72 / 191
レティシア12歳 飛躍
第62話 主従
しおりを挟むレティシアが社交界デビューの話を聞かされた翌日。
今日も彼女はモーリス商会の会長室で書類仕事をしていた。
何かと決裁が多く、その分を鉄道開発の作業に時間を取れないのが最近の悩みのタネであった。
「ねぇ、エリーシャ?」
「何でしょうか、お嬢様?」
ふと……気分転換と言うわけではないだろうが、昨日の話を思い出したレティシアは、秘書(のような役割)のエリーシャに話しかける。
「エリーシャは結婚はまだしないの?」
エリーシャはレティシアが5歳の時から専属メイドとして仕えている。
その時、彼女は15歳……それから7年経ち、今は22歳だ。
もう既に結婚していてもおかしくない年齢と言える。
「また突然ですね……。まぁ、そんなに慌ててするつもりはないですけど、そもそもお相手がいませんから……」
「そうなの?エリーシャは美人だし、よく気が付くし、優しいし……引く手数多だと思うんだけど」
「ふふ、ありがとうございます。でも、今は恋愛よりも仕事が楽しいですから」
「本当?……えへへ~、そう言ってもらえると嬉しいな~。でも、良い人ができたらちゃんと言ってね。仕事のせいで行き遅れなんてなったら……私の責任問題だよ」
「そんなことは……でも、ありがとうございます。ですが、急にどうしたんですか?」
今までそんな話題をふられた記憶が無いエリーシャは、不思議そうに聞く。
これまでずっと側で仕えてきたが……恋愛に興味がある素振りすら見せたことがなかったのだ。
「うん、それがね……」
レティシアは、昨日の公爵夫妻との会話を思い出し、エリーシャに説明する。
………………
…………
……
「……と言うわけなんだよ」
「あぁ、なるほどですね。確かに、お嬢様でしたら婚約者……婚約者候補くらいは、いらっしゃるのが普通かもしれませんね」
レティシアの説明を聞いたエリーシャは、納得した様子で言った。
「まぁ……そう、だよねぇ……」
「……お嬢様は、リディーさんが好きなんじゃないですか?」
エリーシャは言おうかどうか迷ったが、いまいちピンと来ていない様子のレティシアに言う。
普段の様子を見れば、少なからず好意を寄せているのは明白だ。
しかし、それが恋愛感情によるものなのかは、エリーシャにも分かっていなかった。
しかし、例え今はそうでなくても、意識させることで自覚することもあるかも知れない……そう思ったのだ。
「リディー……?う~ん……そういうのとは、ちょっと違うと思うんだけど……」
やはりしっくりきていない様子のレティシアだが……
(まぁ、でも……誰かと結婚しなければならない、って言うのなら……リディーは有りかなぁ?行き遅れたら貰ってもらおうか……でも、彼は凄いイケメンだし、その頃にはとっくに良い人を見つけてそうだけど)
そんなふうに考えると、何かモヤモヤした感情が湧き上がるのだが……それが何故なのか、彼女は分からなかった。
「まぁ、その話はいいや。とにかく、近日中には王都に出発するんだけど……エリーシャも一緒に来てくれる?」
「はい、もちろんです。……あ、そうだ。いい機会ですから、パーシャも連れて行ってもらえませんか?」
パーシャというのは、最近使用人として公爵家に仕えるようになったエリーシャの従妹だ。
現在、レティシアの専属メイドはエリーシャなのだが、最近何かと商会の方で秘書的な仕事が増えてきたので、そちらの方に専念したいと主人共々考えていた。
なので、専属メイドはパーシャに引き継ごうとしているのである。
「あ、そうだね~。もう結構仕事にも慣れたみたいだし……流石エリーシャの従妹は優秀だよね~」
「私など大した事はありませんけど……そう言っていただけるとあの娘も喜びます」
主人にそう評されて嬉しそうに言うエリーシャ。
……本当は、ずっと側に仕えたい言うのが本音なのだが、主人のために彼女は常に最善の選択を考えるのであった。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる