517 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 40 『森都へ』
しおりを挟む「さて、ロビィはどこにいるのかな……?」
ロビィを探すべく宿の外に出る。
昨夜別れ際に『外で待ってる』と言ってたから、近くにいるはず。
……いや、メリエルちゃんの通訳によれば、なんだけど。
『ウォンッ!』
「あ、ロビィいたよ!」
どうやら先に私達を見つけたらしいロビィが、一声吠えて居場所を知らせてくれた。
「ロビィ、お待たせ~」
『ウォウッ!』
尻尾を振って嬉しそうにメリエルちゃんにすり寄って来る。
うむ、眼福。
「ねぇロビィ、あなた森都……人がたくさん住んでる場所って分からない?」
『ワウ?ウ~……ウォンッ!』
「あ、分かるんだね!案内してもらっても良いかな?」
『ウォンッ!!』
ぴんっ、と尻尾を立てて応えるロビィ。
任せろ!って言ったんだね、きっと。
ロビィに案内してもらえるなら夜を待たずに出発する事が出来る。
順調に行けば今日中に森都に辿り着ける……か?
「では、善は急げだな」
「そうですね。早速出発の準備をしましょう」
ということで、一旦宿に戻って出発の準備をすることに。
そして……
「申し訳ありません、メリエル様。我々はこの宿場で民間人の保護にあたるように言われているので……」
出発の見送りに出てくれたアランさんと、彼と同じく任務に当たっていた兵士達が申し訳無さそうに言う。
私達に同行出来ない事を気にしてるのだろう。
まぁ、彼らが任務外の行動を取るわけには行かないだろうし、判断を下せるような上位の士官もいないみたいだから仕方ない。
もともと同行をお願いするつもりも無かったし。
「ううん、あなた達はしっかり自分の任務を全うして。森都の事は私達に任せて!」
メリエルちゃんが安心させるように力強く宣言する。
ここ数日で彼女は本当に強くなったと思う。
以前は『王女らしくない』なんて自分で言ってたけど、今のメリエルちゃんは王族としての威厳が滲み出ているように見えるよ。
「メリエル……変わったわね」
ステラもそれを感じ取ったのか、眩しそうに見つめていた。
「よし、行こうぜ」
「ロビィ、お願いね!!」
『ウォンッ!!』
こうして私達は再び森林へと足を踏み出すのだった。
ーーーー ウィラー大森林 某所 ーーーー
「『薬師』殿よ、本当に道が分かっているのか?」
「ひょひょ……なんじゃ、疑っておるのか?なぁに心配は無用じゃよ」
ブレイグ将軍の問に、薬師は相変わらず飄々として答える。
彼らは『大森林結界』の発動によって自分たちの現在地や目標としていた森都の方角を見失い、行軍を一時中断せざるを得なかったのだが……
薬師の『ある秘策』によって再び進軍を開始していた。
「それよりも……どうするのじゃ?本来ならば隠密行動による奇襲攻撃を前提とした電撃作戦だったはずじゃろう?」
「……確かに、この森の異変がウィラーが行った何らかの策なのであれば、既に我らの存在は気取られていると言う事だろう」
「じゃな。それで?」
「やることは変わらんよ。こちらも隠密行動ゆえ手勢はそれほど多くないが……ウィラーも戦力の多くを国境付近に割いてるはず。森都の守りはそれほどではないだろう。これはおそらく援軍が来るまでの時間稼ぎ。だったらそれよりも早く森都を陥とす」
「ふむ……」
「厳しい戦いになるのは避けられないだろうが、こちらには切り札もある。そうだろう?」
そう言うブレイグの表情は、何故か忌々しげだ。
その『切り札』を快く思っていないのだろう。
そして、ブレイグの言葉を受けた薬師は、彼とは正反対のご機嫌な様子で答える。
「ひょひょ……そうじゃのう、そうじゃのう。ならば、早く森都に辿り着くよう、しっかり道案内してもらわねば。のう、森の番人よ?」
『…………』
薬師に声をかけられた存在は無言を貫く。
……いや、その瞳には意志の光が見えず、答えようがなかったと言うべきか。
ブレイグは未だ疑心暗鬼であったが……彼の軍勢はゆっくりと、しかし着実に森都へと近づいているのであった。
10
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる