上 下
561 / 683
第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪

第十四幕 11 『黒き神の神殿』

しおりを挟む

 かつて『黒き神の神殿』を東大陸の地で発見したと言うリュート。
 そして、その場所がついに明らかになる。


 彼は一呼吸置いて私達を見渡してから、語り始めた。


「グラナ王都パニシオンを旅立った私は、東に向かいながら道中の町や村に立ち寄って情報を集めつつ、少しずつ候補を絞り込んでいった。段々と未開の地へと踏み入り、人の集落も無くなって後は地道に捜索を続け……」


 ごくり……
 私達は黙ってリュートの話に聞き入る。


「そして何ヶ月も方々を彷徨いながら……ついに隠された神殿を発見したんだ。そこは険しい山々を超えた先。荒涼たる赤茶けた大地に刻まれた、地獄の底にまで繋がってるかのような深い深い谷……あぁ、地球で言うところのグランドキャニオンみたいな感じかな?」

 ふむ、分かり易い例えだね。
 脳裏に映像が浮かぶよ。


「そこも相当に広大な場所で、その中から神殿を探し出すのも一苦労と思われたんだけど……そこに辿り着いたとき、明らかに魔素の流れに特異性がある事にに気が付いた。私はその中心地が何処なのかを探りながら、谷の底へと降りていった」


 どうやら……そろそろ旅の終わりが見えてきたね。


「それは正しく神殿だった。そんな谷底にあるのだから、おそらく隠されていたんだと思うけど……実際に目の前にすれば、そうとは思えないほどに巨大で、荘厳で……そして禍々しい雰囲気を醸し出していた。漆黒のそれは全く陽の光を返さず、まるでそこだけ『闇』が蟠っているかのようだった」


 話を聞いただけでも異様さを感じる。
 正しく邪神を祀る神殿といった雰囲気だったんだろう。


「あまりにも禍々しい雰囲気に呑まれて、流石に少し気後れしながらも中に足を踏み入れると……」

「「「ごく……」」」


「そこは広大な空間。奥の方は階段状になっていて、その上には祭壇らしきもの。そして、巨大な神像……まるで悪魔のようなそれが途轍もない禍々しさを放っていた。特異な魔素の流れはどうやらその神像を中心に渦巻いて、如何にも何かあると思わせるものだった。私は直感的に、この神殿こそが邪神が封じられた地であると確信した」


 リュートが語った光景は、かつて私が夢に見た魔王との最終決戦の場所と一致してるように思えた。

 しかし、リディアたちはどうやってそこを見つけたんだろう?
 そして、何故その場所に関する話が現在に伝わっていないのか?
 それはもしかしたら、この300年の間に黒神教が暗躍した結果なのかも知れない。


 ともかく、今重要なのは、邪神の封印地と思しき場所を知った今、どう動くべきか……という事だ。

 いや……先ずはリュートがそこを発見したとき、どうしたのかを聞くのが先か。

 彼は更に話を続ける。


「さて、とうとう目的の場所を探し当てて……当然、そこで詳しい調査をするつもりだったんだけど、どう言う訳か物凄く嫌な予感がしてね。『このままここに居てはいけない』、『早くここを立ち去らなければ』……そんな焦燥感が私を襲ったんだ」

「焦燥感……?」

「それが何なのかは分からない。とにかく本能的な怖れとも言えるそれに衝き動かされて……情けないことだが、尻尾を巻いて逃げ帰ってしまったんだ」

「……」

 一体何なのだろう?

 これまで聞いてきた話の感じからすれば、彼は未開の地にも怖じけずに挑むような勇気を持った人物だ。
 そんな地を身一つで旅するだけの力もある。
 ……自分で言うのも何だが。

 しかし、そんな彼が得体のしれない恐怖に支配されて、何も調べずに逃げ帰るとは……
 いや、それこそ邪神の強大な力を感じたが故の事かも知れないけど、どうもそれだけじゃない気がする。


 あ、そう言えば……

「あの。以前から気になってたんですけど……桧原琉斗はこの世界に『転移』したんですよね。転生ではなく。つまり、地球から肉体ごとこの世界にやってきた」

「あぁ……言いたい事は分かるよ。地球から転移してきたと言う割には強い力を持ってるのは何故か……って事だろう?」

「ええ。琉斗は武術は修めていたけど、この世界の基準に照らし合わせれば、そこまで突出した力を持ってるわけではなかった。それに、賢者リュートの伝説や遺したものからすれば、どう考えても『魔法』が使えるとしか思えない。知識は学べば良いけど、実際に使うのに身体の造りが違うのはどうしようもないと思ったのですが……」

「それはね、私にも分からないんだ。そもそも寝たきりだった身体が完治したのも謎だ。君が考えたように、私はこの世界に来てから魔法の存在を知り、そして実際に使うことが出来た。それも理由は分からないが……合わせて考えれば、単純に『転移』したのではなく、その際に身体がこの世界に適合するように造り変わったのかもしれない」


 ……身体が造り変わる。
 そんなことがあるのだろうか?
 だけど、確かにそうとしか考えられないのかも。

 そしてそれは、凄く重要な事を示している様な気がするんだよね……
 それが何かは分からないんだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―

中七七三
ファンタジー
ラトキア人―― 雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。 ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。 ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。 「自分は男だ――」 少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。 そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。 犯され、蹂躙され、凌辱される。 肉に刻まれるメスアクメの快感。 濃厚な精液による強制種付け―― 孕ませること。 それは、肉体が牝に固定化されるということだった。 それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。 原案:とびらの様 https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808 表紙イラスト:とびらの様 本文:中七七三 脚色:中七七三 エロ考証:中七七三 物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。 シノプスのみ拝借しております。 もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。

処理中です...