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レティシア8歳 転機
第34話 魔導力モーター
しおりを挟む一先ず魔導力モーターの試作品を作ることになったモーリス商会研究開発部門のメンバーは以下の通りである。
主任設計士 :レティシア(会長兼任)
魔導設計士 :リディー
魔導アドバイザー:マティス
製造責任者 :マルク(マルク工房より出向)
まだ立ち上げたばかりということもあり少人数だが、今後資金が増えて開発が本格化すれば、人数も増えていくことになるだろう。
そして、先ずはレティシアが最近設計したものを元に試作することとなった。
彼女が設計した魔導モーターは、前世で鉄道車両に使われていた『直巻整流子電動機』を参考にしている。
電磁石を単純に魔法属性を帯びた鉄(魔化鉄と名付けられた)に置き換えた形だ。
そして電流の代わりに魔力を流すことになる。
入力された魔力に属性を与える魔導回路に用いる術式などについては、リディーやマティスの意見を参考にブラッシュアップされた。
また、魔力を貯めておく仕組みは別途開発が必要になるが……
ただ、今回の試作品は取り敢えず小型のものなのでそれほど出力は必要とせず、一般的な魔道具にも広く使われている蓄電池…ならぬ蓄魔池を用いることにした。
レティシアが懸念した耐久性については親方に相談したところ、オイルレスメタルのようなものがあったので、それを軸受に採用した。
各部品の精度や摺合せ等は工作機械の精度の限界もあるのだが、そこは親方や工房の職人たちの熟練の技に頼ることになった。
安定的な生産や精度を高めるためにはそちらも何とかしないと……とレティシアは考えている。
そうして何人もの力を合わせることで、ついに魔導力モーターの試作品が完成するのであった……!
「ついに……ついに出来たよ!魔導力モーター!!」
モーリス商会本店地下の研究開発室に運び込まれたそれを目の前にして、レティシアは興奮を抑えきれない様子だ。
それも無理はないだろう。
5歳の頃に前世の記憶を取り戻し、この世界に鉄道を創ると決めてから早3年。
トロッコは比較的直ぐに作ることが出来たが、そこから先……本格的な鉄道車両には不可欠な動力にようやく目処が立つかも知れないのだから。
「喜ぶのはまだ早いぞ。これから試運転してみなければ……」
リディーは冷静にそう言うが、その顔を見れば彼も少し興奮しているのがよく分かる。
「うん!……親方はもう動かしてみたの?」
「いいや、まだだ。本来だったら工房の責任として動作確認はやるべきなんだが……何と言っても記念すべき初起動だ。嬢ちゃんを差し置いて出来ねえな」
「そんな気を使わなくても良いのに……でも、ありがとう親方!!」
「おうよ。まぁ、嬢ちゃんの設計だ。それに坊主やマティス先生からもお墨付き。必ず成功するさ」
「親方……坊主はやめてください……」
リディーが苦笑いして言う。
彼と親方はまだ短い付き合いだが、今回の魔導モーターの作成に際しては色々と意見のやり取りをするうちに、かなり打ち解けたようだ。
「私はそれほど大した事はしておらぬよ」
「先生、そんなことないです!皆それぞれ知恵を出し合ったから。こうして完成出来たんです!これが成功すれば……それは皆の偉業ですよ!」
レティシアは謙遜ではなく、本心からそう言う。
その気持ちは他の面々にも伝り、何よりの労いの言葉となった。
「よし、それじゃあ……動かしてみよう!!」
魔導力モーターを蓄魔池に配線し、いよいよ初起動となる。
配線の途中にあるスイッチをONにすれば、蓄魔池に蓄えられた魔力が配線を流れ、魔導力モーターが起動するはずである。
レティシアの感覚としては、電池に繋がれた電動モーターと全く同じであった。
「いくよ~……スイッチ・オン!!」
掛け声とともにレティシアがスイッチを入れると、直ぐに魔導力モーターから『フィーーーン……』という音がし始めた。
「動いた……動いたよっ!!」
「よし。成功だな」
「うむ。見事だ」
「へへっ……うちの工房の自信作だ。当然だな」
魔導力モーターが問題なく起動したことを受けて、それぞれが喜びの声を上げる。
魔導力モーターは想定通り動作し、今も独特の音を立てて軸を回転させている。
「……起動したのは良いけど」
「どうした?」
「いや。何も繋げずにただ動かすだけだと地味だなぁ……って思って」
「まぁ、そうだな……」
「まぁいいや。動くのは分かったから、後は想定通りのトルクが出てるかとか、色々測定しないとね」
レティシアとリディーが設計するに当たり、ある程度の出力の計算も行っている。
だが、それはあくまでも机上でのものなので、想定通りの性能が出ているかどうかはこれから調べなければならない。
「先ずは負荷状態からの起動試験か?」
「そうだね。あとは魔力の消費がどれくらいかとか……とにかくどんどん課題を洗い出してブラッシュアップしないとね!」
「また試作が必要になったらどんどん言ってくれ!」
先ずは成功となった魔導力モーターに、にわかに活気づく研究開発室の面々。
これはまだ長い鉄道開発の道程の一歩に過ぎなかったが……彼らの表情には希望が満ち溢れているのだった。
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