【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

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レティシア8歳 転機

第38話 トップセールス

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「陛下、まだ慣れませんか?」

「あ~、まぁ、そうで……そうだな」

 国王夫妻を迎えたモーリス家は、邸の中で最も広く格調高い応接室へと案内した。
 ユリウス、カーシャの国王夫妻が上座に座り、アンリ、アデリーヌ、リュシアン、レティシアの公爵家の面々が対面に座る。


 そして、使用人を下げたところでの先のアンリの発言だ。
 それに対するユリウスの返事はどこか歯切れが悪い。

 それが何故かと言えば……


「いや、もともと俺は伯爵家の三男だから……こうして国王になるなんて思いもよらないことだったのでな」

 そう、ユリウスはもともとイスパルの王族の血筋ではない。
 イスパルの王家の血脈は王妃カーシャが受け継いでいるのだ。
 彼女は自らは王の器ではないと、夫に王権の殆どを譲っているのである。


「何をおっしゃいますか。元々は王婿に内定されていた御身でありましょうに」

「そう……だな」

「あなた……それは」

「……コホン。失礼しました」

「いや、今でも……縮小したとは言え、捜索を諦めたわけではない」

「そうです。カリーネ姉様は……」

 そこで会話が途切れ、沈んだ空気になってしまった。

 レティシアは今の会話がよく分からなかったが、リュシアンはある程度事情は把握しているようだ。



「……っと、しんみりしてしまったな。話題を変えようではないか」

 その場の空気を変えようと、ユリウスは殊更明るい調子で続ける。

「それでだな、今回モーリス領を訪れたのは……レティシア、そなたに会うためなのだが……」

「え?わ、私に……ですか?」

「ん?何だ、聞いておらぬのか?」

 レティシアは自分が話をするのは、ついでの事だと思っていたので、ユリウスからそう言われて驚いている。


「そなたが開発していると言う『鉄道』とやらに興味があってな……それでモーリス公爵に訪問を打診したのだよ」

「アンリ様から、あなたも国とのパイプを欲してると聞いたから……ちょうど良いかと思って」

 ユリウスとカーシャは、そう説明する。

 それを聞いたレティシアは、ジト目でアンリを見やるが、彼は悪びれずに言う。


「いや、ただ陛下がいらっしゃると聞いただけで緊張するくらいだ。キミに会うためだなんて聞いたら、もっと大変だっただろう?」

「……まぁ、確かにそうかもだけど」


「ふふ…そんなに緊張することなんて無いのよ?王家とモーリス公爵家は親類関係にあるのですから」

 元々モーリス家は王家から分家した血筋である上に、王妃・王婿を輩出することも多々あったので、カーシャの言う通り親類関係にあると言って良い。


「だから、私達のことは親戚のおじさん、おばさんくらいに思ってくれると嬉しいわ」

「…はい、分かりました。でも、お二人共お若いので、どちらかと言うと……親戚のお兄さんお姉さん、の方がしっくりきますね」

「まぁ!お世辞でも嬉しいわ」

(別にお世辞じゃないけど……実際、陛下はともかく、王妃様はお幾つなんだろ?)

 ユリウスも若く見えるが、ある程度年齢の予測は付く。
 だが、カーシャは……十代の少女にも、二十代半ばくらいの妙齢の女性にも見えた。
 年齢不詳な上に不思議な雰囲気を感じるのだ。
 あるいはそれが……神々の眷族たる血筋の特徴なのかもしれない。













「それで、鉄道についての話を聞かせてもらえるだろうか?」

「はい。では、先ずは鉄道とはどのようなものか、から」

 ユリウスに請われ、レティシアは話をはじめる。
 鉄道というものがどのようなものか。


 多くの人々や大量の貨物を効率的に輸送するという最大の利点。
 そして、馬車とは比べ物にならない画期的な交通システムを構築することで流通革命をもたらし、大きな経済発展に繋がるであろう事を熱弁する。

 彼女が5歳の頃から地道に努力を重ねて開発を行い、今現在はもう少しで実現の目処が立ちそうなところまで来ている事。
 前世の知識の恩恵はあるものの、それは間違いなく彼女がこの世界に来てからの努力の結晶だ。


 弱冠8歳の少女の熱意ある話を、国王夫妻は黙って真剣に聞き入るのであった。
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