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レティシア8歳 転機
第27話 ブレイクスルー
しおりを挟む「レティ、アスティカントから研究論文が届いたけど…もう図書室に収蔵したから、後で確認すると良いよ」
ある日、レティシアは夕食の場でアンリからそのような報せを受けた。
モーリス公爵家はアスティカントに寄附を行っているので、毎年の研究成果を記した論文が送られてくるのだ。
それはかなりの量になるのだが、レティシアは毎年欠かさずそれをチェックしている。
当然、何か鉄道に応用できる技術が無いか確認するためだ。
「ありがとう、父さん。後で見てみるよ」
「何か画期的な研究成果があるといいね」
「うん!」
あの日、トロッコ列車のお披露目をしてから、何かとアンリは鉄道開発の事を気にかけてくれている。
娘の頑張りを純粋に応援したい気持ちが大部分だが、上手く行けば公爵家の利になるという打算も多少はあるのだろう。
どちらにしてもレティシアにとっては有り難いことではある。
「そうそう、レティが作った魔道具の事なんだけど…」
この三年間、レティシアとしては鉄道開発においてあまり成果が上がっていないと考えているが、研究開発の副産物として幾つかの魔道具が作られた。
例えば…
客車の快適性には必要不可欠な空調機器。
空気ばねに使うためのコンプレッサー。
前照灯に使うための高輝度なライト。
などなど…
鉄道に関連しないものも幾つかあり、洗浄機能付きのトイレなどは既に公爵邸に設置されて好評だ。
これらの魔道具の特許権利は全て製作者であるレティシアに有り、かなりの利益を上げている。
「…商会を立ち上げないかい?公爵家が出資しているところでも良いのだけど…利益を開発資金に当てることもスムーズに出来るし、直営が良いのでは、と思ってね」
「商会かぁ……直営と言うことは、父さんが会長ってこと?」
「いや、キミだよ」
「へ!?だ、だって、私…まだ8歳だよ?」
「別に商会の代表者に年齢制限なんて無いさ」
事もなげにアンリはそう言う。
レティシアが唯の幼女ではない事は今更言うまでもない。
彼女が会長になることについては全く問題視していないのだ。
「自分が会長になれば、いちいち私を通さなくても自分の裁量で自由に資金繰りが出来ると思うけど…?」
「むむむ……確かにそれはアリかも……」
「もし設立する気なら、もちろん私やアデリーヌも手伝うよ。初期投資は今迄の魔道具の特許料で十分だね」
それが決め手となった。
「決めた!父さん、私商会を立ち上げるよ!」
「分かった。じゃあ、諸々の手続きの準備はしておこう」
「ありがとう!」
翌日、レティシアは早速新たな研究論文を確認するため図書室を訪れていた。
(さて…今年はどんなのが有るのかな?大抵は基礎研究が殆どだから、実用化に直結するようなものは中々無いのだけど…何か使えるモノがあれば良いね)
図書室にやって来たレティシアは、まだ未読のものが集められている書棚を確認する。
最近ではレティシアの為にそのような区分けをしてくれてるのだ。
「え~と…アスティカントの論文は……ここからかな?」
きちんと整理されているので、目的のものは直ぐに見つけることができた。
何冊かまとめて引っ張り出して、図書室に備え付けの机に広げて読み始める。
何れは全て目を通すつもりだが、今日主に見るのは工学、土木建築、材料工学、そして魔法学の論文だ。
集中力を高めて、殆ど速読術レベルのスピードでページをどんどん捲っていく。
お付きのエリーシャは最初は驚いたものだが、今となっては慣れたものだ。
彼女は、レティシアが読み終わった書物のタイトルをメモして既読の棚に収めたり、新たな書物を未読棚から持ってきたり…と主の手伝いをする。
そうして、しばらくは読書に没頭していたのだが…
「これは……」
「お嬢様、何か見つかったのですか?」
魔法学の論文の一つを読んでいたレティシアは、何か興味ある内容だったらしく、何度も読み返していた。
「うん。中々面白いかも、これ。……もしかしたら一番の課題が一気に解決するかも!!」
少しずつ自分の中で整理を付け、具体的なカタチを思い描いたのか…レティシアは興奮してそう言うのだった。
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