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レティシア12歳 飛躍
第63話 王都への道
しおりを挟むモーリス公爵領領都イスパルナから王都アクサレナまでは、馬車でおよそ一週間前後の道のりだ。
レティシアはこれまで何度か往復したことがあるが……前世の便利な乗り物の数々を知る身としては、延々と馬車に揺られているのは少々苦痛に感じるものである。
公爵家の馬車は広々としていて、サスペンション(鉄道用に開発した技術を応用してる)も効いているので、平民が使うような乗合馬車とは比べ物にならないほど快適ではあるのだが。
(でもやっぱりスピードがねぇ……)
馬を全力で走らせれば40km/hくらいは出せるかもしれないが、普通はそんなスピードで走らせることはしないだろう。
こまめに馬を休ませる必要もあるので、結局のところ徒歩と比べてそこまで速いわけではない。
「やっぱり鉄道の使命は重要だわ。がんばろ!」
そんなふうにレティシアは想いを新たにする。
そして鉄道敷設に向けての計画を検討したり、技術的な課題解決について考えたり……彼女には色々とやるべき仕事があった。
馬車の長旅でも、彼女には退屈するような暇は無いのである。
そんなふうに暫くは書類とにらめっこしていたレティシアであったが、ふと思い出したように顔を上げて同乗者に声をかけた。
「ねえ、パーシャ?仕事にはもう慣れたかな?」
主人の仕事の邪魔をしないようにと、時折お茶を淹れるとき以外は静かに控えていたメイドの少女。
声をかけられたパーシャは驚きの表情を見せたが、それも一瞬のこと。
すぐに笑顔で答える。
「はい。まだまだ至らぬ点もあるとは思いますが、レティシア様も先輩たちも良くしてくださるので。とてもやりがいのある仕事だと思っております」
「そっか、そう言ってもらえて良かったよ。でも今回はちょっと退屈じゃない?」
「いえ、むしろ……お嬢様と同乗させていただいて、私だけ楽をさせてもらってるのが心苦しいところです」
「あはは!そんなの気にしなくていいんだよ。あなたはエリーシャの後任なんだから堂々としていれば……ね」
他の使用人たちや護衛の騎士たちは基本的には馬車の外で徒歩で移動している。
使用人用の馬車もあるが、全員がそれに乗っているわけではなく徒歩と交代しながらだ。
なのでパーシャは、まだ新人の若輩者が楽をするなんて……と思っていた。
彼女はレティシアが言った通り、エリーシャの後任の専属メイドだ。
エリーシャがモーリス商会におけるレティシアの補佐に専念したい……という意向を受けて指名された。
当然ながら、常にレティシアの側に控えて世話をするのが役割である。
だから彼女を『楽している』と責めるものなどいないし、彼女が心苦しく感じるのは全くの杞憂に過ぎない。
そして前任者のエリーシャといえば……
最初は彼女も同道する予定だったのだが、何かと準備が必要となるため、リディーを含めたモーリス商会研究開発部門の数名と一緒に先行して王都に向かったのである。
(そう言えば……リディーとエリーシャってお似合いだよね?私より年齢も近いし……)
と、そこまで考えて、レティシアは自分の中に再びよく分からないモヤモヤが湧き上がるのを感じた。
しかし、彼女はそれに目を向けることもなく、すぐに心に蓋をした。
これまでもそうしてきたように……
「ん~……駅は、イスパルナ、トゥージス、アレイスト、プレナ……そしてアクサレナ。主要駅はそんなところだろうけど、駅間距離を考えるともう少し必要かな?アクサレナはそろそろ駅を作る場所も検討し始めないとだね~」
レティシアはゆっくりと流れる車窓をぼんやりと眺めながら、どこに駅を設けるべきか考えていた。
イスパルナ~アクサレナ間のルートとしては、今まさに馬車が進んでいる『黄金街道』にそって敷設する予定となっている。
彼女が今挙げた駅設置の候補は、何れも黄金街道の主要な町となる。
だが、これらの町の間はかなりの距離があり、何かあったときの退避という意味でももう少し駅が必要になるだろうと、彼女は考えていた。
「あとは実際に建設が始まったら……あそこが問題になるよねぇ……」
これから順調に国からの建設許可が降りたとして。
最大の難所となるであろう場所を思い浮かべ、彼女は眉をひそめる。
馬車はこれから、ちょうどその場所に差し掛かろうとしていた。
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