上 下
513 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 36 『神狼』

しおりを挟む

 先制でブレス攻撃を放ってきたキマイラは、それが防がれたと理解するやいなや四肢に力を込めて猛烈な勢いで飛び出してくる!

 大きく跳躍して後衛を直接狙ってこようとするが……


「させるかっ!!」

 頭上を飛び越えようとするキマイラに向かって、イスファハン王子が大上段から長剣を振るう!!


 ガキィッ!!


 その一撃はキマイラの前脚の爪で防がれるが、やつが後衛まで抜けようとするのは止められた。

 動きを止めたキマイラ、その好機を逃すまいとジークリンデ王女が大剣を首に叩き込もうとする!


「はぁーーーっっ!!」


 だが、キマイラは俊敏に身を翻してそれを躱す!

 しかしそれを読んでいたテオが更に肉薄して……いや、マズい!!


「テオ、避けてっ!!」

「っ!?」


 フォーーーッッ!!!


 キマイラの肩口から生えた山羊から、毒々しい色をしたブレスが放たれるが、既のところでテオは回避する。

「毒霧のブレスか!!厄介な……」


 キマイラは炎のブレスや強靭な身体から繰り出される鋭い爪や牙による物理攻撃も脅威だが、今の毒霧や尻尾の蛇による毒咬み付きといった搦め手も非常に厄介だ。
 最初に後衛を狙ってきたように知能も高く、高ランクに相応しい強さを持つ魔獣である。



 さて、初撃は双方に有効打が無く振り出しに戻る。

「ステラ、メリエルちゃん。援護できそう?」

「大丈夫よ。今の攻防で動きは把握したわ」

「私も!」

 私の問いかけに頼もしい答えが返ってくる。

 先程までの攻防はほんの前哨戦。
 前後衛の連携をしっかりとって戦えば勝利の道筋は見えてくるだろう。

 更に言えば……私達にはそれぞれ切り札がある。
 例えSランクが相手だとしても、早々遅れはとらないよ!





 ……と、気合を入れ直して戦闘再開!と思ったのだが。


『ぐるぅっ!?』


「?何だかキマイラの様子がおかしいよ?」

「何かに怯えているような……?」


 私達と対峙しながらも、どこか強者の余裕を感じさせ威風堂々といった雰囲気のキマイラだったのたが、突然落ち着きがなくなり……確かに何かに怯えるような仕草を見せ始めた。


「ねぇ、これってもしかして……」

「考えたくはないが……」

「……もっと強い魔物が?」

「……だな」

 皆思うところは同じようだ。

 キマイラ程の強力な魔獣が怯えるような事態は中々考えられない。
 あるとすれば、より強力な魔物の存在……それこそSランク相当の魔物が来ている可能性が。

 そう思って気配を探ると、確かにキマイラの奥の方から強烈なプレッシャーが近づいてくるのを感じる……!
 戦闘に集中するあまり、ここまで接近するのに気が付かなかったか……


「みんな気を付けて!!キマイラより強力な魔物かもしれないよ!!」

「マジか……流石に二体相手取るのはキツイな」

シギルの発動もしなければならないか」

「あまり消耗したくなかったが仕方ない」


『ぐるるるぅ……』

 キマイラはもはや怯えを隠さず、身体を縮こませる。
 まるで借りてきた猫のように大人しくなる。


 そして、キマイラの奥の森、闇の中から現れたのは……















 その巨躯は立ち上がれば優に3メートルは超すだろうか。
 その身体はキマイラよりは小さいものの、そこから放たれる圧倒的なプレッシャーが格の違いを見せつける。

 それは、夜光樹の光に照らされて白銀に光輝く、神々しいまでに美しい毛並みの狼だった。
 額の部分だけ毛色が異なり、金色の満月のようだった。


 ゆっくりと歩み寄ってくる様は正に王者の風格。
 キマイラなど可愛らしく感じられるほどだ。

 そして私達の目の前までやって来ると立ち止まり、チラ……と魔獣を一瞥する。

 すると、まるで『行け』とでも言われたかのようにキマイラは弾かれたようにビクッとなってから、脱兎のごとく逃げ出してしまった。



 そして、狼は私達に向き直る。
 その瞳は理性の光をたたえている。
 先程まで放たれていた大瀑布の如き強烈なプレッシャーは既に無く、凪いだ湖面のような静謐な雰囲気だ。


 もしかして……この狼が?


「……神狼」


 そして、私の推測を肯定するように、メリエルちゃんが呟くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...