【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
73 / 191
レティシア12歳 飛躍

第63話 王都への道

しおりを挟む


 モーリス公爵領領都イスパルナから王都アクサレナまでは、馬車でおよそ一週間前後の道のりだ。
 レティシアはこれまで何度か往復したことがあるが……前世の便利な乗り物の数々を知る身としては、延々と馬車に揺られているのは少々苦痛に感じるものである。
 公爵家の馬車は広々としていて、サスペンション(鉄道用に開発した技術を応用してる)も効いているので、平民が使うような乗合馬車とは比べ物にならないほど快適ではあるのだが。


(でもやっぱりスピードがねぇ……)


 馬を全力で走らせれば40km/hくらいは出せるかもしれないが、普通はそんなスピードで走らせることはしないだろう。
 こまめに馬を休ませる必要もあるので、結局のところ徒歩と比べてそこまで速いわけではない。


「やっぱり鉄道の使命は重要だわ。がんばろ!」


 そんなふうにレティシアは想いを新たにする。

 そして鉄道敷設に向けての計画を検討したり、技術的な課題解決について考えたり……彼女には色々とやるべき仕事があった。
 馬車の長旅でも、彼女には退屈するような暇は無いのである。


 そんなふうに暫くは書類とにらめっこしていたレティシアであったが、ふと思い出したように顔を上げて同乗者に声をかけた。


「ねえ、パーシャ?仕事にはもう慣れたかな?」

 主人の仕事の邪魔をしないようにと、時折お茶を淹れるとき以外は静かに控えていたメイドの少女。
 声をかけられたパーシャは驚きの表情を見せたが、それも一瞬のこと。
 すぐに笑顔で答える。

「はい。まだまだ至らぬ点もあるとは思いますが、レティシア様も先輩たちも良くしてくださるので。とてもやりがいのある仕事だと思っております」

「そっか、そう言ってもらえて良かったよ。でも今回はちょっと退屈じゃない?」

「いえ、むしろ……お嬢様と同乗させていただいて、私だけ楽をさせてもらってるのが心苦しいところです」

「あはは!そんなの気にしなくていいんだよ。あなたはエリーシャの後任なんだから堂々としていれば……ね」


 他の使用人たちや護衛の騎士たちは基本的には馬車の外で徒歩で移動している。
 使用人用の馬車もあるが、全員がそれに乗っているわけではなく徒歩と交代しながらだ。

 なのでパーシャは、まだ新人の若輩者が楽をするなんて……と思っていた。

 彼女はレティシアが言った通り、エリーシャの後任の専属メイドだ。
 エリーシャがモーリス商会におけるレティシアの補佐に専念したい……という意向を受けて指名された。
 当然ながら、常にレティシアの側に控えて世話をするのが役割である。

 だから彼女を『楽している』と責めるものなどいないし、彼女が心苦しく感じるのは全くの杞憂に過ぎない。



 そして前任者のエリーシャといえば……
 最初は彼女も同道する予定だったのだが、何かと準備が必要となるため、リディーを含めたモーリス商会研究開発部門の数名と一緒に先行して王都に向かったのである。



(そう言えば……リディーとエリーシャってお似合いだよね?私より年齢も近いし……)

 と、そこまで考えて、レティシアは自分の中に再びよく分からないモヤモヤが湧き上がるのを感じた。
 しかし、彼女はそれに目を向けることもなく、すぐに心に蓋をした。
 これまでもそうしてきたように……














「ん~……駅は、イスパルナ、トゥージス、アレイスト、プレナ……そしてアクサレナ。主要駅はそんなところだろうけど、駅間距離を考えるともう少し必要かな?アクサレナはそろそろ駅を作る場所も検討し始めないとだね~」

 レティシアはゆっくりと流れる車窓をぼんやりと眺めながら、どこに駅を設けるべきか考えていた。
 イスパルナ~アクサレナ間のルートとしては、今まさに馬車が進んでいる『黄金街道』にそって敷設する予定となっている。
 彼女が今挙げた駅設置の候補は、何れも黄金街道の主要な町となる。

 だが、これらの町の間はかなりの距離があり、何かあったときの退避という意味でももう少し駅が必要になるだろうと、彼女は考えていた。


「あとは実際に建設が始まったら……あそこが問題になるよねぇ……」

 これから順調に国からの建設許可が降りたとして。
 最大の難所となるであろう場所を思い浮かべ、彼女は眉をひそめる。


 馬車はこれから、ちょうどその場所に差し掛かろうとしていた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...