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第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 5 『シェラのねがい』
しおりを挟むシェラさんから300年前の魔王征伐の裏事情を聞かされた。
伝説では語られなかったそれらの話は、驚くべきものであった。
そして、シェラさんが戦い続ける理由とは……
「シェラさんの『ねがい』は……今度こそ魔王を、黒神教を倒す、と言う事なんですか?」
「……少し、違います。結果としてはそうなるでしょうけど……私の真の願いは、リディアとの……そして、ヴィーとの約束を果たす事」
「リディアと、調律師……妹さんとの約束?」
そう言えば、倒れる前に朦朧とし始めたシェラさんが私をリディアと勘違いして……「まだ約束を果たせていない」と謝っていたっけ……
「リディアとは……平和を取り戻したら、カルヴァードの国々とグラナで国交を樹立しよう……と。直ぐには無理だとしても、いつの日にか……」
そんな約束をしてたんだ……
確かに戦争をした相手と仲良くすることは難しいかも知れないけど……そうなっていれば、きっと違った未来もあったのかもしれないね。
「……その約束は、私達の代で実現しましょう。エフィとも仲良くなれたし、黒神教さえ打倒できれば……きっと実現できると思う」
「そうね。私もそうするつもりだったもの。リシェラネイア様、あなたのその願いは……私達の願いでもあります」
「……ありがとう」
「それで、その……妹さんとは……?」
「……そんな大層な約束ではありませんよ。全てが終わったら、また一緒に暮らそう……ただ、それだけです」
悲しそうに目を伏せながら言うシェラさん。
「……グラナを出るとき、あの娘も一緒に連れていけば良かった。そうしていれば……きっと……」
そして、彼女はその当時のグラナ皇家の実情を語りだす。
「魔王となった時のグラナ皇帝ファーガス三世……私達の父は、野心に満ちていました。しかし、その根底には……当時はまだ戦乱に明け暮れていた東大陸を統一して恒久平和をもたらす、という想いがあった。事実、戦によって併合した国の民も分け隔てなく自国の民として扱い、慈しんでいました」
初めて聞く魔王…いや、そうなる前のグラナ皇帝像だ。
野心家であっても、その目指すところは平和であったと言うのは……私が漠然と抱いていた暴君のイメージを覆すものだった。
「私は……戦によって力ずくで国を併合するやり方には反対でした。ですが、例え血を流してでも……未来のために行動する父を皇帝として尊敬していました。もちろん、父親としても敬愛していた」
信念をもって行動する帝王。
彼には彼なりの正義があったと言う事だ。
だからと言って侵略される側が黙って受け入れるなんてことは無いのだけど。
多くの人にとっては侵略や戦争は『悪』だ。
シェラさんもそれを分かってるからこそ……尊敬し、敬愛はしても認めることは出来なかったのだろう。
「父は信念を貫き、東大陸の大部分を平定するに至った。しかし……運命の歯車は狂い始める。侵略の手を緩めようとしない父は、更なる力を欲していました。目をつけたのは黒神教に古くから伝わる『神降ろし』の儀。『黒き魂』を自らの身体に降ろして、人の力を超越して帝国の支配を盤石なものにしようとしたのです。そこから先は伝説で語られている通りです」
果たしてその試みは成功し、皇帝は絶大な力を得て魔王となった。
…いや、それは成功とは言えないか。
力と引き換えに、人の心を失ってしまったのだから。
「変わり果てた父を何とかしなければ……そう思った私はグラナを出て、魔王に対抗できるだけの力を求めました。その時、妹にも一緒にグラナを出ようと言ったのですが……あの娘はグラナに残る選択を取った。『私が内から、姉さんが外から……力を合わせて頑張ろう』、と言って。そして、平和を取り戻したその時は……」
しかし、ヴィリティニーアは黒神教に捕らえられて、黒き神への生贄とされ……父皇帝と同じように、その身に『黒き魂』を宿して魔族となってしまった。
何て切ない話なのだろう……
確かな絆で結ばれた姉妹が敵同士になるなんて。
でも……
「……それでも、調律師はシェラさんを殺さなかった。まだ、彼女の中にも肉親の情が残ってるはず……あの時、シェラさんが現れたから、彼女は最後の力を使うのを躊躇った様に見えました」
「……例えそうであっても。もはや、あの娘を止めるには倒すしかない。それが、あの娘を解放できる唯一の方法なのです」
「そんな……他に方法は無いの……?」
メリエルちゃんが悲壮な表情を浮かべてそう呟くけど……その問には誰も答えることができなかった。
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