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第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス
第十二幕 エピローグ 『予感』
しおりを挟む調律師との戦いの翌日。
シェラさんはまだ目を覚ましていない。
「シェラお姉ちゃん、起きないね……」
「うん……外傷も無いし、ただ寝ているだけにも見えるんだけど。お医者さんも身体は問題ないと言ってたけど……心配だよね」
王城に運ばれたシェラさんだったが、心配だったので私の部屋に寝かせてもらっている。
直ぐに王城勤務の医師に診せたのだけど、やはり外傷は特になく、魔法による診察でも問題は見られなかった。
なので、いずれ目を覚ますとは言ってたのだが……
翌日になっても起きないので心配になる。
魔族だから普通の人間とは違うかもしれないし……
「ん~……でも、きっと大丈夫だよ!お姉ちゃんは強いから!」
「……ん。そうだね」
ミーティアの言う通り、今は信じて待つしかないか。
改めてシェラさんの寝顔を見る。
今回は……いや、今回も彼女に助けられた。
これまでの分も含めて、彼女に恩返しがしたい。
彼女の妄執とは何だろうか?
リディアとの約束とは何だろうか?
私にその手助けができるなら……
彼女は優しいから……きっと、ずっと一人で頑張ってきたんだと思う。
私はその重荷を、少しでも分けてもらいたいと思う。
そう思ってると、ミーティアが私の手に自分の手をそっと添えて……
「私も、お姉ちゃんのお手伝いがしたい」
「そうだね。目が覚めたら、話を聞かせてもらいましょう」
「うん!!」
魂で繋がった大切な娘。
きっと、彼女にもそんな存在が必要なんじゃないだろうか。
それはもしかしたら……あの調律師だったのかも。
敵対しているはずなのに、彼女たちの間には確かな絆のようなものすら感じられたから。
例えお互いに魔族になっても、肉親の情というのは早々に断ち切れるものではないと言う事か。
しかし、それはあまりにも悲しくて……
まぁ、それも私の勝手な想像だ。
だから、早く目を覚ましてもらって……話を聞かせてもらいたい。
さて。
本来なら今日は学園の対抗戦最終日のはずなんだけど……
流石に昨日の今日なので臨時休校となった。
しかし対抗戦自体は中止ではなく順延なのは流石と言うべきか。
まぁ学園は建物の被害はそれほどなかったから。
しかし、最初に巨人が出現してから学園までの間の市街地はかなりの被害が出てしまった。
七番街区の多くの建物が倒壊し、復旧まで相当な時間がかかる見込みだ。
怪我人も多く出ている。
だが、そんな状況にも関わらず、死者が居なかったのがせめてもの救いか。
建物は直せるし、怪我も治すことができるが、失われた命は取り戻せない……その点だけは良かったと言える。
騎士や兵たちの避難誘導指示が素早く的確に行われた結果だろう。
エフィメラさんは拠点とする隠れ家に戻ったけど、もうその存在は明らかになったので、その所在については国家上層部の知るところになっている。
アグレアス侯爵の生存と立場についても。
近々会談の場は設けられる事になるが、事前の折衝のため高官を使者として派遣するようだ。
私にも色々と相談が来ることだろう。
戦いの傷跡はまだ残っているものの、王都の日常は変わらず続いていく。
あれだけの戦闘が行われたにも関わらず特に住民に大きな混乱が見られなかった。
……むしろ戦闘に参加しようとしていたぐらいだし。
頼もしい限りなんだけど、やはり一般市民を巻き込む事は避けなければならない。
ともかく、王都を襲った危機は一先ず退けることができた。
この平穏が束の間のものではないように……そう、願わずにはいられない。
「流石はウチの学園よね。あんな大事件があっても直ぐに再開するんだから」
「当然ですわ!せっかく総合優勝が目前なのに、中止になってはたまりません!」
「ルシェーラちゃん、今日は決勝リーグだもんね。頑張ってね」
「ええ、必ずや優勝してみせますわ!」
気合入りまくりだねぇ~。
本日は順延となっていた対抗戦の最終日である。
シフィルの言う通り、流石は我が学園……と思ったが、それも犠牲者が出なかったからこそだろう。
そして、我がクラスは現在総合2位につけているが、ルシェーラとフリードの武術対抗戦の結果次第で総合優勝も狙える。
クラスの皆も俄然盛り上がりを見せ、応援にも力が入ると言うものだ。
「みんな!!俺っちの応援もヨロシクぅっ!!」
「お~、頑張れ~」
「負けんじゃね~ぞ!!」
「死んでも勝てよっ!!」
男子決勝リーグに出るフリードも気合が入ってるね。
男子連中が集まって少々荒っぽい激励を受けている。
そんな様子を遠巻きに眺めてるステラ。
ん~……これは、決定的かなぁ?
あの時、それはもう劇的なタイミングでステラを護ったフリードは、まぁカッコよかったよ。
その後も自分を盾にしたりして……
「フリードさんは男気を見せましたわね」
「そうだね。これからどうなるか分からないけど、応援はするよ」
「ですわね」
大きな戦いの気配が刻一刻と迫りくるのを感じる。
今回の件はその前触れに過ぎず、平穏な日常がこれから先も続く保証はないのかもしれない。
それでも……私達は日々の暮らしを続ける。
平和の大切さを噛み締めながら。
そんな日々の積み重ねがあるからこそ、それを護ろうという思いが強くなる。
だからこそ、私は戦える。
そう、思うのだった。
ーー 第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス 閉幕 ーー
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