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第十幕 転生歌姫と忍び寄る戦火

第十幕 14 『思惑』

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 アスティカントを出発した私達は、いよいよレーヴェラント国内へと足を踏み入れた。
 と言っても、これまで通ってきたイスパルの街道沿いの風景と大きく変わるわけではなかった。

 なお、アスティカント~レーヴェラントの国境にある橋には検問所があるが、イスパル側と同じく基本的には自由に通行できる。
 前世のヨーロッパで言うところの『シェンゲン協定』のようなものだ。
 協定を結んでいる国同士の通行では関税を取られないということになるので、往来も活発になっている。



 街道は進路を北東に、レヴェリア川に注ぐ支流に沿って進む。
 行く先には山々が連なり、これからは峠越となる。
 山の高いところでは雪が積もっているようだが、街道が通る鞍部はそれほどではないし、主要街道だから馬車が通れるくらいには除雪されている…と、出発の時にライセン隊長が言ってた。






「レーヴェラントは結構雪が降るんですよね」

「ええ、そうね…今はまだ冬も始まったばかりだからそれほどでもないけど、あの山から先はかなりの積雪があるみたいよ」

「王都も雪景色ですかね…寒いのは苦手だけど、ちょっと楽しみかも」


「ママ~、あの白いのが雪?」

 馬車の窓に張り付いて外を眺めていたミーティアが、わくわくした様子で聞いてくる。
 そっか…まだ雪は見たことないか。

「うん、そうだよ。これから雪が積もってるところを通るからね」

「わ~…たのしみ!」

 出来れば雪遊びもさせてあげたいけど、道中では難しいね。
 レーヴェンハイム滞在中ならチャンスがあるかな?

「王都で時間が取れたら、パパと一緒に雪遊びでもしようか?」

「ゆきあそび?」

「そう。雪だるま作ったり、雪合戦したりとか」

「うわ~…!」

 凄く目をキラキラさせてる。
 多分どんなものなのかは良く知らないだろうけど、楽しそうな雰囲気は伝わったのだろう。




「それにしても……これから冬も厳しくなるのに、なぜこのタイミングでグラナは軍を展開してるんでしょうね?侵攻するにしてもレーヴェラントとの国境は険しい山脈を超えないとですよね?」

 冬山を大軍で超えるのはあまりにも厳しいだろう。
 そう考えると、もとより侵攻の意思は無いのだろうか?
 あるいはその意表を突いて?


「そこは分からないわね。ただ、何らかの意図があるのは確かだろうから、こちらも対応しないわけにはいかないでしょう。とにかく今は何があっても、即応出来るように準備をしておかなければ。それはイスパルを含めた周辺国も同じよ」

 だから父様は今回残ったのだしね。


 だけど…何かが引っかかる。

 賢者の塔で聞いた話。
 前世でのゲームのイベントに沿うのであれば…15年前の戦乱がそれではなかったのなら、グラナ侵攻はこれから起きるということになる。
 それが今直ぐになのかは断定できないけど、今の状況から見れば、いつ起きてもおかしくない。
 だから各国は対抗するための準備を整えている。

 しかし、それ以外に大事なことを見逃しているような気がするのだ。
 それはやはりゲームのイベントに絡んでいるような…
 もう少しで思い出せそうで思い出せない、その感覚がもどかしい。
 ことは人命に及ぶのだから、はっきりさせたいところなんだけど…



「どうしたの、カティア?難しい顔をして」

「あ、いえ…グラナの狙いは何なのかな、と考え事を」

「賢者様の予言の…その「イベント」とやらが今回の状況を指してるのかしらね?」

「はい、その可能性はあると思ってます。そうすると裏で手を引いてるのは…」

「魔族、か。ふぅ……ほんと、迷惑な話よね。それに、魔王に邪神…頭が痛いわ」

「それが現実のものとなってしまえば、多くの犠牲が出てしまう。それは何としても阻止したいです」

「そうね…」

 そう、同意してくれる母様は、しかし心配そうに私を見つめる。
 多分、私が無関係ではいられないであろうことを懸念してるのだろう。
 それは母親としての当然の想い。
 だけど国を動かす者の一人としては、私が関わることを止めることなどできず、複雑な思いを感じてるのかもしれない。

 そんな気持ちを察して、私は殊更明るい調子で言う。


「大丈夫ですよ、母様。私は確かにエメリール様やディザール様の眷族として…それに王族としても魔族との戦いには大きく関わってくるかもしれませんが…一人で無茶をするつもりはありませんよ。ちゃんと頼るべき人は頼ります。それに…これから折角好きな人と一緒になれるんですからね」

「…あら、さっそく惚気けてるのかしら?」

 少し明るい雰囲気を取り戻して、母様はそんなふうにからかう。













 …アカン。
 もしかしてこれ、死亡フラグだったりしないよね…!?

 私は思わず口をついて出た自分のセリフに戦々恐々とするのだった。
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