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レティシア8歳 転機
第26話 研鑽の日々
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レティシアが前世の記憶を取り戻した日から3年の時が過ぎ、彼女は8歳になった。
戦後の混乱もすっかり落ち着いたイスパル王国は概ね平和であり、最近では彼女の父アンリも自領の仕事が中心となったことで邸に居ることが多くなった。
この3年間でレティシアは魔法学を始めとして、家庭教師より様々な事を学んだ。
彼女にとって礼儀作法の勉強はあまり楽しいものではなかったが、ある程度は貴族令嬢として恥ずかしくないくらいの振る舞いも身に着けた。
その一方で、彼女の夢である鉄道建設については少し行き詰まりを感じていた。
3年前に人力のトロッコ列車を試作し…そしてそれは成功したものの、それ以降は明確な成果が出ていない。
もっとも…
基礎的な技術の積み上げはされてきており、レールや車輪、車体などの部品については高精度、かつ安定的に生産する見通しが立っている。
その点においてはかなり進展があったと言って良いだろう。
実際、トロッコについては鉱山や港湾などに採用されたりして、その利益が更なる開発のための資金となっている。
傍から見れば充分に成果が出ていると言える。
だが、レティシアが思い描く鉄道の実現に向けてはまだまだ解決すべき事項が山積みなのも事実である。
そして、もっとも頭を悩ませているのは…動力の目処が立っていない事だ。
結局のところそれが解決しなければ先に進むことが出来ないのである。
蒸気機関も試しに設計、試作してみたのだが、満足行くものは出来ていない。
親方はかなりのめり込んでいるが…実用に至るまではまだまだ時間がかかりそうだった。
内燃機関は言わずもがな。
そもそも燃料となる石油の存在すら確認できてない。
そのため、アプローチを変えて新たな動力機関を開発するために、魔法関連の技術書なども読み漁って模索してるのだが……これも成果が上がらず。
結局は地道に時間をかけて蒸気機関をブラッシュアップしてくしか無いか……そう彼女は思い始めていた。
「では、今日はここまで」
「ありがとうございました!」
マティスより終了が告げられて、本日の魔法の授業が終わった。
レティシアは元気よく礼を言う。
今日の授業ではついに上級魔法の実践にまで踏み込んだ。
これまでは幼い身であることから中級までの魔法の精度を高める事と、知識を広げることに注力していたが…マティスに師事してから3年の月日が経ち、そろそろ頃合いということだった。
「ふむ…そろそろ私が教えることはなくなってきたかもしれぬな」
「え…?」
「知識面に関してはアスティカントの学院で教えるような内容を殆ど押さえておるし、魔力制御の精度や速度においては既に私以上。これで身体の成長と共に魔力量も増えれば……将来的に宮廷魔導士になるのも不可能ではないな」
「そんな…私なんてまだまだですよ!」
「もちろん、これからも研鑽を積んでもらわねば困るが……もう私に教えられることは殆ど残ってないのも事実。それから先は、自身の力で成長していかなければならない。もう、そう言う領域まで来ておるのだよ」
「そう…ですか…」
師に告げられた内容に、嬉しさよりも寂しさが湧き上がってくる。
前世の記憶を持ち精神年齢も見た目通りではないとは言え、やはり多少は身体の影響もあるらしく、そんなふうにしょんぼりする様は年相応の少女のようであった。
「ふ……レティよ、そんなに寂しがる必要はない。例え講義が終わっても…私がそなたの師であることには変わりはない。それに、私はレティの夢が実現するのをこの目で見たいと思っておるしな。家庭教師を終えても、協力できることがあれば骨身を惜しむこともない」
「先生……はい!分かりました!でも、もうしばらくは…よろしくお願いします!」
「うむ」
幼子は少女となり、やがていずれは大人になる。
その中で多くの人との出会いがあれば、別れもあるだろう。
マティスに師事する日々の終わりは近いのかもしれないが…それは別れであり、新たなる始まりでもある。
少し寂しさを覚えながらも、レティシアはそう思うのであった。
戦後の混乱もすっかり落ち着いたイスパル王国は概ね平和であり、最近では彼女の父アンリも自領の仕事が中心となったことで邸に居ることが多くなった。
この3年間でレティシアは魔法学を始めとして、家庭教師より様々な事を学んだ。
彼女にとって礼儀作法の勉強はあまり楽しいものではなかったが、ある程度は貴族令嬢として恥ずかしくないくらいの振る舞いも身に着けた。
その一方で、彼女の夢である鉄道建設については少し行き詰まりを感じていた。
3年前に人力のトロッコ列車を試作し…そしてそれは成功したものの、それ以降は明確な成果が出ていない。
もっとも…
基礎的な技術の積み上げはされてきており、レールや車輪、車体などの部品については高精度、かつ安定的に生産する見通しが立っている。
その点においてはかなり進展があったと言って良いだろう。
実際、トロッコについては鉱山や港湾などに採用されたりして、その利益が更なる開発のための資金となっている。
傍から見れば充分に成果が出ていると言える。
だが、レティシアが思い描く鉄道の実現に向けてはまだまだ解決すべき事項が山積みなのも事実である。
そして、もっとも頭を悩ませているのは…動力の目処が立っていない事だ。
結局のところそれが解決しなければ先に進むことが出来ないのである。
蒸気機関も試しに設計、試作してみたのだが、満足行くものは出来ていない。
親方はかなりのめり込んでいるが…実用に至るまではまだまだ時間がかかりそうだった。
内燃機関は言わずもがな。
そもそも燃料となる石油の存在すら確認できてない。
そのため、アプローチを変えて新たな動力機関を開発するために、魔法関連の技術書なども読み漁って模索してるのだが……これも成果が上がらず。
結局は地道に時間をかけて蒸気機関をブラッシュアップしてくしか無いか……そう彼女は思い始めていた。
「では、今日はここまで」
「ありがとうございました!」
マティスより終了が告げられて、本日の魔法の授業が終わった。
レティシアは元気よく礼を言う。
今日の授業ではついに上級魔法の実践にまで踏み込んだ。
これまでは幼い身であることから中級までの魔法の精度を高める事と、知識を広げることに注力していたが…マティスに師事してから3年の月日が経ち、そろそろ頃合いということだった。
「ふむ…そろそろ私が教えることはなくなってきたかもしれぬな」
「え…?」
「知識面に関してはアスティカントの学院で教えるような内容を殆ど押さえておるし、魔力制御の精度や速度においては既に私以上。これで身体の成長と共に魔力量も増えれば……将来的に宮廷魔導士になるのも不可能ではないな」
「そんな…私なんてまだまだですよ!」
「もちろん、これからも研鑽を積んでもらわねば困るが……もう私に教えられることは殆ど残ってないのも事実。それから先は、自身の力で成長していかなければならない。もう、そう言う領域まで来ておるのだよ」
「そう…ですか…」
師に告げられた内容に、嬉しさよりも寂しさが湧き上がってくる。
前世の記憶を持ち精神年齢も見た目通りではないとは言え、やはり多少は身体の影響もあるらしく、そんなふうにしょんぼりする様は年相応の少女のようであった。
「ふ……レティよ、そんなに寂しがる必要はない。例え講義が終わっても…私がそなたの師であることには変わりはない。それに、私はレティの夢が実現するのをこの目で見たいと思っておるしな。家庭教師を終えても、協力できることがあれば骨身を惜しむこともない」
「先生……はい!分かりました!でも、もうしばらくは…よろしくお願いします!」
「うむ」
幼子は少女となり、やがていずれは大人になる。
その中で多くの人との出会いがあれば、別れもあるだろう。
マティスに師事する日々の終わりは近いのかもしれないが…それは別れであり、新たなる始まりでもある。
少し寂しさを覚えながらも、レティシアはそう思うのであった。
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