上 下
482 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り

第十三幕 5 『シェラのねがい』

しおりを挟む

 シェラさんから300年前の魔王征伐の裏事情を聞かされた。
 伝説では語られなかったそれらの話は、驚くべきものであった。

 そして、シェラさんが戦い続ける理由とは……


「シェラさんの『ねがい』は……今度こそ魔王を、黒神教を倒す、と言う事なんですか?」

「……少し、違います。結果としてはそうなるでしょうけど……私の真の願いは、リディアとの……そして、ヴィーとの約束を果たす事」

「リディアと、調律師……妹さんとの約束?」

 そう言えば、倒れる前に朦朧とし始めたシェラさんが私をリディアと勘違いして……「まだ約束を果たせていない」と謝っていたっけ……


「リディアとは……平和を取り戻したら、カルヴァードの国々とグラナで国交を樹立しよう……と。直ぐには無理だとしても、いつの日にか……」

 そんな約束をしてたんだ……

 確かに戦争をした相手と仲良くすることは難しいかも知れないけど……そうなっていれば、きっと違った未来もあったのかもしれないね。

「……その約束は、私達の代で実現しましょう。エフィとも仲良くなれたし、黒神教さえ打倒できれば……きっと実現できると思う」

「そうね。私もそうするつもりだったもの。リシェラネイア様、あなたのその願いは……私達の願いでもあります」

「……ありがとう」


「それで、その……妹さんとは……?」

「……そんな大層な約束ではありませんよ。全てが終わったら、また一緒に暮らそう……ただ、それだけです」

 悲しそうに目を伏せながら言うシェラさん。


「……グラナを出るとき、あの娘も一緒に連れていけば良かった。そうしていれば……きっと……」

 そして、彼女はその当時のグラナ皇家の実情を語りだす。


「魔王となった時のグラナ皇帝ファーガス三世……私達の父は、野心に満ちていました。しかし、その根底には……当時はまだ戦乱に明け暮れていた東大陸を統一して恒久平和をもたらす、という想いがあった。事実、戦によって併合した国の民も分け隔てなく自国の民として扱い、慈しんでいました」

 初めて聞く魔王…いや、そうなる前のグラナ皇帝像だ。
 野心家であっても、その目指すところは平和であったと言うのは……私が漠然と抱いていた暴君のイメージを覆すものだった。


「私は……戦によって力ずくで国を併合するやり方には反対でした。ですが、例え血を流してでも……未来のために行動する父を皇帝として尊敬していました。もちろん、父親としても敬愛していた」


 信念をもって行動する帝王。
 彼には彼なりの正義があったと言う事だ。

 だからと言って侵略される側が黙って受け入れるなんてことは無いのだけど。
 多くの人にとっては侵略や戦争は『悪』だ。

 シェラさんもそれを分かってるからこそ……尊敬し、敬愛はしても認めることは出来なかったのだろう。


「父は信念を貫き、東大陸の大部分を平定するに至った。しかし……運命の歯車は狂い始める。侵略の手を緩めようとしない父は、更なる力を欲していました。目をつけたのは黒神教に古くから伝わる『神降ろし』の儀。『黒き魂』を自らの身体に降ろして、人の力を超越して帝国の支配を盤石なものにしようとしたのです。そこから先は伝説で語られている通りです」


 果たしてその試みは成功し、皇帝は絶大な力を得て魔王となった。
 …いや、それは成功とは言えないか。
 力と引き換えに、人の心を失ってしまったのだから。


「変わり果てた父を何とかしなければ……そう思った私はグラナを出て、魔王に対抗できるだけの力を求めました。その時、妹にも一緒にグラナを出ようと言ったのですが……あの娘はグラナに残る選択を取った。『私が内から、姉さんが外から……力を合わせて頑張ろう』、と言って。そして、平和を取り戻したその時は……」


 しかし、ヴィリティニーアは黒神教に捕らえられて、黒き神への生贄とされ……父皇帝と同じように、その身に『黒き魂』を宿して魔族となってしまった。


 何て切ない話なのだろう……
 確かな絆で結ばれた姉妹が敵同士になるなんて。

 でも……


「……それでも、調律師はシェラさんを殺さなかった。まだ、彼女の中にも肉親の情が残ってるはず……あの時、シェラさんが現れたから、彼女は最後の力を使うのを躊躇った様に見えました」

「……例えそうであっても。もはや、あの娘を止めるには倒すしかない。それが、あの娘を解放できる唯一の方法なのです」


「そんな……他に方法は無いの……?」

 メリエルちゃんが悲壮な表情を浮かべてそう呟くけど……その問には誰も答えることができなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―

中七七三
ファンタジー
ラトキア人―― 雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。 ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。 ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。 「自分は男だ――」 少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。 そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。 犯され、蹂躙され、凌辱される。 肉に刻まれるメスアクメの快感。 濃厚な精液による強制種付け―― 孕ませること。 それは、肉体が牝に固定化されるということだった。 それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。 原案:とびらの様 https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808 表紙イラスト:とびらの様 本文:中七七三 脚色:中七七三 エロ考証:中七七三 物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。 シノプスのみ拝借しております。 もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...