!!??」

 レティシアの絶叫は、観客たちの大歓声に掻き消された。



「……流石は陛下、盛り上げるのがお上手だわ」

「そう言えば……ウチの出展を打診してきたのは陛下だったな……これを狙っていたのか」

「そうでしょうね。箔をつけて鉄道建設の気運を高める……国の事業としてやりやすくするのが狙いね」

 リディーとアデリーヌの会話はレティシアの耳に入ってこない。


(『レティシア=モーリス賞』って何っ!?は、恥ずかしいーーっっ!!)

 彼女は身悶えしながら顔を赤くする。
 そしてステージ上に呼ばれた幼い少女に視線が集まり驚きの声が上がる。



 


 その時の記憶は全く覚えていない……と、彼女は後に語る。

 そしてその日以降、彼女の名は広く世間に知られることになった。




 『鉄の公爵令嬢』の二つ名とともに……




~~ レティシア12歳 鉄の公爵令嬢 完 ~~
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