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第十一幕 転生歌姫と迷宮の輪舞曲〈ロンド〉

第十一幕 35 『苦戦』

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『これで我は暫く戦力にならねぇから引っ込んどくわ』

「助かりました!これで少しは態勢を整えられます!」

『何とか切り抜けるんだぞ』

 それを最後にゼアルさんはミーティアの中に戻っていった。
 最大威力ではないとは言え、周囲の魔物は排除出来たので助かったよ。


 だが、状況は依然として危機の只中にあるのは変わってない。
 あの奇妙な気配が擬態した魔物によるものだったのなら……この森の殆どを埋め尽くしていると言う事だ。

 はっきり言って分が悪すぎる。
 硬い大木が相手なので、物理的な攻撃が通り難い。
 幸いにも炎が弱点のようなので、個々を撃退するのはそれ程難しくはないが……物量差があまりにも桁違いだ。


「どうするッスか!?まともに相手してられないッスよ!?」

「ですが!逃げ場もありませんし、攻撃の手を緩めたらあっという間に呑み込まれてしまいそうですわ!」

 二人の意見はどちらも正しい。
 まともに闘ってもこの物量差では何れこちらの体力が尽きてしまう。
 かと言って完全に囲まれた状況では逃げることも難しいし、押し寄せる敵を倒し続けなければ押し切られてしまう。

 こうしている間にも数多の魔物が襲いかかってくる。
 動きは鈍重そうに見えるが、太い枝を振り回すスピードはかなりのものだし、地中から根を槍のように突き出してくる攻撃は予測しづらく回避が難しい。
 それに加えて、初回ほどではないが風の魔法も織り交ぜてくる。

 今は態勢を整えて何とか凌いでるが、早く突破口を見つけないと戦況を維持できない。


「「[炎龍]!!」」

 ミーティアとリーゼさんの魔法が同時に発動!

 炎の龍は自律行動によって次々に魔物に襲いかかる。
 これで本来であれば相当数を削れるのだが、今の状況では焼け石に水だ。


「くっ…!キリが無いぞ!」

「私の槍戦斧ハルバードでは捌ききれませんわ!!」

「ジリ貧ですね……脱出路が見出せない……」


 みんな善戦してる。
 私も炎の魔法で応戦してるけど……このままじゃあ……!


 これは試練なんだから、何か突破するための手段があるはずだ。
 いくらなんでも、力業で無理矢理突破しろなんてことは……



 ……まてよ?

 ミロンのくれたヒント……目の前に答えがあるって、魔物の擬態のことを言ってたのだと思ったのだが……
 この状況を打破するためのヒントでもあるのでは?


 そして私は、バッ、と後ろを振り仰ぐ。

 そこにあるのは天を衝く程に巨大な王樹。
 試練の開始を告げたのはこの大樹なのだろうか?
 もし、この樹も魔物の擬態なのだとしたら…?
 それは、おそらくこの階層のボスと言う事になるだろう。

 そう思って私は更に視線を上げる。


 !
 これは……葉が輝いてる?

 魔力の流れ…その先には……!!




「みんな!!王樹が魔物を操ってるよ!!あれがフロアボスだ!!」

 すると、私の声に呼応するかのように大樹が動き出す!!

 オオーーーン………!


 他のトレントなど比較にもならないくらいの巨体。
 それは正に緑の巨人とでも言うべきものだった。


「あれが魔物だったなんて…!!」

「デカすぎるッスよ!!」

「弱点が同じなら……[灼天]!!」

 リーゼさんの、渦巻く炎の魔法が王樹に放たれる!!

 だが……


「ダメです、効いてはいるみたいですが……」

 当たったところは焼け焦げているが、あの巨体からすれば掠り傷に等しいだろう。
 それもポロポロと剥がれ落ちて…元通りに再生してしまう。


 そして、その巨大な枝が大槌の如く振り下ろされる!!


「危ない!!回避っ!!」


 ぶぉんっ!!

 トゴォッ!!!


 その巨体に見合う、途轍もなく重たい一撃が地面を抉った。
 あんなの……まともに当たればただでは済まない!



 押し寄せるトレントと、この王樹を同時に相手取らなければならないのか……ちょっと無理ゲーっぽくない?


「こっちはこっちで、まともに相手しても倒せそうにありませんわね……」

「特級魔法は?」

「私は炎は無理」

「私も触媒が無いと……それに、トレントも居ますから、詠唱時間が稼げませんよ」

「何か、弱点は無いですかね?」


 トレントを倒し、王樹の攻撃を何とか回避しながら状況を打破する方法を模索する。

 弱点……
 炎は上級魔法でも殆ど効果なし。
 特級ならあるいは……と思っても、そんな余裕もない。


 と、その時……ミーティアが何かに気付いたのか、声を上げた。

「ママ!!あそこ!!」

 彼女が指さしたその先には……

「あれは……王樹のうろ・・?」

 まさしく木のうろなのだが……王樹のそれは、その巨大さに見合うくらいの大きさで、人一人くらいは優に入れそうな程だ。
 ぽっかりと空いたその穴の中から、薄ぼんやりと光が漏れているように見えた。


「……もしかしてトレントを操っている魔力の源……魔核があそこに?」

 であれば、そこを破壊すれば……

 だがそのうろは地上からかなり離れており、あそこまで行くのは困難を極める。



 だとしても、もし突破口があそこにあるのなら、何とかしなければ……!
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