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レティシア5歳 はじまり
第22話 手合わせ
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庭から練兵場へと場所を移した面々は、リュシアンと侯爵の手合わせを見学することになった。
「それでは、よろしくお願いします」
リュシアンは彼が得意とする得物…槍を手にして一礼する。
彼は12歳という若さながら、既に領軍の中には相手になる者がいない程の武勇を誇る。
彼は自らの才能を自覚しているが、それを誇ることはあっても驕ることは無い。
そして、騎士になってその力を発揮することこそが、貴族としての責務を果たすことになると考えている。
母としては5年前の戦乱の事もあって、彼が騎士を目指していることにあまり良い感情を抱いていないが、父は息子が強い信念を持って決めたことを知っているので理解を示している。
そんな彼と対峙するのは、5年前の大戦では英雄の一人とも言われていたブレーゼン侯爵アーダッド。
お人形のように愛らしいルシェーラの父親とは到底思えないほどに厳つい巨漢である。
彼の武器はその巨漢に見合うだけの巨大な槍戦斧だ。
その重い一撃は、一切合切吹き飛ばしてしまうようなパワーがあることは想像に難くない。
鍛えてはいるものの、まだ少年らしくほっそりとした体つきのリュシアンと相対するのを見ると、果たしてまともな勝負になるのだろうか、という疑問が湧くだろう。
…普通であれば。
だが、今練兵場で見学している者の多くはリュシアンの実力をよく知っているので、良い勝負が見られると思っている。
騎士になることを良く思っていない母…アデリーヌであっても、息子の実力そのものは全く疑ってはいないのだ。
しかし、レティシアは以前、兄が強いことは聞いていたのだが…その実力の程はまだ良くわかっていないので、絵面的にちょっと心配している。
そして幼いルシェーラは……わくわくした目で、手合わせが始まるのを今か今かと待ちわびているようだった。
「おう。いつでも良いぜ」
(大戦の英雄の一人、ブレーゼン侯爵閣下と手合わせできるとは…またとない機会だ。だけど、胸を借りる…なんてつもりは更々無い。やるからには全力で勝ちに行く!)
普段の温厚で柔らかな物腰からは想像できないくらいに、彼の内面では闘志が燃えていた。
それは対峙する侯爵も敏感に察知する。
(…涼し気な顔をして随分熱いヤツみてぇだな。気に入ったぜ。こりゃあ俺も本気で相手しねぇとな…)
侯爵もリュシアンの気迫に触発されて、実戦さながらに闘志を高めていく。
「あの人、本気だわ。いいわねぇ…私もこんな格好じゃなければ…」
「…え?」
隣でボソっと呟いた侯爵夫人の言葉に、思わずレティシアはギョッとする。
(も、もしかして…この人も武闘派なの?見た目は凄く清楚で大人しい感じなのに…)
初めて挨拶した時の少し緊張した様子からは想像も出来ないような台詞に戦慄を覚えるレティシアであった。
「それでは、立会人は私…ラスティンが務めさせて頂きます。お二人共、ご準備はよろしいですか?」
ラスティンの確認に、既に臨戦態勢の二人は無言で頷く。
否が応でも緊張感の高まるその様子に、周りで見ている観客は固唾を呑んで開始の合図を待つ。
「では………始め!!」
遂に戦いが始まった!
まず最初に仕掛けたのはリュシアンだった。
「シッ!!」
合図の瞬間に一気に間合いを詰めて、神速の突きを繰り出す!!
全くの小細工なし。
彼の持ちうる最大最速の一撃だった。
だが、侯爵はその場からどっしりと動かず、冷静に槍の軌道を見極めて槍戦斧の戦斧の部分で受け止める。
ガッ!!
リュシアンの、その細身の身体からは想像もつかないほどの重い一撃に、受け止めた侯爵は内心で驚くが、それはおくびにも出さずに力の方向を反らしていなしてしまう。
そして、槍が流れた隙を逃さずに一歩踏み出してリュシアンの懐に入りつつ、受け流した動作から繋げるように槍戦斧を器用に回転させて石突を腹に叩き込もうとする。
しかし、リュシアンも反らされた槍を無理に引き止めようとはしないで、流れのままに身体を捻って攻撃を回避……しつつ侯爵の背後に回り込んで次の攻撃動作に繋げようとする。
それを察知した侯爵は、回転させていた槍戦斧の勢いを殺すことなく更に加速させて、背後にいるであろうリュシアンに向けて振り回す。
ガキィッ!!
両者の攻撃が激突し、鈍い音が鳴り響く。
そこで一旦仕切り直しとなったのか、お互いに一歩後退する。
「……え~と。ぜんっぜん見えなかったんだけど…」
あまりにも一瞬のうちに行われた攻防に、レティシアは呆然と呟く。
(リアルに残像とか見えたんですけど。ちょっと意味が分からない…)
「すごいです!!リュシアンさま、おとうさまとごかくですわ!!」
「えぇっ!?る、ルシェーラちゃん…今のが分かったの!?」
「はいっ!!……レティシアさんはわからなかったんですか?」
「う、うん。兄さんが消えた…と思ったら、もう何がなんだか…」
「じゃあ、わたしがかいせつします!いまのは……」
と、ルシェーラは先程の攻防を、それはそれは丁寧にレティシアに説明する。
そして、それを聞いた彼女は、今度はルシェーラに戦慄する。
(え?なにこの娘?凄すぎじゃない?って言うか…周りの人も、さも当然って感じなんだけど。こ、これがこの世界の普通なの…?)
彼らは達人の域にあるので、当然ながら普通ではないのだが……観客たちは達人同士の戦いのレベルの凄さは理解しているので、レティシア程には驚いてはいない。
(わ、私…この世界で生きていけるのだろうか……)
なんてことを思うレティシアであった……
「それでは、よろしくお願いします」
リュシアンは彼が得意とする得物…槍を手にして一礼する。
彼は12歳という若さながら、既に領軍の中には相手になる者がいない程の武勇を誇る。
彼は自らの才能を自覚しているが、それを誇ることはあっても驕ることは無い。
そして、騎士になってその力を発揮することこそが、貴族としての責務を果たすことになると考えている。
母としては5年前の戦乱の事もあって、彼が騎士を目指していることにあまり良い感情を抱いていないが、父は息子が強い信念を持って決めたことを知っているので理解を示している。
そんな彼と対峙するのは、5年前の大戦では英雄の一人とも言われていたブレーゼン侯爵アーダッド。
お人形のように愛らしいルシェーラの父親とは到底思えないほどに厳つい巨漢である。
彼の武器はその巨漢に見合うだけの巨大な槍戦斧だ。
その重い一撃は、一切合切吹き飛ばしてしまうようなパワーがあることは想像に難くない。
鍛えてはいるものの、まだ少年らしくほっそりとした体つきのリュシアンと相対するのを見ると、果たしてまともな勝負になるのだろうか、という疑問が湧くだろう。
…普通であれば。
だが、今練兵場で見学している者の多くはリュシアンの実力をよく知っているので、良い勝負が見られると思っている。
騎士になることを良く思っていない母…アデリーヌであっても、息子の実力そのものは全く疑ってはいないのだ。
しかし、レティシアは以前、兄が強いことは聞いていたのだが…その実力の程はまだ良くわかっていないので、絵面的にちょっと心配している。
そして幼いルシェーラは……わくわくした目で、手合わせが始まるのを今か今かと待ちわびているようだった。
「おう。いつでも良いぜ」
(大戦の英雄の一人、ブレーゼン侯爵閣下と手合わせできるとは…またとない機会だ。だけど、胸を借りる…なんてつもりは更々無い。やるからには全力で勝ちに行く!)
普段の温厚で柔らかな物腰からは想像できないくらいに、彼の内面では闘志が燃えていた。
それは対峙する侯爵も敏感に察知する。
(…涼し気な顔をして随分熱いヤツみてぇだな。気に入ったぜ。こりゃあ俺も本気で相手しねぇとな…)
侯爵もリュシアンの気迫に触発されて、実戦さながらに闘志を高めていく。
「あの人、本気だわ。いいわねぇ…私もこんな格好じゃなければ…」
「…え?」
隣でボソっと呟いた侯爵夫人の言葉に、思わずレティシアはギョッとする。
(も、もしかして…この人も武闘派なの?見た目は凄く清楚で大人しい感じなのに…)
初めて挨拶した時の少し緊張した様子からは想像も出来ないような台詞に戦慄を覚えるレティシアであった。
「それでは、立会人は私…ラスティンが務めさせて頂きます。お二人共、ご準備はよろしいですか?」
ラスティンの確認に、既に臨戦態勢の二人は無言で頷く。
否が応でも緊張感の高まるその様子に、周りで見ている観客は固唾を呑んで開始の合図を待つ。
「では………始め!!」
遂に戦いが始まった!
まず最初に仕掛けたのはリュシアンだった。
「シッ!!」
合図の瞬間に一気に間合いを詰めて、神速の突きを繰り出す!!
全くの小細工なし。
彼の持ちうる最大最速の一撃だった。
だが、侯爵はその場からどっしりと動かず、冷静に槍の軌道を見極めて槍戦斧の戦斧の部分で受け止める。
ガッ!!
リュシアンの、その細身の身体からは想像もつかないほどの重い一撃に、受け止めた侯爵は内心で驚くが、それはおくびにも出さずに力の方向を反らしていなしてしまう。
そして、槍が流れた隙を逃さずに一歩踏み出してリュシアンの懐に入りつつ、受け流した動作から繋げるように槍戦斧を器用に回転させて石突を腹に叩き込もうとする。
しかし、リュシアンも反らされた槍を無理に引き止めようとはしないで、流れのままに身体を捻って攻撃を回避……しつつ侯爵の背後に回り込んで次の攻撃動作に繋げようとする。
それを察知した侯爵は、回転させていた槍戦斧の勢いを殺すことなく更に加速させて、背後にいるであろうリュシアンに向けて振り回す。
ガキィッ!!
両者の攻撃が激突し、鈍い音が鳴り響く。
そこで一旦仕切り直しとなったのか、お互いに一歩後退する。
「……え~と。ぜんっぜん見えなかったんだけど…」
あまりにも一瞬のうちに行われた攻防に、レティシアは呆然と呟く。
(リアルに残像とか見えたんですけど。ちょっと意味が分からない…)
「すごいです!!リュシアンさま、おとうさまとごかくですわ!!」
「えぇっ!?る、ルシェーラちゃん…今のが分かったの!?」
「はいっ!!……レティシアさんはわからなかったんですか?」
「う、うん。兄さんが消えた…と思ったら、もう何がなんだか…」
「じゃあ、わたしがかいせつします!いまのは……」
と、ルシェーラは先程の攻防を、それはそれは丁寧にレティシアに説明する。
そして、それを聞いた彼女は、今度はルシェーラに戦慄する。
(え?なにこの娘?凄すぎじゃない?って言うか…周りの人も、さも当然って感じなんだけど。こ、これがこの世界の普通なの…?)
彼らは達人の域にあるので、当然ながら普通ではないのだが……観客たちは達人同士の戦いのレベルの凄さは理解しているので、レティシア程には驚いてはいない。
(わ、私…この世界で生きていけるのだろうか……)
なんてことを思うレティシアであった……
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