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後日談2 グラナの夜明け

裏世界の結末

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ーーーー ロラン ーーーー

 地に足が着いているというのは良いもんだ……
 一歩一歩踏みしめる大地の揺るぎなさに感謝しながら、しみじみとそんな事を思う。

 あの悪夢の船旅から解放され、ラファの街で一泊した俺達はグラナ帝国に向けて陸路を進んでいた。
 ひどい船酔で疲弊した身体も、宿で一晩休めばすっかり元通りだ。
 リシィのやつにも心配かけちまったが、あいつに甲斐甲斐しく世話されるのは悪くない……なんて思った。


 ……かつて黒神教にリシィを拐われた時、俺は後悔した。
 なぜもっと早く、想いを伝えなかったのか……と。
 だから、300年もの時を超えてアイツと再会したとき、真っ先に想いを伝えた……つもりだ。
 それ以降も積極的にアピールして、そのたびに赤くなって慌てふためくのが面白いんだが……なかなか進展しないのが悩みといえば悩みか。


 何れにしても。
 もう二度とアイツから離れるつもりはない。
 先の方でエフィメラ達と楽しそうに話しつつ歩いている姿を見ながら、改めてそう思う。


 アルマに忠誠を誓った身として、その系譜とも言えるイスパル王家に仕える事も考えなくもなかった。
 アルマの血を受け継ぐというだけでなく、あの二人……カティア様とテオフィルス様に初めて会ったときに感じた懐かしさ……確証があるわけじゃないが、きっとあの二人は……

 だが、俺みたいな過去の亡霊なんかが出しゃばるまでもなく、二人の周りには多くの若く頼もしい仲間たちがいる。


 だったら……もう、この先の人生はアイツと一緒に好きに生きたって構わないだろ?
 既にアグレアス家の一族も、イスパルに仕えてる事だしな……
 
 






「ローランド様」

「ん?どした?」

 噂をすれば……その『アグレアスの一族』の者が声をかけてきた。

 ジェローム=アグレアス。
 イスパル王国貴族アグレアス侯爵家の当主であり、俺の兄貴の子孫ということになる。
 もちろん俺の方がはるかに年上なわけだが、見た目は全くの真逆で、俺の親父と言っても違和感ないだろう。


 俺は曲がりなりにも七天禍の一人だったから大っぴらには動けなかったが……グラナの情報をコイツに流してイスパル国内における黒神教の動きをそれとなく牽制させたり、エフィメラを亡命させるにあたって協力を依頼したり……まあ、色々と動いてもらって感謝してる。
 その甲斐もあって、アグレアス侯爵家はカティア様からかなりの信頼を得ているようだ。

 今回、エフィメラの帰郷に合わせてついてきたのは……グラナとの早期の国交樹立を目指すカティア様の願いに応えたものだろう。


「グラナ帝国の現状……どうなってるとお考えですか?」

「さてなぁ……。まぁ、黒神教は教皇と幹部が揃っていなくなっちまったから、混乱に陥ってるのは間違いないだろう。残った七天禍以外の魔族共も、俺やリシィと同じように人間に戻ってるだろうし……。エフィメラが言う通り、皇帝派が復権するのに絶好のチャンスだな」

「そう……ですな」

 俺の言葉に一応は頷くものの、どこか疑念を持ってるように見える。


「何か懸念があるのか?」

「いえ、懸念と言うほどではありませんが……残った魔族たちは、本当に力を失って人間に戻ったのでしょうか?」

「……」

 ジェロームの疑問に、俺はすぐに答えることができず、暫し瞑目する。
 俺もリシィも、その疑問は持っていた。


「調律師……ヴィリティニーアが集めた『異界の魂』がどれくらい存在したのか、その正確な数は俺も知らねえんだが……その多くはカルヴァード侵攻のため『黒魔巨兵』を生み出すために利用されたはずだ。だから、七天禍以外の魔族はそれほど多くはないとは思うが……」

 気になっているのは、俺やリシィが人間に戻ることができたのは……俺達は完全な魔族ではなく、言わば『半魔族』だったからじゃないか?
 ……そんな可能性も考えていたんだが、確証があるわけじゃない。


「ふむ……ともかく、グラナに入ったら慎重に行動して、情報を集めねばなりませんな」

「そうだな。……ところでジェロームよ、イスパルはお前が留守にして問題ないのか?」

 俺は気になっていたことを聞いてみる。

 グラナの間者がイスパルに限らず入り込んでいたはずだ。
 コイツはそういった奴らに監視されながらも、その実は逆に動きを監視しつつ情報を操作してコントロールしていた。
 そのジェロームがこっちに来ているということは……


「ご心配には及びません。少しずつ皇帝派の者の協力を得ながら、黒神教の手の者は殆ど排除しました。もう私が直接指示しなくとも大丈夫でしょう。……かつてカティア様の暗殺を企てた連中も、ようやく報いを受けさせることが出来ました」

 良い笑顔でそんな事を言うが、目が笑ってない。
 聞けばカティア様暗殺の黒幕として疑いの目を向けられていたというから、よほど腹に据えかねていたらしい。

「……そうか」

 少し気圧された俺は、そう返すことしか出来なかった。
 全く、我が血縁ながら頼もしいことだ。


 ともかく、後顧の憂いが無いのであれば……

 カティア様が願い、エフィメラが願い……そして何より、リシィとヴィリティニーアが願ったグラナとカルヴァードの友好に向けて、俺も微力ながら力を尽くそうじゃないか。

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