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第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 27 『メリエルの覚醒』
しおりを挟む「……カティアちゃん、お願い。ウィラーに行って……メリエナを助けてもらえないかな?」
「……カティア、私からもお願い。以前、あなたには危険なことはさせたくない……なんて言った手前こんなこと言うのは……」
意を決して言うリナ姉さんをフォローするように、リル姉さんも言いかけるけど……私はそれを最後まで言わせる前に答える。
「もちろん行くよ。リル姉さんも気にしないで。メリエルちゃんのお姉さんだもの、リナ姉さんに頼まれなくても放ってなんかいられないよ」
「カティア……」
「ありがとう、カティアちゃん。……そうだ、これを持って行って」
そう言ってリナ姉さんが渡してくれたのは……
「宝石?でも、この世界って確か……」
この神界は実体のない精神世界だったはずだけど……ここで渡されたものを現実に持って行けるのだろうか?
「ああ、これは魔力の塊……魔素結晶みたいなものよ。カティアちゃんの魔力を媒介して現実世界にも持っていけるよ」
「そうなんだ……それで、これは何なの?」
一見してエメラルドのような美しい緑色の宝石。
手渡されたそれを具に眺めると、確かにかなりの魔力が内包されているのを感じた。
「それ自体に何らかの力があるわけじゃないけど……まあ、目印みたいなものよ。カティアちゃんがそれを持ってウィラーに行ってくれれば、ある程度の状況が私にも見えるようになる……はず」
「なるほど……分かったよ。ウィラーには直ぐに……あぁ、先ずはこっちに来てるウィラーの人たちのところに何か情報が来ていないか確認しないとだね」
「みんな会議場に向かってるはずだよ!あと、リンデお姉ちゃんにも確認しよう!」
うん、行動指針が決まって前向きになってくれたね。
やっぱりメリエルちゃんが元気無いのは調子狂うよ。
もちろん、心配が無くなったわけじゃないけど……とにかく今は行動しなければならない事を、彼女も良くわかってるのだろう。
「あ、戻る前に……メリエル、ちょっとこちらへ」
「……?」
そう言ってリナ姉さんはメリエルちゃんを手招きして、その手を彼女の額にあてる。
「あ……頭の中に何かが………これ……は?」
例のお手軽学習かな……?
きっと、リナ姉さんが持っている何らかの知識を、メリエルちゃんの頭の中に直接刷り込んでいるのだろう。
「どう?それは初代女王が持っていた力の記憶なんだけど……印を継承した今のあなたなら、同じ力が使えるはずなんだけど」
あ……!
以前聞いたウィラーの初代女王メリアドールが持っていたというユニークスキルの事か!
「それと、私の印に関する知識も。ウィラー王家には口伝で伝わっていると思うけど、より詳細なところまでね。メリアのスキルとは抜群に相性が良いから、かなりの力になるでしょう」
「え~と…いっぺんに知識が入ってきて何がなんだか……でも、凄い力なのは分かります」
「追々、理解していくと良いわ。でも一つだけ試しておきましょうか」
そう言いながらリナ姉さんはメリエルちゃんに何か小さなものを手渡す。
メリエルちやんはそれを胸に抱くようにして集中し始める。
「……お願い」
一言だけ小さく呟いてから、手を開いて見せると……
「お~!凄い!!」
私は思わず感嘆の声を漏らした。
メリエルちゃんの掌の上には、ぐんぐんと芽を伸ばし始める植物の種が。
それは数センチ程の高さまで伸びて、双葉を開かせてから成長を止めた。
「うんうん、シミュレーションはバッチリ。力の使い方は理解できてるようね」
「これを、私が……?」
これが以前にリナ姉さんから聞いていた、メリエルちゃんが秘めていた才能……ユニークスキル『緑の支配者』か。
こんな凄い力が、なぜ伝説で語られていないのだろうか……?
と思ったけど、きっと異能とも言える力が知られる事で、人々から疎まれるのを恐れたのかも知れない。
まぁ、メリエルちゃんは王族で、今となっては印の継承者だから……この時勢、力を持つことは頼もしいと思われることこそあれ、疎まれることなどないだろう。
彼女自身が誰からも好かれる良い子だし。
「これで、メリエルちゃんの迷子も治るのかな?」
「え!?そうなの!?なんで!?」
前にリナ姉さんから聞いた話では……メリエルちゃんの迷子は、そのスキルが原因だと聞いた。
なんでも、今回スキルに覚醒する前も力の片鱗は現れていて……無意識に植物の意思のようなものを感じ取っていたらしい。
それに意識が奪われて……やはり無意識に感覚を共有しようとして、ある意味で植物と一体化、結果的に認識阻害のような効果となるらしい。
その状態でフラフラと彷徨って迷子になる、と。
言われてみれば、彼女が迷子になる場所……学園にはあちこちに庭園があるし、校舎内にも観葉植物が飾られてたりする。
街中には街路樹があるし、野外実習で訪れた山中は言わずもがな。
野外実習のときは、洞窟や地脈の守護者の存在を木々が教えてくれてたのかも?
「そ、そうだったの?……じゃあ、もう私は迷子にならないんだね!!」
リナ姉さんから説明されたメリエルちゃんは、長年の悩みから解放されるとあって大喜びだ。
きっとステラの苦労も無くなる事だろう。
しかし……
「元々の方向オンチは治らないと思うわよ?」
あ~……半ば怪奇現象だったのは無くなるけど、本人が元からそうだとしたら、それは変わらないのか。
「そんなぁ~……でも、だいぶマシになるだけでも嬉しい!!」
前向きな彼女はそれでも喜びの表情だ。
うん、だんだん調子が戻ってきたね。
「それじゃあ二人共……頼んだわね!」
「カティア、メリエル……十分に気を付けるのよ」
「任せて!!」
「私も……この力で、お姉ちゃんを助ける!!」
こうして、私達は神界を後にした。
急いで王城に戻って……情報収集しないとね!
ーーーー 神界 エメリールの領域 ーーーー
「行った……わね」
「うん……」
カティア達が現実世界に戻った後も、エメリナはその場に留まっていた。
「本当はメリエルは行かせたくなかったのでしょう?」
「……そうだね。でも、そんな事言えないよ。それに、この状況であの子が印を継承したのなら……彼女はきっと、時代に選ばれたんだと思う。カティアちゃんと同じようにね」
「そうね……私達にも見通せない運命の輪は確かにあるように思えるわ」
そこで二人は暫し沈黙するが、メリエルは意を決したように再び口を開いた。
「お姉ちゃん、今回の件……状況によっては私も地上に降りるわよ。ウィラーを……メリアとの思い出の地を守るために。そのためにカティアちゃんにあれを渡したのだから。……私も今から準備する」
妹のその覚悟を聞き、エメリールはただ静かに頷くのであった。
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