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レティシア12歳 飛躍
第60話 王都技術開発品評会
しおりを挟むレティシアが冒険から帰ってきてから数日が過ぎた。
あの日、思いがけない強敵と遭遇し、冒険者達と力を合わせて困難を乗り越えたレティシアは……
「はぁ~……もう、冒険は懲り懲りだね~」
特に冒険の魅力に取り憑かれるなどということはなく、自分には向いていないという事を改めて認識したのだった。
(ほっ……)
レティシアの呟きに、内心で安堵の息をつくエリーシャである。
ただ、レティシアとしては……自分が今後冒険に出る事はもう無いが、せっかく知己となったフランツたち冒険者との縁は切りたくないと思った。
短い間ではあったが、彼らは実力も人柄も信頼が置けるし、今後モーリス商会として何か機会があれば彼らに指名依頼を出そう……そう、レティシアは思うのだった。
さて、彼女たちが今居るのはモーリス商会の会長室である。
鉱山の視察という名目で冒険に出ている間に溜まっていた書類を裁いていたところなのだが……
「ん……?これは……」
レティシアは、決裁書類の一つに目を留める。
彼女は一見して適当に書類を見ているように見えるが……実のところ、やはり適当に見ている。
いや、とは言っても重要度を判別するくらいには目を通しているので、気になるものがあればしっかり確認するのだが。
「どうされました?」
「うん、これなんだけど……」
そう言って、気になった書類をエリーシャに見せる。
「え~と……『王都技術開発品評会』?」
「……に参加する為の伺いだね。起案は……リディーか」
と、起案書を二人で確認していたとき……
コンコン……
と会長室の扉がノックされた。
「は~い、どうぞ~」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、今しがた話に出ていたリディーであった。
「あ、リディー……丁度良かったよ」
「ん?……あぁ、それか。俺もその話をしに来たんだ」
「ふむ……?なんなのコレ?」
書類をヒラヒラさせながらレティシアが問う。
モーリス商会として、何らかの催し物へ参加する為の提案……ということは何となく察しはつくが、起案した当人から直接聞いた方が分かりやすいだろう。
「書いてある通りだ。アクサレナで近年開かれるようになった催し物なんだが……各工房や魔導具職人、研究者達が開発した革新的なモノや技術をお披露目する大会……だそうだ」
「ふ~ん……それに、ウチが参加するって事?」
「ああ。実は国王陛下からモーリス商会も参加してもらえないか、と打診が来ているらしくてな……」
「陛下が?」
「まぁ、打診が無くとも参加しないか?と持ちかけようとは思っていたんだけどな」
「?」
「お前の夢は鉄道を世界中に普及させることなんだろう?その為には、自分で開発した技術を独占するつもりもない……とも言っていたな」
言葉は淡々としているが、リディーがレティシアを見つめるその眼差しには、優しい色が浮かんでいた。
自分の意志を尊重してくれたのだと思うと、レティシアは嬉しい気持ちになるのだが……
「た、確かに前にそう言ったかもしれないけど……もう、鉄道の開発については私だけのアイディアじゃないし……皆の意見も聞かないと」
「親方やマティス先生などの主だったメンバーには賛同を得ている。……と言うか、レティの方針には開発部の連中は皆共感しているから全く問題ない」
「そ、そうなんだ……」
リディーの言葉を聞いて、レティシアは何とも面映ゆい気持ちになるが……素直な性格のため、嬉しさが表情に出るのが隠しきれない。
そんな彼女を見て、リディーとエリーシャは、暖かな気持ちが込み上げてくるのだった。
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