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第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪
第十四幕 2 『聖域』
しおりを挟む私に『賢者リュートの足跡を見せる』……メリアさんにそう言われた私は、彼女に連れられてウィラー王城を後にする。
途中、テオに事情を話して一緒に来てもらうことにした。
客室付きのメイドさんに、メリエルちゃんへの伝言も頼んである。
「それで……どちらに向かうんですか?」
「取り敢えずは街を出ましょう。西門の方ね」
そう言って私達を先導して街路を行くメリアさん。
森都の西門から伸びるのは『青の街道』だ。
デルフィア王国の王都デルフィニアを起点に海沿いを通り、ウィラー王国に入ると大森林に入って森都の北門に至る。
そして、森都の西門から再び大森林を抜けて海沿いに出て……遥かアダレットまで至る長大な街道である。
その行程のほとんどが海沿いを通るため、そう呼ばれている。
西門から街の外に出ると、深い森の中を広い街道が真っ直ぐ伸びていた。
天を覆う枝葉の間から柔らかな木漏れ日が降り注ぐ美しい光景に目を瞠る。
これが本来の街道の姿なんだ。
「街道はすっかり元通りだな。人の往来も」
「そうだね、結果としては早期解決できて良かったよ」
「あなた達が力を貸してくれたお陰ね。元女王……の影として、お礼を言うわ」
もう何度目かになるメリアさんのお礼を聞く。
伝説上の人物が目の前にいることに、改めて不思議な気分になった。
「さて、暫くはこのまま街道を進んで……そうね、だいたい一刻くらいかしら」
約2時間の旅程か。
それほど遠い場所ではないんだね。
暫くは木々の爽やかな香りを楽しみながら、私達は街道を進んでいくのだった。
「ここよ」
「ここ……?」
メリアさんの言った通り、およそ一刻程の後に辿り着いた場所……
一見して今まで通ってきた街道の光景と何ら変わった様子は見られない。
しかし、ほんの微かに……魔力の揺らぎを感じる?
「何か隠蔽されている……?」
「あら、流石ね。そう、ここには秘密の入口が隠されているのよ。こっちよ」
そう言ってメリアさんは街道から外れ、木々の間に分け入っていく。
この辺りは少し薄暗く、下生えも深くはないので歩くのにそれほど苦労しない。
そして、街道が見えなくなるくらいまで森の中に入っていくと……
「凄い大きさだな。森都の精霊樹、とまではいかないが……」
テオが見上げながら言うように、森の中に分け入った私たちの目の前に現れたのは、巨大な樹。
それこそ森都の精霊樹を思わせるようなものだった。
「こんな巨大な樹が……街道から見えても良さそうだったけど?……あ!そうか!あそこで感じた魔力はこれを隠蔽していたのか」
「その通り。ウィラー大森林の各地にはこういった大樹がいくつかあってね。『王樹』へと至る道の目印になってるのよ」
王樹……?
と聞くと、かつてのアクサレナダンジョンでの嫌な記憶が呼び起こされるけど。
「ちょっと待っててね」
メリアさんはそう言って大樹に近付いていき、手を添えて……
『緑の王たる我が意に応え、ここに道を示せ』
これは……神代語?
すると、大樹に添えた彼女の手を起点にして波紋のように緑の光が広がっていく。
「おぉ……」
「凄い……」
テオと私の口から感嘆の声が漏れた。
光が収まったとき……メリアさんが手を触れていたところには、まるで門のように大きなうろが空いていた。
中を覗き込むと、奥の方に外のものらしき光が見える……これが、『王樹』に至る道?
「さあ、行きましょう」
メリアさんを先頭に中に入り、光に向かって進む。
やがて出口から外へ……眩しさに少しだけ目を細める。
そして、目の前に広がった光景は。
「これが……『王樹』」
「綺麗……」
先程の大樹が霞むくらいの壮大な景色が飛び込んできた。
鮮やかに花々が彩る広々とした草原の真ん中に、天に届かんとばかりにそびえ立つ巨木。
森都の精霊樹よりも更に大きく見えるその樹こそが『王樹』なのだろう。
「ようこそウィラーの聖域へ。『緑の王』メリアドール=ウィラーの影たる私は、賢者リュートの後継者であるあなたを歓迎いたします」
感激に浸っている私に向かい、メリアさんは厳かに告げるのであった。
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