上 下
311 / 683
第十幕 転生歌姫と忍び寄る戦火

第十幕 31 『愛の囁き』

しおりを挟む
 父さんとミーティア、姉さんたちブラバント公爵家の方々との話を終えて、今は別の人たちが挨拶に来ている。

 色々話したい事はまだあったけど、他にも挨拶しようと待っている人たちがいたから、しょうがないね。

 まあ、取りあえずは仲直り出来たことも分かったので良しとする。
 印象的だったのは、リィナが随分チヤホヤされていたね…
 特に姉さんのお父さん、クラウスさんは孫娘にデレデレな感じがした。
 本人は顔に出さないようにしようと努力してたみたいだけど、バレバレだったよ。
 やっぱり孫は特別可愛いものなんだろう。





 その後も暫くは招待客の挨拶を受けるのに忙しかった。
 父さんが来たときにしっかり食べておいて良かったよ。


 そして、そんな挨拶攻勢も一通り終わって少し落ち着いた頃、フェレーネお義母かあさまがやって来た。


「お疲れ様。もう落ち着いたみたいだけど、大変だったね」

「まあ、主役だからな…母さんだって色々挨拶回りが来てたろ?」

「ハンネス達に任せて逃げてきた。カーシャ様も忙しそうだったけど、アルフォンスだけは暇してたね」

義兄にいさん…」

「それにしても、カティアちゃん、よく似合ってるね。私の見立て通りだよ」

「あ、有り難うございます。お義母かあさまがアドバイスしてくれたとか…」

「うんうん、この子が選ぶと地味になるだろうから。やっぱり適度にエロが無いとね!」

「え、えろ…」

「母さん、言い方!大人っぽいとかセクシーとかあるだろ」

「何よ。あんただって嬉しいくせに。今夜はお楽しみかい?」

「母さんっ!」

 ……ぷしゅ~


「ありゃ、真っ赤になっちゃって。ウブで可愛いわね~。…何だ、お前たちまだそう言う関係じゃないのかい?」

「…まだようやく婚約したところだぞ」

「はぁ~…ホントに朴念仁だね。もう少し強引なくらいで良いんだけどねぇ…カティアちゃんだって待ってると思うよ?」

 そ、そういう話は本人の前でするものではないと思います…
 本当にテオのお母さんとは思えないくらいにあけすけだ。

「そ、それはともかく…お義母さま、体調は大丈夫ですか?」

「あんたも心配性だね。全然大丈夫だよ。……何だかお腹、というか腰が痛いけど」

 …え?
 それって…もしかして…

「それ陣痛じゃないですかっ!?」

「…陣痛?ああ…言われてみればそうかも?」

「いや、『かも』じゃなくてっ!あわわ…は、早くお医者様を…」

「大丈夫だって。もし陣痛だとしてもまだまだ弱いから、そんなすぐに生まれないよ」

「いや、だからって…」

「パーティーが終わったらセンセに見てもらうさ」

「……言っても聞かないからな。でも、せめて主治医は近くに呼んでおこう。…すまないがお願いできるか?」

「は、はいっ!!」

 と、テオが近くにいた従者に声をかけてお願いする。

「大袈裟ねぇ……でも、もしかしたら、この子も早く二人を祝福したいのかもね」

 あまりにもお義母さまが落ち着き払っているので、私も少し冷静になった。

「じゃあ、生まれそうになったら私もお手伝いしますね!」

「カティアちゃんがかい?」

「ええ。こう見えてもウチの一座のちびっ子達の何人かは生まれる時に立ち会ってますから!」

 さっきは突然のことに慌ててしまったが、出産の場面に立ち会ったことは何度か経験があるのだ。

「なるほど、頼もしいわね。頼りにしてるよ」

「はいっ!」









 一先ず落ち着いて引き続きお義母さまと話をしていると、会場に流れていた音楽の曲調が変化した。

「おっと。ダンスの時間みたいだね。ほら、あんたたちも行ってきな。仲の良いところを見せ付けてやるといいよ」

 そう言って私達の手を取って立ち上がらせて、広間に押し出される。



「っと、と。全く、強引だな」

「まあまあ、どっちにしても主役の私達が踊り始めないと始まらないでしょ?」

 周りを見ると、私達が踊りだすのを今か今かと待っているようだ。
 ファーストダンスは主役のものだからね。


「それもそうだな。…では、お手をどうぞ」

「ふふ、ありがとう」

 恭しく差し出された手を取って、私達は音楽に乗って踊り始めた。
 少し芝居がかった誘い文句に、思わず笑みが漏れた。


 そして私達が踊り始めたのを皮切りに、多くの男女も踊り始める。

 夫婦や恋人、私達と同じ婚約者たち。
 それに、新たに恋が芽生えた人たちもいるかもしれない。

 綺麗に着飾った男女が音楽に合わせてクルクルと軽やかに舞い、パーティーは一層華やかさを増す。









「お義母さま、大丈夫かな?」

「自分のことは本人が一番分かってるさ。主治医も呼んでもらったから大丈夫だろう」

 踊りながらも囁きあうように会話する。
 それなりにダンスの経験も積んだので、割と余裕が出てきた。


「赤ちゃん、楽しみだね」

「そうだな。最初は戸惑ったものだが…今は純粋に楽しみだ」

 クルクル。
 クルクル。

 付いては離れ、クルクル回る。

 慣れるとダンスは楽しいものだよ。



「…かなり上達したんだな」

「結構頑張ったんだよ。…妬けちゃう?」

「…まあな。これからは少しは余裕を持てるといいのだが」

 ちょっと苦笑いでそんなことを言う。
 ふふ、心配性なのはこっちもだね。

「えへへ~、大丈夫だよ。…でも、ちゃんと掴まえていてね」

「もちろんだ。一生離さない」

 テオは力強く私を引き寄せて、顔を寄せて甘く囁いた。

 私は恥ずかしさに顔を赤く染めながらも、「うん…」と小さく呟くように応えるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

クラス転生~陰キャ男子の革命劇~

鶏カカシ
ファンタジー
昼休みも教室の端っこで一人寂しくパンを食べていたボッチ陰キャの真部雄二は、ある日の午後の授業、授業中にも関わずウトウト居眠りをしていた。静かだった教室が一変して騒がしくなる。 ある生徒が輝きだし、気が付けば担任の先生も含めてクラス全員が異世界に飛ばされてしまった。そこはまさに王道異世界ファンタジーの世界。しかも呼ばれた理由も魔王を倒すため! 剣アリ魔法アリの異世界でボッチ陰キャの真部はクラスメイトとうまくやって行けるのか、対立してしまうのかーー?

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...