6 / 191
レティシア5歳 はじまり
第4話 家族
しおりを挟む「レティシア、入るよ」
未だ部屋に閉じ籠もるレティシア。
父母から希望を託されたリュシアンは、レティシアを刺激しないように静かに部屋の中に入る。
「……」
当のレティシアはベッドの中、布団をすっぽり被って亀のように丸まっている。
声に反応してモゾモゾと動いたので、多分起きているはずだ。
(……これは一筋縄ではいかないかな。まあ、根気よく接するしかないか)
リュシアンにとって歳の離れた妹は可愛くて仕方ない。
そんな妹が塞ぎ込んでいる姿を見るのはリュシアンにとって何よりも辛いことだ。
なので、どうにかして彼女の元気を取り戻してあげたいのだが……
「何度もごめんね。……でも、そのままでいいから聞いて欲しい」
長期戦を覚悟した彼は、先ずは自分たちの気持ちを伝えようと真摯に語りかける。
「レティがそこまで悲しんでる理由は分からないけど……」
最初は階段を転げ落ちた恐怖が余りにも大きかったのだろう、と思っていたが……それでここまで嘆き悲しむのはおかしいと思ったのだ。
きっと他に理由がある。
しかし、レティシア自身がそれを語らなければ、リュシアンたちには知る術が無い。
だが、それを無理に聞き出す必要はないと彼は考えている。
ただ、家族が彼女を大切に想っている……それを伝えたかったのだ。
「皆が心配してるのは、レティだって分かっているだろう?……父様なんかあっさり撃沈されたものだから、ちょっと鬱陶しく…………いや、何でもないよ」
さらりと毒を吐いた。
「とにかく。例え君が『何者であっても』、僕達家族は君の味方だということは覚えておいて欲しいな。家族が悲しんでいれば、支えになる。家族と言うのはそういうものだと、僕は思うよ」
リュシアンは何かを意図して言葉を紡いだわけではない。
ただ純粋な、素直な気持ちを伝えただけだ。
だが、彼の言葉はレティシアの心に楔を打ち込んだ。
「僕の言いたかったことはそれだけ。……ゆっくり休んで、早く元気なレティに戻って。なんせ、君が居ないと邸の中が暗くていけない」
そう言い残してリュシアンは部屋を出ていった。
(『何者であっても』、か…………それは『俺』であってもそう言える?…………いや、そもそも『わたし』と『俺』に区別なんてあるのか?どちらの記憶もあって……多分『自我』のようなものも同一だ……と思う。だったら『わたし』と『俺』に垣根なんか無いのか?)
リュシアンが出ていってしばらく経っても、レティシアの頭の中ではぐるぐると考えが巡っていた。
これまでの答えの出ない自問自答から、もう少しで抜け出せそう……何らかの結論が出せそう。
彼女は、そんな光明を見出したかのような気分になった。
再び頭が痛みだしても、考えることは止めない。
(あの人たちは『家族』だ。『わたし』にとって、それは確かな事実。では『俺』とっては?『わたし』と『俺』に垣根が無いならば、『俺』にとっても『家族』って事で良いの?)
結局のところ、その折り合いをつけるのは彼女自身の心次第だ。
(前世の家族を悲しませてしまった。もう取り返しはつかない。だったらせめて……今の『わたし』の……『俺』の家族に同じ思いをさせちゃ駄目だ)
少しずつ、彼女の瞳に力が戻って来る。
(もう、二度と。家族にあんな悲しい思いはさせない。それが『俺』の償い……いや、違うな。『俺』の家族が償いなんか望むわけない。それは『願い』だ。きっと、そう願ってるはず)
もう完全に彼女の目には力強い光が宿ってる。
前世の家族と別れて二度と会えない悲しみは、そうそう払えるものではない。
だが、ただ蹲って嘆くだけの時間は終わりだ。
新たに生きる道が見えたのだから。
(……わたしがこの世界で天寿を全うし、次に再び出会う時に胸を張って報告できるように。笑顔で前を向いて歩くんだ。そう、きっとまた会えるはず。輪廻はあるんだ。だって、今のわたしがそれを証明してるじゃないか!)
被っていた布団を振り払い、ベッドを降りて自らの足で立つ。
この日、レティシアは本当の意味でこの世界に生まれたのだった。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる