508 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 31 『聖都ブリュネ』
しおりを挟むウィラー王国はイスパルの隣国だが……国境を接しているのは旧アルマ王国の地域だ。
建国時の領土であるウィラー大森林はアルマ地方の更にその先だ。
アルマ地方はその多くが平原となっている。
……平坦な地形であるが故に、300年の大戦時にはグラナ侵攻のメインルートとなって甚大な被害を受けた。
もちろん今では国境付近に難攻不落の砦が多く築かれて、防衛体制は万全……のはずだったのだけど。
アルマ王家が滅んで以降は、所属はウィラー王国になっているのだが……独自の自治権を持ち、文化面でも本国とは異なる点がかなり多いらしい。
さて、私達はウィラー大森林に向かう前に、そのアルマ地方の都市……かつての王都であり、エメリール大神殿のお膝元でもある聖都ブリュネへ寄る事になっている。
何らかの情報が入っているのを期待しての事だ。
ロコちゃんたち飛竜も休ませなければならない。
昨日、まだ日の高いうちにアクサレナを出発したのだが、日が落ちてからも飛び続け……翌日の昼前には聖都ブリュネが目前となった。
上空から眺めるブリュネの街並みは、白を基調とした建物が所狭しと立ち並び…しかし、その屋根は鮮やかさを競うように色彩豊かで、まるでモザイク画のような美しい光景だ。
一際大きな建物が二つ見えた。
一つは、かつての王城を再建・改装した政庁舎。
もう一つは、エメリール大神殿だ。
私達を乗せた竜籠はグングンと街に近づいて、街並みを眼下に収めるところまでやってきた。
外壁に立つ物見の兵がこちらを見上げて、慌ただしくしているのが見える。
本来は外壁の外に降りて門から入るべきなんだろうけど……先立って早鳥による連絡が行ってるはずなので、このまま政庁舎まで直行する。
万が一連絡が届いてなくても、竜籠にはウィラーを中心に、イスパル、レーヴェラント、アダレット、デルフィア、カカロニアの紋章が掲げられているので問題ないだろう。
そして竜籠は政庁舎の中庭へと降り立った。
何らかの合図があったのだろうか、既に中庭に出迎えの人達がずらりと並んでいた。
竜籠を降りた私達に、出迎えの列から進み出た一人の初老の男性が声をかけてきた。
「おかえりなさいませ、メリエル様。そして皆様、ようこそウィラーへお越しくださいましました」
「お出迎えありがとう。え~と、こうして出迎えてくれたってことは、事態は分かってるんだよね?」
「はい。詳しくは庁舎内で……騎士団の責任者も交えて共有いたしましょう。しかし長旅でお疲れでは無いですか?」
「ううん、大丈夫だよ。今は一刻も時間が惜しいから。あ、皆は大丈夫?」
メリエルちゃんの問には全員が問題ないと返す。
彼女の言う通り早急に情報を整理して直ぐにウィラー大森林の方に行かなければならない。
私達は挨拶もそこそこに、政庁舎内の会議室へと案内されるのだった。
「森の魔物が……!?」
「はい、昨晩届いた早鳥による第一報でそのように……急ぎ各国にも早鳥を飛ばしたのですが、行き違いだったようです」
まぁ、とにかくウィラーに向かうのを最優先にしたから、そうなるだろう。
それよりも、いま騎士団の責任者から報告してもらったウィラー大森林の状況は、やはり深刻な内容だった。
「統制の取れた魔物の群れ。誘導する武装した人間。それはつまり……」
「魔王軍……」
誰かがポツリと呟いた。
そうだ。
今聞いた話は、まるで300年前の魔王軍を思わせる。
大戦では魔物と人間の混成部隊が猛威を振るったと言われている。
誘導する人間と言うのは、おそらくはグラナ兵なのだろう。
気取られないように少しずつ兵を集結させ……森林地帯ということもあって潜伏もさせ易かったのかも知れない。
しかし、そんな状況でメリエナさんの身に何かあったという事は……
「森都は……お姉ちゃんはどうなったの!?」
多分メリエルちゃんも状況が最悪であることは理解してるのだろう。
それでも、まだ希望を失うわけにはいかない。
そう思って更に状況を確認するのだが……
報告してくれた騎士は、どういう訳か困惑した表情で躊躇いがちに口を開く。
「それが……大森林の様子がどうにもおかしく……まるで内部状況が分からないのです」
「どういう事……?」
少し冷静になったメリエルちゃんが続きを促す。
そして騎士から聞いた話は、驚くべきものだった。
10
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―
中七七三
ファンタジー
ラトキア人――
雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。
ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。
ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。
「自分は男だ――」
少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。
そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。
犯され、蹂躙され、凌辱される。
肉に刻まれるメスアクメの快感。
濃厚な精液による強制種付け――
孕ませること。
それは、肉体が牝に固定化されるということだった。
それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。
原案:とびらの様
https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808
表紙イラスト:とびらの様
本文:中七七三
脚色:中七七三
エロ考証:中七七三
物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。
シノプスのみ拝借しております。
もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる