【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!

O.T.I

文字の大きさ
上 下
293 / 683
第十幕 転生歌姫と忍び寄る戦火

第十幕 13 『アスティカント出発』

しおりを挟む
 談話室で盛り上がったあと、夕食の時間となったため解散した。

 名残は尽きなかったが、母様たちは今後も定期的に会おうと約束していた。
 やっぱり学生時代の友人と言うのはかけがいのないもので、一時疎遠になっていても変わらないものなんだな、と思った。

 夕食はグレイル様も含めたアスティカントの要職の人たちと会食形式。
 思ったよりは堅苦しくなかったので、リィナも多少緊張していたものの、割と落ち着いて食事を楽しむことが出来たと思うよ。







 そうして私達は再び部屋に戻っていた。

「カティアは…ああ、賢者様の書を読んでるのね」

「はい、さっきは賢者様が伝えたかった要点のところだけ見てたので。最初から読んでおこうかと」

 何せ辞書並みに分厚く小さな字でびっしり書かれているので、読了までは時間がかかりそうだ。
 最初の方は、自叙伝と言うか…転移してからの彼の経歴が事細かに書かれている。


 転移前の記憶は、彼が話した通り西暦20XX年まで…
 そして、この世界にやってきたのは…詳しい時点は不明だが、まだ神代のころのようだ。

 この世界にやってきてから…言葉も分からず相当な苦労をしたみたいだ。
 だが、幸運にも親切な人に拾われて、どうにか言葉も覚えて…
 何とか生活にも慣れてくると、前世の知識を活かして人々に様々な助言をするようになる。
 そして、いつしか彼は『賢者』と呼ばれ、人々の尊敬を集めるまでに至ったのだ。



 う~ん……『彼』は『俺』なんだろうか?
 ここまで読んだ段階では確証に至るほどの記載は無い。
 いや、名前と容姿と日本からの転移者という事からして、同一人物としか思えないのだけど……じゃあ私の中の『俺』は一体何なのか?という話になってくる。

 大体、右も左も分からない異世界に飛ばされて、果たして『俺』は『彼』のように生きていけたのか?
 『俺』の場合は、ベースに『私』があったから、殆ど違和感なかったけど…それが無かったら、と思うと想像を絶するものがある。










 結構夢中になって読んでいたら、もうかなり遅い時間になっていた。

「もう遅いわよ、カティア。そろそろ終わりにしたら?」

 ちょうど母様にもそう言われてしまった。

「はい、ちょうどキリがよかったので今日はもう終わりにします。え~と…ミーティアは…」

「もう寝ちゃったわよ。ママが集中してるから、邪魔しないように大人しくして…良い子よねぇ…」

 どうやら母様がお風呂に入れてくれたり寝かしつけたり、面倒を見てくれたらしい。

「ごめんなさい、母様にまかせちゃって…」

「ふふふ、良いのよ。私もミーティアちゃんの面倒を見れて癒やされるもの。…ユリウスはクラーナをちゃんと見ててくれるかしら」

「父様なら大丈夫じゃないですか?クラーナにデレデレだから、喜んで面倒を見てくれるのでは?」

「甘やかしすぎないか心配ってことよ」

「ああ……まぁ、クラーナはしっかりしてるし、心配ないですよ。お付きの人たちもいるし」

「そうね…」

 母様は父様にシビアなとこあるよね。
 いや、凄く仲は良いのだけど、尻に敷いてると言うか。


「ともかく、今日はもう遅いわ。お風呂でさっぱりして、もう寝なさい」

「はい、そうします」


 そうして今日一日を終えるのだった。























 そして翌朝。

 私達は迎賓館を出発し、父さんたちとも合流。
 この街に入ってきたのとは反対側…レーヴェラントに通じる東門へと向かう。


「さあ、アスティカントの街を出て橋を渡れば…もうレーヴェラントよ」

「いよいよカイトの故郷かぁ…」

 ここからあと数日の行程。
 もうすぐカイトと再会できると思うと……とても待ち遠しい。




 一行が東門までやってくると、騎士の格好をした一団が待ち構えていた。
 そして彼らの代表らしき人物が私達の馬車の前までやって来る。


「予定通りね。レーヴェラントの護衛騎士よ」

 そう言って母様は馬車を降りて彼を迎える。



「お初にお目にかかります、イスパル王国王妃殿下、王女殿下ご一行様でいらっしゃいますね。私はレーヴェラント騎士団所属のライセンと申します。この度の護衛隊の隊長を務めさせて頂いております」

「お出迎え頂きありがとうございます。これからの行程、よろしくおねがいしますわね」

「ハッ!皆様の安全は、我らが身命を賭してお護りいたします!」

 ザッ!と隊長に合わせて隊員が敬礼する。
 一糸乱れぬその様子を見ると、なかなかの練度のようだ。
 他国の王族を護衛するのだから、精鋭なんだろうけど…グラナが国境付近で怪しい動きを見せている時に、こっちに回してもらうのは何だか悪い気がした。

 というようなことを母様に言うと。

「それは仕方ないわね。精鋭と言っても大部隊ではないのだからそこまで気にする必要は無いわ。もちろん、そういう感謝の気持ちを忘れないのは良いことだとおもうけど。…いざとなれば、私達イスパルからも派兵することもあるかも知れないのだから、持ちつ持たれつ、よ」

「そう…ですね。……賢者様の予言が現実にならなければ良いのですが」




 私は、想い人に再会できる期待と、戦乱の予感に対する不安とが複雑に絡み合い、何とも言えない気持ちでレーヴェラントの地を踏むのであった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる

O.T.I
ファンタジー
 王立アレシウス魔法学院。  魔法先進国として名高いフィロマ王国の中でも最高峰の魔導士養成学校として揺るぎ無い地位を確立している学院である。  古の大魔導士アレシウス=ミュラーが設立してから千年もの歴史を刻み、名だたる魔導士たちを幾人も輩出してきた。  フィオナは、そんな由緒正しきアレシウス魔法学院の一年生に所属する15歳の少女。  彼女は皆から『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたが、とある秘密を持っていた……

処理中です...