上 下
541 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 64 『生命神の祈り』

しおりを挟む


「う、ぬぅ……!!」

「あとはお前だけだ……!」


 リナ姉さんのお陰でブレイグ将軍は元に戻り……生き残っているグラナ兵も戦意喪失。

 残りは薬師のみ。
 この戦いも大詰めだ。



「……流石に多勢に無勢じゃな。ここらが潮時か」

「逃げるつもりか!?」

「そう簡単に逃げられると思うなよ!!」

 散々好き勝手しておいて……絶対に逃がすものか!!

 奴をここで倒しておけば、あの厄介な薬の数々を開発する者がいなくなる。
 黒神教にとっては大きな痛手となるだろう。


「もう逃げられないわよ」

 あくまでも冷静にメリアさんが言う。

 彼女の言う通り、既に私達は薬師の周囲を取り囲んでいる。
 この包囲網を突破するのは容易ではない。


「ひょひょひょ……なぁに、こんな囲みを突破するくらい造作もないわ」

「無理ね。まだ気がついてないのかしら?」

「何がじゃ?…………!?身体が……動かぬ!?」

 薬師の目が驚愕に見開かれる。
 身体が動かない……?
 もしかして、メリアさんが何かしたのか?


「言ったでしょう?私も薬や毒には詳しいって……ね」

「馬鹿な!?このワシに毒を盛ったのか!?いったいいつの間に!!?」

 タイミングがあるとすれば、先程の近接戦闘の時だろう。
 いつの間に、と言うのは私もそう思ったけど。


「ちゃんと魔族にも効いたみたいで安心したわ。文字通り……毒を以て毒を制す、よ」

「馬鹿な!!馬鹿なぁっ!!」


 ついに、薬師の最期のときだ。
 身動きの取れない相手を倒すのは、少し躊躇いがあるけど……
 これまで散々生命を弄んできた償いは取ってもらわなければならない。


「カイト君、今の解放状態の聖剣なら魔族を倒すこともできるわよ」

「ええ。任せてください」

 テオの聖剣グラルヴァルは、彼のシギルの力によって秘めた力を解放され、鮮烈な青い光を激しく噴き出している。
 ディザール様のシギルを発動したときの私のように。


「やめろ……やめるのじゃ!!!!」

「ハァーーッッ!!!」


 ザンッ!!!


「ぐぁーーーーっっっ!!!」


 テオの聖剣が気合とともに振り下ろされ、薬師を袈裟懸けに斬り裂いた。
 そして、薬師から断末魔の叫びが上がる。


「馬鹿な……馬鹿な……ワシの……永遠の生命が……こんな………………」


 斬られたところからボロボロと崩れ去って……やがて黒い灰となって消滅する。


 ウィラー王国を苦しめた薬師ヤォウーの最期は、そんなあっけないものであった。



















「終わった……な」

「ふぅ……レーヴェラントの時も、今回も……中々キツかったぞ」

 ジークリンデ王女とイスファハン王子が、ようやくと言った風に緊張を解いて言う。
 本当にお疲れ様……だったね。


「これから事後処理もあるだろうが……取り敢えずはこれで落ち着けるか」

 テオも流石に疲労を隠せない様子。

 ……多分、最期の止めを買って出てくれたのは、私に気を遣ってくれたのだろう。
 きっと、リナ姉さんに言われなくても……

 魔族に致命ダメージを与えられるのは、彼の聖剣以外だと、私の滅魔の刃になる。
 身動き出来ない敵に止めを刺すのは確かに抵抗があったし……そんな私の心情を察してくれたのだろう。

 私、そんなにヤワじゃないけど……でも、その気持ちが嬉しい。




『みんな、ウィラーを守るために力を貸してくれてありがとう!』

「でも……たくさん犠牲者が出てしまったね……」


 今私たちがいる辺りだけでも、敵味方双方に死傷者が倒れている。
 せめて、生き残っている人の治療はしていかないと。

 そう思っていると。



「大丈夫よ。ね?リナちゃん?」

「ええ。せっかく地上に降りたんだからね。存分に力を振るわせてもらうから」


 そう言ってリナ姉さんは……祈りのポーズをとって、空に浮かび上がる。
 ちょうど地上に降臨したときを逆回しにするように……


「まだそれほど時間が経ってない今なら……魂がまだ現世に留まっているなら。傷付き倒れ伏したる者たちよ……生命神たるエメリナの名にかけて、今ひとたび生きる力を授けん」


 空高く舞い上がったリナ姉さんが祈りの言葉を紡ぐと、暖かな光が地上へと降り注ぐ。

 キラキラと雫のように煌めくそれは、倒れた者たちに吸い込まれると、たちまちのうちに傷が癒えていく……




「おぉ……神よ……」

 人々は天を仰ぎ、神の慈悲に涙する。



 そして、悠久の時を超えて神が降臨したこの日。
 奇跡が生まれるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ
ファンタジー
ブラック企業でエンジニアをしていた主人公の青木錬は、ある日突然異世界で目覚めた。 転生した先は魔力至上主義がはびこる魔法の世界。 だが錬は魔力を持たず、力もなく、地位や財産どころか人権すらもない少年奴隷だった。 前世にも増して超絶ブラックな労働環境を現代知識で瞬く間に改善し、最強の賢者として異世界を無双する――! ※他の小説投稿サイトでも公開しています。

処理中です...