【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
30 / 191
レティシア8歳 転機

第26話 研鑽の日々

しおりを挟む
 レティシアが前世の記憶を取り戻した日から3年の時が過ぎ、彼女は8歳になった。

 戦後の混乱もすっかり落ち着いたイスパル王国は概ね平和であり、最近では彼女の父アンリも自領の仕事が中心となったことで邸に居ることが多くなった。


 この3年間でレティシアは魔法学を始めとして、家庭教師より様々な事を学んだ。
 彼女にとって礼儀作法の勉強はあまり楽しいものではなかったが、ある程度は貴族令嬢として恥ずかしくないくらいの振る舞いも身に着けた。



 その一方で、彼女の夢である鉄道建設については少し行き詰まりを感じていた。

 3年前に人力のトロッコ列車を試作し…そしてそれは成功したものの、それ以降は明確な成果が出ていない。
 もっとも…
 基礎的な技術の積み上げはされてきており、レールや車輪、車体などの部品については高精度、かつ安定的に生産する見通しが立っている。
 その点においてはかなり進展があったと言って良いだろう。
 実際、トロッコについては鉱山や港湾などに採用されたりして、その利益が更なる開発のための資金となっている。
 傍から見れば充分に成果が出ていると言える。


 だが、レティシアが思い描く鉄道の実現に向けてはまだまだ解決すべき事項が山積みなのも事実である。
 そして、もっとも頭を悩ませているのは…動力の目処が立っていない事だ。
 結局のところそれが解決しなければ先に進むことが出来ないのである。

 蒸気機関も試しに設計、試作してみたのだが、満足行くものは出来ていない。
 親方はかなりのめり込んでいるが…実用に至るまではまだまだ時間がかかりそうだった。

 内燃機関は言わずもがな。
 そもそも燃料となる石油の存在すら確認できてない。

 そのため、アプローチを変えて新たな動力機関を開発するために、魔法関連の技術書なども読み漁って模索してるのだが……これも成果が上がらず。
 結局は地道に時間をかけて蒸気機関をブラッシュアップしてくしか無いか……そう彼女は思い始めていた。













「では、今日はここまで」

「ありがとうございました!」

 マティスより終了が告げられて、本日の魔法の授業が終わった。
 レティシアは元気よく礼を言う。

 今日の授業ではついに上級魔法の実践にまで踏み込んだ。
 これまでは幼い身であることから中級までの魔法の精度を高める事と、知識を広げることに注力していたが…マティスに師事してから3年の月日が経ち、そろそろ頃合いということだった。

「ふむ…そろそろ私が教えることはなくなってきたかもしれぬな」

「え…?」

「知識面に関してはアスティカントの学院で教えるような内容を殆ど押さえておるし、魔力制御の精度や速度においては既に私以上。これで身体の成長と共に魔力量も増えれば……将来的に宮廷魔導士になるのも不可能ではないな」

「そんな…私なんてまだまだですよ!」

「もちろん、これからも研鑽を積んでもらわねば困るが……もう私に教えられることは殆ど残ってないのも事実。それから先は、自身の力で成長していかなければならない。もう、そう言う領域まで来ておるのだよ」

「そう…ですか…」

 師に告げられた内容に、嬉しさよりも寂しさが湧き上がってくる。
 前世の記憶を持ち精神年齢も見た目通りではないとは言え、やはり多少は身体の影響もあるらしく、そんなふうにしょんぼりする様は年相応の少女のようであった。

「ふ……レティよ、そんなに寂しがる必要はない。例え講義が終わっても…私がそなたの師であることには変わりはない。それに、私はレティの夢が実現するのをこの目で見たいと思っておるしな。家庭教師を終えても、協力できることがあれば骨身を惜しむこともない」

「先生……はい!分かりました!でも、もうしばらくは…よろしくお願いします!」

「うむ」










 幼子は少女となり、やがていずれは大人になる。
 その中で多くの人との出会いがあれば、別れもあるだろう。

 マティスに師事する日々の終わりは近いのかもしれないが…それは別れであり、新たなる始まりでもある。

 少し寂しさを覚えながらも、レティシアはそう思うのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...