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後日談2 グラナの夜明け

エピローグ 黎明の女神

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ーーーー グラナ帝国 ロスタム解放戦 ーーーー


 後世の歴史家たちは語る。

 かつての栄華も見る影もなく衰退し、斜陽を迎えつつあったグラナ帝国がふたたびその光を取り戻したのは、その日が始まりであった……と。







 ロスタムの街の目前までやって来たエフィメラ皇女の一行は、そこで戦闘が行われている気配を感じ取った。
 そして、それが黒神教の支配から解放するためのものであれば参戦することを決意する。


 リシェラネイアとローランドの二人が先行して街に潜入……状況の把握を行った上で、皇帝派と目される勢力に接触を図った。

 果たして、エフィメラ達の予想通り……その戦いは実質的に街を支配していた黒神教を打倒するためのものだった。


 グラナ帝国においても多くの人々が、カティアたちと邪神の最終決戦の場面を目撃した。
 突然見せられたその光景の意味を完全に理解できた者はいなかったが……その決戦と、カルヴァードとの大戦の終結後に、皇帝の名において帝国全土に宣言が行われた。




 曰く。

 永らくの間、黒神教の教皇と大幹部の地位には異形の者が居座り、人外の力によって皇帝をも傀儡と化し帝国全土を支配していた。
 そして、彼らは自らの野望のために国民達の自由を奪い、富や、時に命すらも奪ってきた。

 だが、この度の戦いで……英雄たちの手によって悪しき異形の者たちはついに滅ぼされた。
 多くの民も目撃したであろうあの場面は、教皇に成りすましていた邪神を英雄姫が征伐した場面である。

 しかし、未だ帝国各地には邪神を信奉する配下が黒神教に紛れ込み、支配を続けようとしている。

 志あるものよ、立ち上がれ!
 邪神とその眷属たちが滅ぼされた今こそ、自由と正しき信仰を取り戻すときだ!




 その皇帝の宣言は瞬く間に帝国全土に伝えられ……各地で地下活動を行っていたレジスタンスなどを中心にした解放運動が立ち上がる。


 このロスタムの街においても……皇帝派が組織した『グラナ解放同盟』を中心とする解放軍が、街を支配する黒神教幹部を打倒するために、先ごろ一斉蜂起したのだった。


 そして、ローランドとリシェラネイアの手引のもとグラナ解放同盟と合流を果たしたエフィメラたち一行は、彼らに協力して戦線に加わった。

 手勢は少数ながらも、大戦を戦い抜いてきたブレイグ率いる勇士たちと、邪神征伐の英雄二人を擁するエフィメラ軍の活躍は目覚ましく、黒神教の精鋭『黒聖騎士団』を圧倒する。
 エフィメラ皇女自身も、妹のエルネラとともに魔導の腕をふるいながら味方を鼓舞した。

 エフィメラ軍の助力を得た解放軍は勢いづくものの、黒神教側も最後の抵抗を見せ、戦いは深夜にも及んだ。
 しかし……ついにはロスタムを支配していた魔族・・を滅ぼす事に成功するのだった。











 戦いが終わった未明の街に、勝どきの声が響き渡る。
 東の空が白み始め、もう夜明けは間近だった。

 激しい戦いによる犠牲者も少なからずいたが……戦いを生き延びた者たちの表情は晴れやかであった。


 そこかしこに戦闘の傷跡が残された街の中央広場。
 そこに集った多くの兵たちは、思い思いに勝利を祝い、戦場に散った仲間たちに盃を捧げている。
 更に住民たちも加わり、独特の高揚感と喧騒に満ちていた。

 そんな中やって来たのは、二人の美しい少女たち。
 戦装束に身を包んだエフィメラとエルネラだ。
 薄闇に浮かび上がる青銀の髪が人々の目を惹く。

 彼女たちに気付いた兵たちはその場に跪こうとするが、エフィメラはそれを制して広場の中央に進み出る。
 彼女たちが皇帝の娘であり、軍を率いながら自らも戦いに身を投じていた事は、多くの者たちの知るところである。
 共に戦った者たちは皆、彼女たちに畏敬の眼差しを向けていた。


 そして、広場の中央に立ったエフィメラが周囲をぐるりと見渡し、よく通る声で語り始めると……それまでの喧騒が嘘のように静まって、人々は彼女の話に耳を傾けける。


 共に戦った者たちへの労いと感謝の言葉。
 戦いの犠牲となった者たちへの哀悼の言葉。

 そして……



「皆も見たことでしょう。永きにわたりグラナを……いえ、世界を蝕んでいた邪なる神が滅ぼされた、その瞬間を。ですが、黒神教には未だ邪神の眷属が残され、支配を続けようとしています。このロスタムでの我々の勝利は、真にグラナを解放するための第一歩に過ぎません」

 一つ一つ噛みしめるようにエフィメラは言葉を紡ぐ。
 それは、民に対してだけでなく、自分にも言い聞かせるものであったのだろう。


「ですが……恐れることはありません。一人ひとりの力は小さいものかも知れませんが、皆が力を合わせれば、必ずや成し遂げることができます。どうか皆さんの力を貸してください」

 彼女は真摯に願う。
 そして目を瞑って一呼吸おいたあと……
 広場中に力強い言葉が響き渡った。

「……グラナに夜明けを!!我々の手で光を取り戻しましょう!!」


 勝どきをも超える大きな歓声が上がった。

 そしてそれは一つの奇跡だったのか。
 東の空より昇った陽の光が、エフィメラを背後から照らし出した。
 青銀の髪が光り輝き、エフィメラの美貌を神秘的に彩る。
 女神と見紛うその姿に、一人、また一人と……人々は自然と、祈りを捧げるように跪いた。









 そんな光景をローランドとともに離れたところで見守っていた、リシェラネイアの顔に笑みが浮かぶ。

「ふふ……あの娘、困ったような顔をしてるわね」

「ああ、ありゃあ凄えタイミングだな。狙ってやったとしたら、とんだ策士だ(もしかしたらジェロームの奴は狙ってたかもな)」


 しばらくは微笑みを浮かべていたリシェラネイアだったが、やがて顔を引き締めて言う。

「魔族が……いたわね」

「だなぁ……懸念してた事が当たっちまったか。まぁでも、七天禍ほどの力は無かった。なんとかなるだろ」

「そうね……でも油断は禁物よ、ロラン」

「ああ。分かってるさ」


 今回の戦いは勝利することができた。

 しかし、黒神教に魔族が残っている以上……帝都パニシオンまでの間に、どれほどの困難が待ち受けているのか。

 勝利の余韻に浸る間もなく、二人は気を引き締める。
 そして、グラナに新しい時代が訪れるその時まで……この若き指導者を必ず護り抜く。
 そう、決意を新たにした。


















 辺境の街ロスタムにおける解放軍の勝利と、エフィメラ皇女の帰還の報せは、驚愕とともに帝国全土を駆け巡った。
 そして、それに後押しされるように各地で解放の気運が高まっていくことになる。



 後世の歴史家たちは語る。

 このロスタム解放戦の勝利こそ、グラナの夜明けの始まりであったと。
 そして、その光をもたらしたのは……

 若き皇女、『黎明の女神』エフィメラ=リゼル=フロル=グラナである……と。

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