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レティシア8歳 転機
第39話 トップセールス2
しおりを挟む「……ということで、鉄道がもたらす効果は多岐にわたり、計り知れないものなのです!」
レティシアの熱弁は、そう締め括られた。
いつの間にやら説明資料が配布され、更にはポスターを貼ったボードまで持ち込んで、図やグラフ、数値情報を提示しながら説明を行ったのである。
交流人口の増加、観光業の発展、農産物の流通地域の拡大、輸送コストの低減……
それら諸々の効果がもたらす経済規模の拡大、国の税収増……などなど。
もちろん全てをレティシアが考えたわけでは無い。
アンリやアデリーヌ、モーリス領の経済担当執政官などにも相談した上で纏めたものである。
「もちろんこれは、あくまでも理想的な推移をした場合の都合の良い予測であることは否めません。ですが、決して全くの絵空事ではないとも思っております」
「うむ……」
(……本当に8歳なのか?例えこれらの資料を他の者が準備したとしても……それを完璧に理解してなければこんなプレゼンができるはずもない)
ユリウスは内心で驚愕していた。
説明は分かり易く説得力があり、今後国としても積極的に関わっていきたい……そう思わせるほどのものだった。
それを行ったのが眼の前の幼い少女だ。
幼いながらも優秀だという噂は聞いていたし、実際話を聞くのを楽しみにしていたが……まさかこれほどとは、とユリウスは思っていた。
(先入観は持っていないつもりだったが、まだどこかで侮っていたな。これは、今一度認識を改めなければ)
「なかなか興味深い話であった。なるほど、確かに鉄道というのは魅力的であるな」
「ええ、本当に。国としても議論する価値があると思いました」
「本当ですか!?」
二人から好感触を得て、思わず身を乗り出すレティシア。
「ああ。だが、何分前例が無いことでもあるからな。国の上層部を納得させるためにはもう少し説得材料は必要だと思う」
「あ、はい。それは元々考えていて……先ずは半分くらいの大きさの模型を作ってデモンストレーションしようかと考えてました」
「うむ。既に考えているならそうしてくれ。それで……レティシアは当面、我々にどう動いてほしい?」
「そうですね……先ずは法整備に向けての議論を」
最終的な目標を思えば、それは必須であろう。
建設、運行にあたっての安全管理基準などを始めとして、様々な決め事が有る。
予めこれらが整備されていれば、レティシア……モーリス商会以外の事業者が参入しやすくなるだろう。
レティシアは鉄道事業を独占するつもりは毛頭ない。
彼女の目的は鉄道の旅を楽しむことだから、様々な事業者が参入することは、むしろ歓迎すべきことなのだ。
なので、鉄道に関わる技術についても、特許は取得するつもりだが、参入事業者に対しては優遇するつもりだったりする。
「ふむ、その辺は初めてのことだから、しっかり意見交換していかねばな。本格的に動くのはまだ先だろうが……内々で関係しそうな者には話を通しておこう」
「ありがとうございます!それで、その……あとは、予算的なものが都合が付けば……土地の取得だけでもかなりかかるので、モーリス商会だけでは何とも……」
モーリス領内であれば領主のアンリと調整すればある程度は何とかなるが、他の領ではそうはいかない。
「ああ、それはそうであろうな。だからこそ国家事業に認定してもらいたいのだろう?」
「はい」
「ならば、先ずはそなたが考えていると言うデモンストレーションに注力するのだな。それが成功すれば、自ずと国家事業にと推す声も出てくるだろう。そうなれば、我々も動きやすくなる。予算措置もな」
「はい!」
結局のところ、レティシアがずっと考えていたシナリオの通りに動くということだ。
だが、こうして実際に国のトップに話をして理解を得られたことで……ただの夢物語が現実になっていくことを、彼女は実感するのだった。
「うむ。実に実りのある話ができたな。私もそなたの夢が実現できるよう、力を尽くすよう約束しようではないか」
「今はあなたの夢ですが……この事業は、きっと多くの人々の夢となる事でしょう。そして、この国……いえ、世界中に大きな変革をもたらして、新たな時代の幕開けを告げることになる。私は、そう思います」
「陛下、王妃様……私は、きっとそうなるように頑張ります!!」
レティシアのその宣言に、その場の誰もが暖かな眼差しを彼女に向けるのであった。
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