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後日談2 グラナの夜明け
護り手
しおりを挟むーーーー ガエル ーーーー
ラファを出発してから数日が経過した。
俺達一行は商隊に扮してグラナ帝国へと続く街道を進んでいる。
荒れ地という程ではないが、草木も疎らな痩せた土地、起伏も殆どない、見渡す限りの平野だ。
道行く先の彼方に望む連なる山脈の向こうが、俺達が目指すグラナ帝国だ。
あともう数日で国境を超えることができるだろう。
ラファも含めてこの辺りも、かつて帝国の領土であったと聞くが……それも、今は昔のこと。
帝国の衰退によってかつての領土の多くはいくつもの都市国家や小国に分かれ……あるいは魔物や野盗が蔓延る無法地帯となっているらしい。
幸いにもラファから帝国に至る街道は、交易が活発に行われていることもあって比較的まともな方らしいのだが、それでも襲撃には備える必要がある。
故に、ブレイグ将軍と配下の兵たちは、これまで以上の緊張感をもって警戒にあたっていた。
もちろん、エフィメラ様の直属の護衛である俺も。
……とは言っても、今進んでいる場所は見通しが良く襲撃者が潜むような場所も限られるから、異変を察知するのはそれほど難しくはないだろう。
皇族が乗るには質素だが裕福な商人が乗るくらいには立派な馬車の周囲を、俺も含めた何人もの兵が取り囲んで行進する様は異様な雰囲気に見えるかもしれない。
事実、時折すれ違う旅人たちは、一体何事かと振り返ったりしていた。
「もう少しでグラナに入るな。お前は……3年以上振りの帰郷になるか?」
程よい緊張感を保ちながら歩く俺に、声をかけてきたのはブレイグ将軍だ。
俺自身は、あの大戦の際に初めて面識を得たのだが、俺の父親とは古くからの知り合いだったらしく、何かと俺のことを気にかけてくれる。
「はい。本来であれば父も一緒に帰れれば良かったのですが……」
「そうだな……流石に長旅に耐えられる身体ではないか」
父は……3年前のアールヴ山脈超えの際に、魔物の襲撃からエフィメラ様や俺達を護るために大怪我を負ってしまった。
幸い命はとりとめたが、騎士は引退せざるを得なかった。
だから俺が代わりにエフィメラ様の護衛として志願し、今もこうしてここにいる。
「まあ、しかしだ。カルヴァードと正式に国交が樹立されるとなれば……今よりも安全で早い交易路も整備され、往来も活発になるかもしれん。その時は……な?」
「ええ。そのためにも、微力ながら力を尽くすつもりです」
「うむ。その意気だな」
護衛の立場で出来る事などたかが知れているかも知れないが。
自分ができることに力を尽くす。
仲間と力を合わせる。
そして、最後まであきらめない。
イスパルの学園に入学して、彼女たちから学んだことだ。
「それはそうとして。朴念仁のように見えて、お前も中々やるじゃないか?」
「?」
真剣な口調から一転して、どこかからかうような響きで将軍がそんな事を言ってきた。
何のことか分からずに、俺は怪訝な表情を向けるだけで応えることが出来ない。
「出立の時にメリエル王女が見送りに来ていただろう?随分と寂しそうな顔をしていたではないか」
「あぁ……あれは別にそういうことは違うと思いますが……」
確かに、妙に彼女に懐かれてる気はするが。
そこに将軍が考えているような感情は無いと思う。
それは俺も同じだ。
懐かれる事自体は悪い気はしないが、どちらかというと小動物を相手にしているような……
そもそも、彼女はウィラーの王女だ。
平民に過ぎない俺とどうこうなることなどあり得ない。
というようなことを将軍に話したのだが。
「ふむ。まあ、今はそういうことにしておこう」
などという。
……まあ、いいか。
そんなふうに、お互いそれ以上は言及するのを止めた時のことだった。
「将軍!!魔物の群れがこちらに!!」
兵の一人が叫び声を上げた。
「総員戦闘態勢!!迎撃するぞ!!」
即座にブレイグ将軍が号令を発し、俺達はすぐさま臨戦態勢となって陣形を組む。
先程までの会話で少しだけ緩んでいた緊張の糸が、再び張り詰める。
今は、自分自身の役割を全うする時。
未来の事は、成すべきことを成したときに考えればいい。
そうやって自分自身を鼓舞し、大剣を構えて魔物の襲撃に備える。
グラナに夜明けをもたらす希望の光を、この手で護るんだ。
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