534 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 57 『薬師』
しおりを挟む「……今頃何しに出てきたか。今まで何をしていた?」
まだダメージが抜けきらないブレイグ将軍は、上半身だけ起こして怪しげな人物に声をかける。
その声は苛立ちの色合いを含んでいた。
「ひょひょ……勿論、森都を陥落させるためのアレコレじゃよ。サボっていたわけではないぞ?……しかし将軍よ。折角、ワシ特製の秘薬を譲ったと言うのに、随分な体たらくじゃのぉ……何とも情けない」
「……」
言いたい放題の言葉に、反論することが出来ない将軍。
それにしても……秘薬、だって?
もしかして、それが[鬼神降臨]をあり得ないくらい長時間維持させる事が出来た理由なのか?
そして、魔族で薬の開発者と言う事は……
「『薬師』……?」
「ひょ?ほほぅ……嬢ちゃんはワシの事を知っておるのか。いかにも、ワシこそ黒神教の七天禍が一柱。『薬師』のヤォウーと申す」
そう言いながらローブを取り払って正体を見せる。
そこに現れたのは、白髪白髭に金瞳と言う魔族の特徴を持った老人。
東方風の服装をしたその様は、まるで仙人のようだ。
「仕方がないのぉ……ここはワシが将軍の役割を引き受けてしんぜよう」
「役割と言っても……見ての通り、もう戦いの趨勢は決したよ。もうあなたくらいしか残ってないから」
『そうだよ!!魔物も兵士さんも、殆どやっつけちゃったんだから!!』
街全域に現れ、メリエルちゃんが自由自在に操る精霊樹の根によって、敵勢力は壊滅状態だ。
ただ……例え一人だけでも魔族の力は未知数。
以前は調律師たった一人相手に相当な苦戦を強いられ、挙げ句に逃げられてしまった。
決して油断は出来ない。
「ひょひょ……ワシ一人だけ?そんな事はないぞい」
「え……?」
一体何を……?
すると、薬師の身体から瘴気の波動が放たれ、一気に戦場全体に広がっていく!
だが、それはごく微弱なもので……私もまともに浴びたけど、特に何か影響があるわけでも……
『あっ!?魔物が……兵士さんも!?』
メリエルちゃんの驚きの声が響き渡る。
何事かと思って周囲を見渡せば…………!?
「なっ!?」
倒したはずの魔物やグラナ兵が立ち上がろうとしてるではないか!?
グラナ兵はともかく、魔物は確実に絶命していたはず!!
「ひょっひょっひょっ!!どうじゃ?ワシの軍勢は不死身じゃぞ」
「しょ、将軍……!」
「か、身体が勝手に……!?」
意識のある兵から戸惑いの声が上がる。
死亡していた者も、負傷して倒れていた者も、投降して無傷だった者も……身体の自由を奪われて、再び戦おうとする。
「きさまぁ!!薬師!!俺の部下に何か盛ったな!!?」
ブレイグ将軍が激昂する。
彼の言う通り、薬師が事前に何か仕込んでいたのだろう。
「ひょひょひょ……その通り。兵糧や魔物のエサに、ちょこっ……とな。古の秘薬をベースにワシが特別に調合したスペシャルな薬じゃよ」
『このぉっ!!!』
ぶんっっ!!
メリエルちゃんが操る精霊樹の根が薬師を襲う!!
「おっと」
薬師は危なげなくそれを躱して、根に手を添え……
「危ないのぉ……ほれ」
薬師の手が触れた部分から……木の根が枯れていく!?
『わわわっ!?やばっ!!カティア、侵食される前に斬って!!』
「わ、分かった!!」
メリエルちゃんに頼まれた私は、すごい勢いで枯れ始めた根を斬り飛ばす。
「毒……?」
「なに、唯の枯葉剤じゃよ」
『メチャクチャやばいやつだよ!!』
あんなに一気に枯れるなんて……相当な劇毒だ。
つまり、こいつの力はその名の通り薬や毒を扱うということか。
……これは、これまでの相手とはまた違った厄介さだよ。
そして、再び敵軍も復活(?)してしまった。
「ひょひょひょ……ここにいる兵や魔物だけではないぞい。これまでワシが不在だったのは……ちと、森の魔物たちを案内しておったのじゃよ。のぉ、神狼の?」
『ぐるぅ……』
薬師の後ろから一匹の魔物が現れる。
それは大型犬サイズの狼だが……
『神狼の子供!?まさか……そうか!その子を操って……だから森都までやって来れたんだ!!』
メリアさんが言ってた通りだったね……
それに、森の魔物たちを案内って……今回の魔物たちは、コイツが操っていたと言う事?
おそらく、何らかの薬で……?
とにかく、元凶のコイツを倒さなければ!!
10
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる