上 下
637 / 683
第十五幕 転生歌姫の最終決戦

第十五幕 40 『迫りくる闇』

しおりを挟む

ーー イスパル王国 王都アクサレナ ーー


 アクサレナの空には暗雲が立ち込めていた。


 暫く前から何とも言えない不穏な空気が漂い始め、今となっては息苦しさを覚える程だった。

 それは、ここアクサレナだけでなく全世界規模で起こっていたのだが、一般市民はそれを知る由もなかった。


 ただ、誰もがその空気を感じ、途轍もない何かが起きていることだけは察することが出来た。



 国王ユリウスと王妃カーシャも、アクサレナの王城のバルコニーから祈るような気持ちで東の空を眺めていた。


「ユリウス……」

「あぁ……おそらく、これは邪神と何か関係があるのだろうな……」

「カティアたちは大丈夫かしら……」

 不安げにカーシャが呟く。

 彼女の姉、カリーネがこの世に遺したたった一人の愛娘。
 もちろん、カーシャ自身にとっても大切な我が子である。

 母親として心配は尽きないが……


「信じて待つしかないだろう。カティアと、その仲間たちを」

「そう……よね。あの娘は……いえ、あの娘たちは神々の祝福を受けた希望の光。きっと……今頃頑張っているわ」

 心配は尽きないが、ユリウスの言う通り今は信じて待つしかない。
 せめて、この想いが届くように……と、カーシャは祈る。









 その時……!


 突如としてアクサレナの上空に何か・・が現れる!


 それは『歪み』だった。

 球状の歪み、まるで水面の油膜のようなそれは見る見るうちに空に広がり、異様な景色を映し出す。


 その景色は空間を超越して、アクサレナのみならず全世界で観測された。






 空を跳ぶ島。
 それを形容する言葉はまさにそれだった。


 誰もがそれを呆然と見上げ、このあと何が起こるのか戦々恐々とする。


 そして、腹の底まで響くようななにものかの声が聞こえてきた。




『人間たち諸君。今日はめでたき日。邪神が完全なる復活を果たし、人類すべてが変革を果たし、世界が変革を果たす、記念すべき日だ』



「何だ!?これは!!?」

 突然始まった何者かの演説。

 ユリウスは事態に理解が及ばず、彼にしては珍しく狼狽して叫び声を上げた。


「いったい何が始まろうと言うの……?」

 カーシャも、突然の異常事態に不安を隠しきれない様子。


「今……邪神と言ったな……?では、まさか……あそこにカティアたちがいるというのか!?」


 そのユリウスの言葉が聞こえたわけではないだろうが、空に浮かんだ歪みに映った場面が切り替わる。

 そこは先程の浮島の上部、何らかの建物の床であることが見て取れた。


 そして……


「カティア!!?」


 そこには、何者かと対峙するカティア、テオフィルス、ミーティアの姿。
 そして、カティアと共に黒き神の神殿に向かったはずの他の仲間たちが、力なく倒れ伏しているのが見えた。




『さあ……見るがいい!!神に祝福されし希望の娘……カティアの身と魂が、黒き神に捧げられるところを!!』




ーーーーーーーー














 邪神リュートはその恐るべき力でもって、今この場の場面を全世界に知らしめている。

 彼に立ち向かうのは、もう3人だけ。

 私とテオとミーティア。


 だけど、その場を絶望が支配しているのが分かる。

 どうにか自身を奮い立たせてたっているけど、恐怖がじわりじわりと心の中を侵食するのを止められない。

 多分、二人も同じような状況かもしれない。



 邪神リュートの力は想像を絶するものだった。

 私達が全力で、力を合わせて戦ってもかすり傷一つつけられず、逆にほんの少し本気を出しただけのリュートに、成すすべもなく仲間たちは倒されてしまった。

 幸いにもまだ誰も死んではいないけど、ここで私達が敗れてしまえば次に目を覚ました時はもう邪神の手先となっているだろう。



 邪神リュートは全世界に向けて宣言する。

 いま、この時をもって世界は変わるのだ……と。

 邪神が完全に復活してしまえば、異界の扉は大きく開け放たれ、次々と異界の魂がこの世界に現れて、リュートの言う通りとなってしまうだろう。




 そして更に……リュートは私を黒き神の供物として捧げる事を宣言した。






 その瞬間……忽然と姿を消したリュート。

 刹那のあと、再び現れたのは私の眼の前。


 テオとミーティアが叫びを上げて私の元へと駆け寄ろうとするのが、スローモーションのように感じられる。



 そして、全く反応できなかった私の身体をリュートが抱きすくめたと思えば……彼から溢れ出た『闇』が、触手となって絡め取る。


 それは私の全身を這いずり回って……



「あっ!?あああぁぁーーーーーっ!!!!??」


 ずぶり……と身体の中に侵入していく……!!

 あまりの苦痛に私は絶叫を抑えることが出来ない……!!


 全身を灼熱が貫き、同時にそれとは真逆の凍えるような寒さが私を襲う!!






 そして……私の意識は闇に飲まれてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―

中七七三
ファンタジー
ラトキア人―― 雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。 ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。 ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。 「自分は男だ――」 少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。 そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。 犯され、蹂躙され、凌辱される。 肉に刻まれるメスアクメの快感。 濃厚な精液による強制種付け―― 孕ませること。 それは、肉体が牝に固定化されるということだった。 それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。 原案:とびらの様 https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808 表紙イラスト:とびらの様 本文:中七七三 脚色:中七七三 エロ考証:中七七三 物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。 シノプスのみ拝借しております。 もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。

処理中です...