上 下
499 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 22 『壁の花とナンパ』

しおりを挟む

ーーーー エフィメラ ーーーー


 まさか亡命者である私がこのような華やかな場に出ることになるとは、思ってもみませんでした。
 ましてや、祖国が敵対している国の夜会なのだから尚更。
 それは、今私の隣に立つリシェラネイア様も同じでしょう。


「リシェラネイア様、大丈夫ですか?」

 何が……とは言いませんが、何やら戸惑っているご様子だったので、そう声をかけずにはいられませんでした。

「え、ええ……何分とこのような場には慣れていないので。……いえ、かつては私も夜会に出席した事はありますけど。はるか忘却の彼方ですからね」

 苦笑しながら、そう答えてくれた。


「あなたも随分と久し振りなのではないですか?」

「そうですね……。それに、私はグラナにいるときは、まだ本格的には社交界デビューはしてませんでしたから、元々それほど場馴れしてるわけでもありませんし」

 全く縁が無かったというわけではありませんが……夜会に出席するにしても、親類縁者や親しい者が集まるような小規模のものでしたし、常に父母兄弟の誰かが一緒にいてくれました。

 だけど今回のように、一人の責任ある立場の者としての出席と言うのは初めてです。


「まあ、カティアさん達のご尽力のおかげで、あからさまに敵意を向けられることも無さそうですし……せっかくなので楽しんでいきましょう」

「そうですね」

 内心で色々と思うところがある人はいるでしょうけど。

 積極的に声をかけてくる人もいないでしょうし、リシェラネイア様の言う通り、せっかくの機会だから華やかな雰囲気を楽しんでいきましょう。


 そう、思ったのですが……

















「お話、よろしいでしょうか?」

 会場の隅の方で目立たないように談笑していた私達に、声をかけてくる人がいた。

 確かこの人は……

「あなたは……カカロニア王国のイスファハン様ですね」

「これはこれは、エフィメラ様に覚えていただけているとは、誠に光栄でございます」

 聞きようよっては慇懃無礼で皮肉にも聞こえる言葉でしたが、穏やかな口調と表情から感じる雰囲気が、そうではないと感じさせます。

「私達と話を……ですか?」

「ええ。お美しい女性達が壁の花となっているのは些かもったいないと思いまして。男としては声をかけないのは失礼というものでしょう」

 これもまた、少々軽い言葉に聞こえるけど、やはり言葉とは裏腹の誠実な雰囲気を感じさせます。
 どうやらこの人なりに、不慣れな場に馴染めないだろう私達を察して気遣ってくれているのだと思いました。


「お心遣い感謝いたします。……ですが、王族の方であれば私達グラナの者に対しては色々と思うところがお有りなのではないでしょうか……?」

 彼の気遣いが本心のものかどうが気になってしまい、ついそんなことを口にしてしまった。


「……正直に申し上げれば、何も気にならないと言えば嘘になりますね。300年前も15年前も……我がカカロニアも甚大な被害が出ましたから」

 その言葉に私は思わず俯いてしまう。
 リシェラネイア様も、彼から目を反らしたりはしませんが、申し訳無さそうな表情。


「あ~、いや、すみません。あなた達を責めてるのではないですよ。王族ともなれば国同士のしがらみを多かれ少なかれ背負わざるを得ないでしょうけど……あなた達はそれを背負った上で今この場にいらっしゃる。それはとても勇気のいる事。そのような方たちには敬意を払わずにはいられません」

「イスファハン様……」

「それに。最初に言った通り、美しい女性と仲良くなりたいと言うのも本心ですよ」

 そう言いながら茶目っ気たっぷりにウィンクしてくるイスファハン王子。


「うふふ……ナンパですか?」

「いやだなぁ、そんなにチャラく見えます?俺は真面目に婚活してるってのに、とんと女性には縁が無いんだがなぁ……」

 心底心外だと言うふうに嘯き、口調も砕けたものになる。
 なるほど、これが彼の素という事なのですね。

 ……申し訳無いですが、表面的には軽薄そうに見えますよ、と思った。


「あらあら、若者たちは良いですね……お邪魔になりそうですから、私はカティアさんたちのところにでも行こうかしら?」

「え?ちょ、ちょっと、リシェラネイア様!?」

 急にそんなことを言うものだから慌ててしまう。


「ふふ……冗談よ。大事な身内は狼から守らないとね」

「はは、こいつは手厳しい」

 もう……

 ですが、彼と打ち解けられたのは良かったと思います。
 こうやって、いろいろな人と仲良くなれれば……
 平和を取り戻せたとき、私がグラナとの橋渡し役になれれば……

 そう、思うのでした。



ーーーーーーーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...