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第十一幕 転生歌姫と迷宮の輪舞曲〈ロンド〉

第十一幕 67 『ダンジョンの秘密』

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「ダンジョンとは、一体何なのでしょうか?」


 私は核心となる質問をする。
 賢者の書には、異界の扉を封じるものだと記されていたが、具体的にどう言う事なのかまでは書かれていなかった。


 そして、その問に迷宮管理者ダンキチは答える。


「ダンジョンとは……この星の意思が生み出した防衛システムです」

「星の意思……?」

 それは……まるでこの星そのものが生命体であるかのようだ。
 確かに、前世の地球も一つの生命体とする考えもあった。
 ガイア論だったか?


「この星には数多の命が存在します。そして、それらの無意識領域は共有され、総体の一つの意思として存在しているのです」

「それが、『星の意思』?」

「はい。しかし、成り立ちがそのようなものなので、『個』の認識……自我と言ったものはありません。この星を保全するという意思のみが存在するのです」

 自我無き意思……そんなものがあり得るのか……

 しかし、話が随分壮大になってきたね。


「星の意思は星を保全し、星の命を支える。具体的には魔素を介して様々な活動が行われる」

「魔素……じゃあ、もしかして『地脈』と言うのは……?」

「地脈はこの星の命を支える血流であり、意思を伝える神経であり、各地で起きた事象を検知する感覚器官でもあります」


「「「……」」」


 あまりのスケールの大きさに、皆絶句する他に無い様子だ。


「……あなたは、星の意思の目的は『保全』と言った。そうすると……星の脅威となり得る外的要因から護る為にダンジョンは生み出された。だから『防衛システム』ってこと?」

「そういう事です。……遥かなる太古。初めて『異界の魂』がこの世界に侵入してきました。それは途轍もなく強大な存在で……この星に住む命の尽くを喰らい尽くしかねない程でした」

「初めての異界の魂……!」

 それが、きっかけとなったのか。
 しかし、それほど強大な存在だったとは……


「かの者は、自らが通ってきた道……それは一時的で不安定なものでしたが、それを安定させて『門』を創り出してしまった。それは謂わばこの星の傷口とも言えるもの。故に、この星の意思は保全の観点からそれを塞ごうとしました」

「そうか……それでダンジョンが生み出された……」

「その通りです。ダンジョンは星に住まう命の『生きる意思』を地脈を通じて汲み取り、増幅し、『門』に扉を立てて封じるための仕組みなのです。また、異界と現界の間に仮初の世界を構築し、緩衝領域となる役目もあります」


「「「……」」」

 未だに絶句する皆。
 そうなるよねぇ……

 私も当然驚きの連続なんだけど。


 だが、ダンジョンが生まれた理由はこれで分かった。
 そして、『地脈を通じて~』と言う話からすれば……300百年周期で生じる地脈の乱れによって異界の魂が現れやすくなる理由がそこにあることも想像できる。


 しかし気になるのは……


「……ダンジョンが生まれた理由については分かりました。この世界にとって非常に重要な存在であることも。それで、今の話で一つ気になったのですが……異界の扉をダンジョンが封じたのは良いとして、最初の異界の魂は結局どうなったのです?」

 そう。
 最初の異界の魂がどうなったのか、まだ聞いていなかった。


「かの者は、扉が閉ざされ異界との繋がりが絶たれた際に、その力の大部分を失いましたが、その後暫くは猛威を振るって地上の多くの命を喰らいました。ですが、最終的には人間によって討たれ……完全に滅ぼす事はできませんでしたが、地の底奥深くに封印されたのです」

「封印……?じゃあ、今もまだ……」

 何となく分かってきたよ。
 もう、それこそゲームとかでありがちなシナリオでしょ。


「私は賢者リュートから『邪神』の話を聞いたとき真っ先に思い出したのが、この『原初の異界の魂』の事でした。リュートも私の話を聞いて、そう判断したのだと思います」

 だろうね。
 今の話の流れなら誰だってそう思うだろう。


「そして、かの者が封じられた地は……ここよりはるか東。現在の呼び名は確か……『グラナ』でしたか」

「「「!!」」」


 なるほど、そうなるのか……

 すると、おそらくは『黒神教』が崇める『黒き神』のルーツはその『原初の異界の魂』にあるのではないだろうか?
 遥かな古代に猛威を振るった強大な存在の伝承が歪められ、崇拝され信仰にまで至って宗教として成立した……と考えられないだろうか?

 あくまでも想像に過ぎないが、かなり核心に迫ってるのではないだろうか。


 そして、おそらくはリュートもそう考えたのでは無いだろうか?
 なら、彼が次に目指すとしたら……


「賢者リュートはあなたの話を聞いて、その後どうしたのです?」

「私の話から、やはり『邪神』はかの者であると判断したリュートは……このダンジョンに自身の足跡を辿るものが現れたときのための仕掛けを施したあと、封印の地であるグラナへと向うと言ってました。その後の足取りは私には分かりません」


 やはり。
 しかし、グラナ……か。


「……そうそう気軽に行けるような場所ではありませんわよね」

「そうだな……国交が無いから国境を越えるだけでも一筋縄ではいかないだろう」

「そもそも、その『封印の地』がどこなのか分からないと、どうにもならないッス」


 邪神の話なんて初めて聞くだろうに、みんな結構関わる気な様子だ……
 私としては有り難いのだけど。


 しかし皆が言う通り、グラナに行くのは容易なことではない。
 しかも、『ここより遥か東』と言うことは、レーヴェラントと国境を接する辺りではなく、グラナ帝国本国の事だろう。
 そうなると、情報すら入手するのは難しい。

 少なくとも、「さぁ、グラナに行こう!」とはならない。


「その、『封印の地』というのは、具体的に何処なのかは分からないのですか?」

「生憎と……この地域一帯の事ならともかく、私にはそこまで細かい事までは分かりません。ただ……封印の地も、ダンジョンになっているのではないかとは推測しています」


 だとしたら……グラナ本国にあるダンジョンの情報を何とか探るのが、今すべき事か。
 幸い、今の私の立場なら各国の協力も得ながら情報収集することが可能だ。

 帰ったら早速、国王お父様に相談かな?
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