550 / 683
第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪
第十四幕 プロローグ 『戦後処理』
しおりを挟む森都防衛戦から数日後、私はブレイグ将軍に面会を申し入れた。
今回の戦いで捕虜となったグラナ兵は相当数に上る。
当然、彼ら全員を収容できるような施設などなく、大樹広場にキャンプを設営して何とか凌いでいるような状況だ。
幸いにも近隣の住人との大きなトラブル等は無く、グラナ兵たちも大人しく沙汰を待っている。
侵略者に対する憎しみの感情が無いわけではないだろうが……リナ姉さんのお陰で最終的には犠牲が出なかった事と、グラナ兵すらも命を救われた事が負の感情を抑える結果となってるのだろう。
しかし、いつまでも大樹広場に留め置くわけにもいかないだろう。
ここ数日の間に行われた会議のいくつかには私も参加させてもらったのだけど、そのあたりの話も当然議論された。
そして結論としては……捕虜たちはいくつかのグループに分けて、ウィラーや周辺国の労働力として国家事業に従事してもらうというものだ。
もちろん機密に触れないものに限る。
この大陸には奴隷制度というものは無いが、自由が制限されるという意味ではそれに近いかもしれない。
衣食住は保証されるし、労働環境もある程度配慮される。
将来的に、グラナ帝国との問題が解決すれば帰郷することも出来るだろうし、待遇としてはこれ以上は望むべくもないだろう。
因みに、イスパルでも捕虜を行き受ける事になったが……どうやら鉄道敷設関連の土木工事に動員するらしい。
レティ……やるね!
という事で、それらの事情を説明するためにブレイグ将軍が抑留されている騎士団詰所の拘置所にメリエルちゃんと一緒に向かっているところだ。
拘置所といっても貴人用のものなので、不自由はあるだろうけど高待遇ではある。
「カティア、ごめんね。付き合わせちゃって」
道すがらメリエルちゃんが申し訳無さそうに言う。
「何言ってるの、対グラナの問題はウィラーだけのものじゃないよ。だから会議にも出席させてもらったわけだし」
「うん……ありがとう。私って今まで割と自由にさせてもらってたけど……少しずつでも公務を覚えていかないとね。お姉ちゃんもまだ復帰できてないし、フォローしないと」
「……私も新米王女だからね、その気持ち分かるよ。お互い頑張ろうね」
「うん!取り敢えず今回の問題を片付けて、早く学園に戻りたいな。将来のための勉強も大切だからね。……欠席が祟って落第なんてしたくないよ。私はカティアと違って成績優秀じゃないから……」
「だ、大丈夫だよ」
今度は情けない顔をして言うメリエルちゃんを慰める。
でも……彼女は別に頭が悪いわけじゃないし、十分取り戻せるとは思うよ。
と言うか、むしろ最近は成長著しいし、そんなに心配は要らないんじゃないかな。
そして私達はブレイグ将軍が居る拘置所へとやって来た。
ここには彼の他にも上級士官の何人かが収容されている。
見張りの兵に鍵を開けてもらい、扉をノックしてから部屋の中に入る。
貴人向けと言うだけあって、部屋はそこそこの広さがあり、居心地は悪くは無さそうだ。
私達が中に入ると、ソファに座っていたブレイグ将軍が立ち上がって迎えてくれた。
「ブレイグ将軍、こんにちは。お加減は如何ですか?」
私との戦いで大きなダメージを負った上に、薬師の策略によって一度は異形へと変じてた彼だったが……リナ姉さんのお陰で特に体調は問題ないようだ。
「カティア殿、よくぞいらしてくれた。それにそちらは……」
「はじめまして。私はウィラーの第二王女、メリエルです」
「お初にお目にかかります。私はブレイグと申します。侵略者である我らに過大な配慮を頂き、心より感謝申し上げます」
頭を下げながら丁寧な口調で礼を述べるブレイグ将軍。
戦闘のときの荒々しさは鳴りを潜め、今は穏やかで落ち着いた雰囲気だ。
そうしていると歴戦の戦士というよりは、威厳のある貴族のように見える。
「あなた方が来られたということは……我らの処遇が決まりましたかな?」
「はい。それを伝えに参りました」
そしてメリエルちゃんが捕虜たちに対する処遇について説明をする。
彼がどういう結果を想像していたかは分からないけど、多分それよりは悪くない話だとは思う。
黙って説明を聞いていたブレイグ将軍は、メリエルちゃんの話が終わると思案する様子を見せる。
そして……
「寛大な裁定を頂き、ありがとうございます。全てのグラナ兵を代表して感謝申し上げます」
再び頭を深々と下げて礼を言う。
「ブレイグ将軍。今回の処遇は将来的に禍根を残さないためのものです。幸いにもエメリナ様のお力により、双方に犠牲者が出なかったからこその処遇でしょう」
「承知しております。私や上級士官は処刑されても文句は言えないと思ってましたから」
被害が甚大なら当然そうなってただろうし、今回だってそう主張する人も多くいた。
だけど、真の敵は黒神教である事がサミットでも認定されていたし、ブレイグ将軍から聞いた話では今回の侵攻はグラナ皇帝の意志によるものではない……少なくとも直接の指示は無かったということから、最終的に今回の結論に至ったのだ。
さて、取り敢えずここに来た目的は果たしたが……私から彼にもう少し話すことがある。
「ブレイグ将軍。あなたはエフィメラ様をご存知ですか?」
「!?エフィメラ様、ですと……何故その名を?」
やはり、知っているか。
かなり地位の高い人物だと思われたし、皇帝と直接の面識があるような口ぶりだったので、きっとエフィの事も知っているだろうと思った。
「彼女は現在、我がイスパルに亡命しています」
私はその事実を伝える。
ブレイグ将軍は驚きをあらわにするが、直ぐに納得したかのように言う。
「そうですか……やはり、そういう事だったのか」
「やはり、とは?」
「エフィメラ皇女は数年前に急病で亡くなったと我々は聞かされていた。だが、私を始めとして多くの者はそれを不審に思っていました」
「エフィは……彼女たち皇族はカルヴァード大陸の国々とは和平を望んでいると言ってます。皇帝陛下も同じ考えだった、と」
「…………」
私の話にブレイグ将軍は暫し瞑目する。
彼が忠誠を誓った皇帝は戦いなど望んでいなかった。
それを聞かされた彼の心情はいかなるものか?
暫く考えた後、彼は口を開いて言う。
「今回の戦は……我々は黒神教に騙されていた、という事か。……いや、それは薄々は分かっていた事だ。結局の所それも言い訳に過ぎないな」
彼が皇帝に近しい立場だったのなら、確信には至らずとも疑念は抱いていたのだろう。
そして、疑念を晴らすことなく黒神教の手先となって戦いに身を投じたことをきっと後悔してる……
彼の苦悩の表情から、それが読み取れた。
「将軍、今回の結末ならば……まだ過ちは取り戻せると思います」
「……エフィメラ様の刃になれ、と?」
「私の一存では決められませんけど、あなたもそうしたいのではないですか?」
「それが叶うことならば」
「なら、私から口添えはします。希望に添えるかはまだお約束出来ませんけど」
「私も!!お父さんは説得するよ!」
彼ほどの有能な指揮官兼戦士が仲間になるのなら、非常に心強い。
なんせ父様とも互角にやりあったと言うのだから。
私自身も彼と戦って、その強さは骨身に染みている。
祖国に刃を向けるのは複雑な心境だろうけど……是非とも彼には力を貸してほしいと思うのだった。
10
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!
hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。
ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。
魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。
ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~
夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。
そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。
召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。
だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。
多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。
それを知ったユウリは逃亡。
しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。
そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。
【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。
チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。
その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。
※TS要素があります(主人公)
アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)
くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。
滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。
二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。
そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。
「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。
過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。
優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。
しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。
自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。
完結済み。ハッピーエンドです。
※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※
※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※
※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※
※あくまで御伽話です※
※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる
O.T.I
ファンタジー
王立アレシウス魔法学院。
魔法先進国として名高いフィロマ王国の中でも最高峰の魔導士養成学校として揺るぎ無い地位を確立している学院である。
古の大魔導士アレシウス=ミュラーが設立してから千年もの歴史を刻み、名だたる魔導士たちを幾人も輩出してきた。
フィオナは、そんな由緒正しきアレシウス魔法学院の一年生に所属する15歳の少女。
彼女は皆から『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたが、とある秘密を持っていた……
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる