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第十幕 転生歌姫と忍び寄る戦火
第十幕 48 『最終局面』
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『奇術師』は跡形もなく消えてしまった。
だが、そこには魂の残滓のようなものが残され、その想いが伝わってきた。
……もっと…あそぼ……
……たのしいこと……………
しかしそれも、ついには空気に溶けて消えていった。
「これ……あの『奇術師』の…?」
どうやらミーティアにも感じられたようだ。
まるで小さな子どものような……いや、もしかしたら人間だったときは本当に子供だったのかもしれない。
妄執と言うには余りにも純粋なものだったから……
「何か、可哀想だね……」
自らの出自とも無関係ではないからか……ミーティアは悲しげに呟くのだった。
「ありがとう。助かったよ、お姉ちゃん」
気を取り直したミーティアが、ある方向に向いてそんなことを言った。
「…いえ、礼には及びませんよ。むしろ奇術師を倒してくれたお礼を言いたいのは私の方です」
それに応えたのは、予想通りの人物…シェラさんだった。
白銀の髪に金の瞳の神秘的な美貌…初めて会ったときは怜悧にすら感じた。
だが、柔和な笑みを浮かべる様はそれを打ち消して、今となってはむしろ親しみやすさを感じる。
「…あんたは?只者じゃないのは分かるけど」
お義母さまが警戒しながら問いかける。
彼女の実力を肌で感じているのだろう。
「母さん、彼女はシェラと言う魔族だが…敵じゃない。以前、ミーティアを助けるために力を貸してくれた」
「たまたま利害が一致しただけですよ」
彼女はそんなことを言うが、私達を助けてくれたのには違いない。
それに……リル姉さんからも、信頼できる人物だと聞いてる。
私はすっかり、彼女のことは味方だと思っている。
「また助けてもらって感謝する。しかし…なぜあなたがここに?」
「この状況、カティアさんを狙うならば絶好のチャンスかと思いましてね。予想通りだったということです」
現に無防備な状態になってるもんね。
ミーティアやお義母さまが護ってくれてたから無事でいられたんだ。
「最初は直ぐに戦いに加わろうと思ったのですが……お嬢さんが思いの外力を見せてくれたので、確実に仕留めることが出来るようにチャンスを伺ってたのです」
「アイツが最後の攻撃をしようとしたとき、お姉ちゃんが[念話]で『何とかする』って言ってくれたから…」
ああ、道理で…
最後の攻撃の時、ミーティアに全然焦りが見られなかったから不思議だったんだよね。
そんなやりとりがあったとは。
「逃げに入られると中々倒せる相手では無いですからね。ここで倒せて良かったですよ。……それでは、私は引き上げます」
「……もう少し助けてくれないの?」
ミーティアが上目遣いでそんな事を言う。
…あれは強力だぞ!
大抵のことは言うことを聞いてしまいそうな破壊力を持ってる。
私やテオなら耐えられないね!
「…申し訳ありませんが。極力介在はしたくないのです」
しかし、シェラさんには通じず。
ちょっと間があったから少しは揺らいだみたいだけど。
「そう…残念。私もそろそろ元に戻っちゃいそうだし、お姉ちゃんが助けてくれるなら安心出来たんだけど」
あ、ちゃんと元に戻るんだね。
ちょっと安心した。
「…ごめんなさいね。では、また」
その言葉を最後に、彼女はまた姿を消すのだった。
「ふう…一時はどうなることかと、肝が冷えたぞ」
「なんだい、だらしがないね。それより戦況はどうなんだい?」
「ああ。極めて順調とのことだ。特にイスファハン王子率いる部隊の活躍が目覚ましいとのことだ」
へえ…実戦経験が少ないとか言ってたけど…有能な将なんだね。
アルフォンス様の指揮も巧みで、既に戦況は圧倒的にこちらが有利とのこと。
「そろそろ敵大将を狙う頃合いかも知れぬな…」
「お、いよいよかい。腕が鳴るね!」
「いや、何でお前が行くつもりになってるんだ…大人しくしておけ」
…何か、さっきの戦いぶりを見てると心配ない気もするけど。
それでもやはり本調子ではないだろうから無理はさせられないよねぇ…
何れにせよ…長きにわたる戦いは、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。
だが、そこには魂の残滓のようなものが残され、その想いが伝わってきた。
……もっと…あそぼ……
……たのしいこと……………
しかしそれも、ついには空気に溶けて消えていった。
「これ……あの『奇術師』の…?」
どうやらミーティアにも感じられたようだ。
まるで小さな子どものような……いや、もしかしたら人間だったときは本当に子供だったのかもしれない。
妄執と言うには余りにも純粋なものだったから……
「何か、可哀想だね……」
自らの出自とも無関係ではないからか……ミーティアは悲しげに呟くのだった。
「ありがとう。助かったよ、お姉ちゃん」
気を取り直したミーティアが、ある方向に向いてそんなことを言った。
「…いえ、礼には及びませんよ。むしろ奇術師を倒してくれたお礼を言いたいのは私の方です」
それに応えたのは、予想通りの人物…シェラさんだった。
白銀の髪に金の瞳の神秘的な美貌…初めて会ったときは怜悧にすら感じた。
だが、柔和な笑みを浮かべる様はそれを打ち消して、今となってはむしろ親しみやすさを感じる。
「…あんたは?只者じゃないのは分かるけど」
お義母さまが警戒しながら問いかける。
彼女の実力を肌で感じているのだろう。
「母さん、彼女はシェラと言う魔族だが…敵じゃない。以前、ミーティアを助けるために力を貸してくれた」
「たまたま利害が一致しただけですよ」
彼女はそんなことを言うが、私達を助けてくれたのには違いない。
それに……リル姉さんからも、信頼できる人物だと聞いてる。
私はすっかり、彼女のことは味方だと思っている。
「また助けてもらって感謝する。しかし…なぜあなたがここに?」
「この状況、カティアさんを狙うならば絶好のチャンスかと思いましてね。予想通りだったということです」
現に無防備な状態になってるもんね。
ミーティアやお義母さまが護ってくれてたから無事でいられたんだ。
「最初は直ぐに戦いに加わろうと思ったのですが……お嬢さんが思いの外力を見せてくれたので、確実に仕留めることが出来るようにチャンスを伺ってたのです」
「アイツが最後の攻撃をしようとしたとき、お姉ちゃんが[念話]で『何とかする』って言ってくれたから…」
ああ、道理で…
最後の攻撃の時、ミーティアに全然焦りが見られなかったから不思議だったんだよね。
そんなやりとりがあったとは。
「逃げに入られると中々倒せる相手では無いですからね。ここで倒せて良かったですよ。……それでは、私は引き上げます」
「……もう少し助けてくれないの?」
ミーティアが上目遣いでそんな事を言う。
…あれは強力だぞ!
大抵のことは言うことを聞いてしまいそうな破壊力を持ってる。
私やテオなら耐えられないね!
「…申し訳ありませんが。極力介在はしたくないのです」
しかし、シェラさんには通じず。
ちょっと間があったから少しは揺らいだみたいだけど。
「そう…残念。私もそろそろ元に戻っちゃいそうだし、お姉ちゃんが助けてくれるなら安心出来たんだけど」
あ、ちゃんと元に戻るんだね。
ちょっと安心した。
「…ごめんなさいね。では、また」
その言葉を最後に、彼女はまた姿を消すのだった。
「ふう…一時はどうなることかと、肝が冷えたぞ」
「なんだい、だらしがないね。それより戦況はどうなんだい?」
「ああ。極めて順調とのことだ。特にイスファハン王子率いる部隊の活躍が目覚ましいとのことだ」
へえ…実戦経験が少ないとか言ってたけど…有能な将なんだね。
アルフォンス様の指揮も巧みで、既に戦況は圧倒的にこちらが有利とのこと。
「そろそろ敵大将を狙う頃合いかも知れぬな…」
「お、いよいよかい。腕が鳴るね!」
「いや、何でお前が行くつもりになってるんだ…大人しくしておけ」
…何か、さっきの戦いぶりを見てると心配ない気もするけど。
それでもやはり本調子ではないだろうから無理はさせられないよねぇ…
何れにせよ…長きにわたる戦いは、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。
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