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第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス
第十二幕 45 『それぞれの決意』
しおりを挟むーーーー 国立アクサレナ高等学園 ーーーー
「落ち着いていて避難しろ!!」
「野外訓練場に誘導されてくるぞ!!そっちには近づくなよ!!」
本日も対抗戦が行われていた学園だったが、突如として街中に巨大な魔物が現れたことで中断を余儀なくされ、急ぎ生徒たちの避難誘導に当たっていた。
騎士の連絡によれば、被害拡大を防ぐために広い敷地を持つ学園へと誘導しようとしているとの事であった。
最終的には野外訓練場に誘導したいらしいが、ちょうどそこではマギ・ボールの試合が行われていたため即座に試合を中止し、教員たちが緊急避難を指示したのである。
他の会場でも巨人がやってくるのとは逆方向へと生徒たちを誘導しようとしていた。
「これもカティア絡みってこと?」
「おそらくは……ただ、暗殺組織の壊滅作戦と聞いてましたが、何がどうなればこうなるのかはさっぱりですわ」
「ここからも少し見えるけど……あんな魔物がいきなり王都の市街に現れるなんて……」
「兄さん、大丈夫かな……」
教員たちの指示に従い、避難のため移動しているルシェーラたち。
他の生徒たちが突然の魔物襲来にパニックになりかけている中にあって、彼女たちは至って冷静であるが……レティシアは兄リュシアンが作戦の指揮に当たっているのを知っているので、その身を案じている。
「リュシアン様なら大丈夫ですわよ、レティシアさん。あの方は陛下やカティアさんにも匹敵する程の騎士なのですから」
そう断言するルシェーラの瞳には動揺の色は見られない。
そこには絶対の信頼があるだけだ。
「うん……そうだね!兄さんが魔物にやられるところなんて想像できないもん。それに、指揮官なら直接戦闘はしないよね」
「(それはどうでしょう?あの方は冷静ではありますが、その本分はあくまでも戦いにあるでしょうから……そこが素敵なのですわ)……ともかく。私も隙を見て参戦に向かいたいところですけど……」
「おー、そうこなくっちゃね!」
「だ、ダメよ!二人とも!!私達はまだ学生なのよ!?」
ルシェーラとシフィルの会話に、真面目なステラが苦言を呈する。
確かに彼女の言う通り、学生の身で実戦に身を投じるのは望ましくはない事だろう。
バレれば教師たちから大目玉を喰らうのは間違いない。
だが。
「生半可な実力の者が参戦すれば足手まとい…かえって邪魔になりかねませんが。私達であれば十分な力になれるでしょう。あれ程の巨大な魔物が3体……今は一人でも力を持つ者が必要なはずですわ」
「ルシェーラの言う通りだわ。私だって武神杯本戦出場者なんだから、力になれると思うんだよね。それに、私達の大切な学舎を壊されてなるものですか!」
既に二人の覚悟は決まっているのだった。
そして、それを聞いたステラも……
「……分かったわ。だったら私も。かつてのアダレットの過ちを赦してくれた、その恩に報いなければね」
そう、決意するのだった。
「わ、私はどうしようかな……何かアレ、遠目で良く分からないけど魔法が効いてないみたい……」
「レティシアさんは他の生徒さんたちを護って頂きたいですわ(流石にレティシアさんを連れて行ったらリュシアン様に怒られてしまいますわ)」
「う、うん、分かった!任せておいて!」
と、その時……美しい歌声が響き渡り、光の漣が学園にまで押し寄せた。
「これは……カティアさんの[絶唱]?」
「これが?『星光の歌姫』の由来になったと言う……凄いチカラが漲るわ!」
ルシェーラ達だけでなく、カティアの歌声を聞いた他の学園生たちも驚きの声を上げる。
噂では聞いていた『星光の歌姫』の力を肌で感じたのだ。
そして、ルシェーラたちとは離れて避難していた、ある女生徒も……
「カティアさんの歌……凄いわ。魂を揺さぶるような……あぁ、何?私の中のなにかが……呼び起こされる……」
初めて[絶唱]の歌声を聞いたアリシアは、自分の身体の中から湧き上がる衝動とも思えるような何かに戸惑いの声を漏らすのであった。
ーーーーーーーー
ーーーー エフィメラの隠れ家 ーーーー
「まさかあのようなモノが……」
「これは誤算でした。こちらが監視していることに気付いている可能性は考えてましたが……陛下やカティア様達ならば、待ち伏せくらいは問題ないと思っておりました。しかし、あれは流石に……」
窓の外を見て厳しい表情で呟くエフィメラに、アグレアス侯爵も複雑そうだ。
やはり彼にとっても今回の事は不測の事態だったようだ。
「……私も出ます」
「いけません!!危険ですぞ!!」
エフィメラの言葉に、即座に従者が静止の声を上げる。
しかし、彼女は首を振って諭すように言った。
「私達の情報によって引き起こされた事態なのです。責任はとらねば」
「……こちらの情報が無くとも、どのみち今回の事態は発生していたでしょう」
「そうです!御自ら危険に飛び込まれなくとも……!」
「責任、というだけではありません。ここで力を合わせて危機を脱することができれば……私達の信頼も得られましょう」
「それは確かに」
「しかし……!」
「ここで問答している時間はありません。戦える者は私とともに来なさい!!」
もはや従者の制止の言葉は彼女の耳には届かない。
決意は既に定まっているのであった。
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