【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!

O.T.I

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第十五幕 転生歌姫の最終決戦

第十五幕 1 『演説』

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ーー ウィラー王国アルマ地方 対グラナ戦線 ーー


 国境の山岳地帯を超えてやって来たグラナ帝国軍。

 魔物と通常兵の混成部隊。

 その数は、ざっと見積もっても数万は下らないだろうか。
 ただし、それが全てと言うわけではない。

 似たような光景がウィラー以外の国境地帯でも繰り広げられている事だろう。
 デルフィア、レーヴェラント、シャスラハにも、それぞれの国軍と、各国が派遣した支援軍が展開しているはずである。

 グラナ帝国が、それほどの規模の軍を同時に展開出来るのは……やはり魔物を戦力に組み込むことが出来るためだろう。
 実際に侵攻軍の構成をみれば、通常兵よりも魔物の数の方が多いように見える。

 その魔物だが、種族としてはゴブリンやオーガ、オーク、トロールなどの人型の魔物が中心となっているようだ。
 これは、先ごろのウィラー侵攻でも見られた傾向だ。

 だが、少数ながら、飛竜などの飛行型の魔物や、大型肉食獣の魔物も混じっている。


 対するカルヴァード大陸連合軍は、当然ながらほぼ全ての兵員が人間である。
 飛竜を駆る竜騎士もいるが、それはごく限られた戦力に過ぎない。


 兵数の面では互角かそれ以上。
 しかし、このままでは苦戦は必須のものと思われた。








 だが……


「グラナ軍の侵攻が始まりました!!」

 ウィラー王国軍の本陣。
 その中で最も大きい天幕にやって来た伝令の兵が、グラナ侵攻開始の報を伝えた。

 そこには、ウィラー軍の総大将を始めとした上級将校たちが居並ぶ。
 そして……


「いよいよか。……エメリナ様」

「ええ。私も出るわ。回復支援は任せて。……攻撃は期待しないでね」

「お願いします。強力な回復魔法があるのであれば、兵たちも安心して戦えます」

「これは伝えたとは思うけど……森都の時よりも広範囲で人数も多いから、あの時みたいな劇的な回復は難しいわよ」

「承知しております。それでも望外の事ですよ」

「うん、分かってるならいいわ。さぁ、行きましょう!!」


 そうして、地上に降りた生命神エメリナは、戦場に赴く。



(……お姉ちゃん達も地上に降臨する準備をしているはず。私達が力を合わせれば、きっとグラナの侵攻は防ぐことができる。あとは……カティアちゃん、しっかりやるのよ!)


 グラナ軍と連合軍は、今にも衝突寸前。

 そんな最前線から、やや後方に、将校達に囲まれて立つエメリナ。

 戦場に似つかわしくない、やや幼くも美しい小柄な少女。
 だが、そこに内包するのは圧倒的な力。
 それは、神々しいオーラとなって周囲を圧倒する。


 そして、戦場に女神の声が響き渡る!!


『勇者たちよ!!生命神たる私がいる限り!!あなた達の勝利は揺るぎないわ!!』

 その瞬間、鮮やかな翠の光がエメリナを中心に広がっていく!!

 その光を浴びた連合軍の兵士たちは、己の身体の内で命の炎が燃え上がるかのような感覚を覚える。


 おぉおーーーーっっっ!!!!


 神の加護を得た兵たちは奮い立ち、雄叫びを上げて戦場を疾駆する!!



 そして遂に、両軍は激突した……!!













 戦端が開かれ、激しい戦いがそこかしこで繰り広げられる。
 大軍同士の激突は、個の力を数で飲み込んでいく。


 連合軍の戦士たちは勇猛果敢に戦っている。
 彼らが怪我を負っても、エメリナの力によってたちまちのうちに治ってしまうが、それとて万能ではない。
 一撃で絶命するような場合は流石に回復不可能であるし、何度も大きな怪我が癒える訳でもない。
 失われた命は戻らないという自然の摂理は、厳然として存在するのだ。

 それでも、魔物が主力のグラナ軍と互角に戦えるのは、女神の加護の賜物であろう。






 そんな戦場に一人の少女が現れて、大声を張り上げる。
 『拡声』を使っているらしく、その声は戦場の怒号に掻き消されることなく響き渡る。


『聞け!!グラナの臣民よ!!私はグラナ帝国の第三皇女、エフィメラである!!』

 突然の名乗りに、グラナ軍の人間の兵に動揺が走る。
 将校たちはそれを収めようとするが……


『此度のお前達の侵攻は、皇帝陛下の意思によるものではない!!全ては黒神教の野望によるものである!!』


 激しい戦いの中、エフィメラの演説は続けられる。


『この戦いに、グラナの大義など無い!!お前たちが祖国の事を想って戦うならば……黒神教こそが、その相手であると知れ!!そして、志があるのならば!!私とブレイグ将軍の下に集え!!!』


 ブレイグ将軍の名が出ると、更に動揺が広がる。
 中には、将校の一部にも迷いが見られた。




 エフィメラの演説は続く。

 そして……僅かながらも、グラナの兵の中に離反する者が現れ始めた。


 それはまだ、戦況を左右するほどのものではなかったが……多くのグラナ兵に、迷いの心を植え付けるものとなるのだった。

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