4 / 191
レティシア5歳 はじまり
第2話 転生
しおりを挟む「さて……これは一体どう言う状況なんだ?」
一人になって改めて考えてみる。
先程エリーシャと自然な会話ができたように、本来のレティシアとしての記憶は問題なさそうだ。
もう一つの記憶。
複雑に絡み合った紐のようなそれを、解きほぐしていく。
自我はあくまでも一つ。
だが、二人の人物の記憶があり、それが混乱の元になっている。
(もう一つの記憶。『俺』……黒須鉄路の記憶。確かに、思い出せる…………最後の記憶は……?)
それを思い出そうとしたとき、突如として頭の中でその光景がフラッシュバックする。
「う、うわぁっ!?」
衝撃的な光景に思わず声を上げる。
幸いにも側付きのエリーシャは不在なので、それを聞く者はいなかった。
(お、思い出した!あの時、ホームから落ちて………………あの光。多分、列車が入ってきてたんだ。そして…………)
認め難い事ではあったが、状況的に導き出される答えは一つしか無かった。
「あの時轢かれて死んだ…………って事なんだろうな……」
未だ実感は湧いてこないが、そういう事なのだろう、と納得するしかなかった。
「それで、今のわたしは『レティシア』…………つまり、これは転生した……と言うこと?」
この状況を説明できる事象は、彼?彼女?には、それしか思いつかなかった。
物語としてはありふれたものであり、小説やマンガで読む分には面白いテーマなのだろう。
だが、自分自身の身に降りかかるとなれば面白いなどと言ってられない。
幼いレティシアの知識でも、この国の名がイスパルだと言うことは知っている。
だが、『彼』の記憶の中にそんな名前の国は無い。
もしかしたら自分が知らないだけなのかもしれない、とも思ったが…………決定的なのは『魔法』の存在だ。
これも、レティシアはその存在を認識していた。
ここは地球ですらない。
即ち、異世界転生。
「………………父さん、母さん、兄貴…………もう、会えないのか?」
世界すら違うのであれば、もはやかつての家族と再会するのは絶望的だろう。
何かしら、世界を行き来する手段があったとしても……
もはや『彼』は死んだのだ。
もう取り返しのつかない状況に絶望し、目の前が真っ暗になる。
治まったはずの頭痛がぶり返す。
(父さんは厳格でほとんど笑うこともなく言葉少なだったけど、正しい心を持つ尊敬できる人だった。そんな父さんも、俺が成人した日には……『お前と酒を酌み交わす日が来るのを楽しみにしていた』と照れくさそうに笑っていたっけ……)
(母さんは逆にお喋りで、家族のムードメーカーだった。あの日も、『あんたも好きよねぇ……』なんて少し呆れながらも、笑って見送ってくれた。…………ゴメン、帰れなくて……)
(兄貴は、小さい頃は良く喧嘩もしたけど……一番身近な理解者だった。就職が決まったときは一番喜んでくれてたな……)
記憶を取り戻したばかりの『彼』にとっては、つい昨日の事のような感覚だ。
家族や友人たちのことも鮮明に思い出すことができる。
それがかえって『彼』を苦しめる。
いっそ何も思い出さないままでいられれば、その方が幸せだったのかもしれない。
だが、『彼』は思い出してしまった。
もう二度と会えないであろう人たちを思い出し……そして、自分が死んでしまったことでその人達を悲しませたであろうという事も、『彼』を苛むのだ。
「うっ……うっ…………」
こらえきれず嗚咽とともに涙が溢れ出る。
そんな、間の悪いタイミングでレティシアの部屋の扉が開かれて、今の彼女の母と兄が入ってきてしまった。
「レティ~、大丈夫かしら?……ど、どうしたの!?」
「レティ!!」
「あ…………」
それ以上の言葉が出てこなかった。
この二人はレティシアの母と兄だ。
確かにその記憶がある。
だが、記憶を取り戻したばかりの『彼』にとっては……
咄嗟にどう接すれば良いのか逡巡する。
泣いていたところを見られた事も何だか気まずい。
「レティ、どこか痛むのかい?」
「もう一度お医者さんに見てもらう?」
二人はベッドの側に近寄って、心底心配そうな様子で優しくレティシアに問いかける。
(だけど、その眼差しは『俺』に向けられて良いものなのか?『俺』はどうすれば良い……?)
まだ心の整理もつかないまま……どう反応すればよいのかわからないまま、レティシアはただ呆然とするだけだった。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる