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幕間

幕間11 『対策会議』

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 カティア達が王都に来てから何度か事件が起きたが、武神祭以降は平穏な日々が続いていた。

 だが、それはアクサレナでの話であり、国内の各地では…いや、国外でも、とある問題が起きていたとの報告が王城に上がっていた。


 今日はその問題に関する会議が行われている。
 出席者は議長を務める国王ユリウスを始め、国家重鎮達が集まっている。
 司会進行はブレーゼン侯爵である。


「皆集まったようだな…では、ブレーゼン侯爵、進行を頼む」

「はっ!では、早速ですが…今回お集まり頂いたのは他でもありません。予てより対策検討会議が行われておりました『異界の魂』や『邪神教』の問題について、新たな情報を入手しました」

 普段の口調は微塵も出さずに話を始めようとしたが、それを遮る者がいた。

「侯爵殿、遮ってすまぬが…少々よろしいか?その話の前に…ユリウス陛下、今日はカティア様が出席されていないようですが、よろしいのでしょうか?」

 重鎮の一人が侯爵が話を始める前にユリウスに尋ねる。
 本来であれば、『異界の魂』に関する対策会議にはカティアも出席することになっている。
 王位継承権を持つ王女であるという理由もあるが、それ以上にエメリールのシギルを持つ彼女の意見は特に重要になるからである。

 しかし、今日の会議の出席者の中には見当たらず、疑問に思ったための確認であろう。


「うむ、貴君の疑問はもっともだな。カティアは今、まさにその『異界の魂』の問題に当たるため、現在はアクサレナ近郊の村に向かっておる。伝え聞く特徴に合致する魔物が現れたとの情報があってな」

「なんと…そうでしたか」

「現在その近辺は住民の避難も行って封鎖している。今のところ大きな被害はないが、慎重確実を期すならば、カティアの力が必要だろう」

 ユリウスが言った通り、カティアは今…『異界の魂』に憑依されたと思しき魔物が王都近郊に現れたとの情報を聞き及んで、カイトやダードレイらエーデルワイス歌劇団の面々と共に現場へと急行したのである。
 更に万全を期すため、エメリール神殿、ディザール神殿所属の退魔系魔法の使い手である神官も大勢引き連れているとのことだ。


「では、本日はその話と言う事でしょうか?」

「いや、それはまたカティアが帰城してから報告をしてもらう。今回の会議はそれ以外の話だ。侯爵よ、続きを頼む」

「はっ!まあ、今回のカティア様が向かわれた件も関係しますが…ここ最近、急激に『異界の魂』の出現例が増えてきているとの情報が国内外より上がっているのでその共有と、今後の対策を協議するのが目的です」

「これまで確認されたのは、何れもカティア様が対処された…ブレーゼン領スオージ大森林、リッフェル領領都ゴルナード…でしたかな?」

「後は、カティア様のお披露目パーティでの一件も。それ以降暫くは情報も無かったのですが、ここ最近になって複数の出没情報が上がってきました」

 侯爵は一旦言葉を切って、参加者を見渡す。
 既に情報を押さえている者は冷静に、初めて聞く者はやや緊張した面持ちで続きを待つ。

「何れも、最初にブレーゼン領で報告されたモノよりも力は劣っていたらしく、冒険者と神殿より派遣された退魔魔法の使い手数十人による討伐部隊によって対処されたとの事です。事前の情報共有が功を奏し、被害は最小限に留まっているとも」

「ふむ…それに関しては、カティア様のご意見が大きかったでしょうな」

「然り。なお、今回カティア様が向かっているところも、事前情報から見て同程度の強さであろうと予想されてます」

「ならば特に大きな問題は無さそうですな。…それで、出現地域は?」

「イスパル王国内ではカティア様が向かっている件以外にもう一件で、ウィラーとの国境近くの山岳地帯。国外では、レーヴェラントで3件、カカロニアで1件、ウィラーのアルマ地方で3件。先も申し上げた通り、何れも既に討伐済みです」

 思ったよりその数が多く、今回初めてその情報を聞く者からざわめきが起きる。

「なんと!それ程とは…」

「300年前の伝承からすれば、今後数年はこのような状況が続くやも知れません」

「…むぅ」

「出現地の規則性や共通点は無いのか?」

 ユリウスがそこで疑問を呈する。

「例外は有りますが…共通点としては、魔素が比較的濃い地域で出現する傾向がございますな。それ以外は、もう少し事例がないと何とも…」

 例外とは、リッフェル領やパーティでの一件の事だ。
 それらは人為的な謀略が絡んでいると考えられるので、また別の話になるだろう。

「ふむ…それだけだとな…もう少し絞り込みが出来れば対処もしやすいのだが。いや、300年前の出現地域を調べれば何か分かるのではないか?」

「はい。しかし、そう思って調査はしようとしたのですが…どうも、それに関する明確な資料が見つからないのです。それは他国も同様のようでして。なので、今は歴史学者の協力も仰いで、各地の伝承などから何とか纏めようとしているところです」

「…そうか」

 その報告に、ユリウスは違和感を覚えた。
 暗黒時代の混乱期だったから、と言うのもあるかも知れないが…自分だったら後世のために、そう言った情報は残す。
 ましてや、当時の『異界の魂』は、イスパルの王女であるリディアも討伐して回ったはず。
 彼女がそうした情報を何も残さなかったのは考え難い。

(…思ったよりも根深いのかも知れん。おそらくは長い歴史の中で内部に侵食した者が暗躍した結果なのか…いや、それは今もか?)

 結局有力な手がかりは掴めなかったが、カティアの暗殺未遂事件は国家内部に敵が潜んでいることを示唆している。
 この場にいる者たちは信頼が置けると思ってはいるが…それほどの長きに渡って暗躍している組織が相手と考えると油断する事はできない。

(この中でも特に信頼の置ける者と、そうでない者と…それは見極めねばならぬな。その上で、重要な話は共有する者を限定せねばなるまい。何とも頭の痛いことよ)

 ユリウスはそう考えるのだった。





「あと…気になるのは、目撃情報が上がったにも関わらず、討伐に向うとそれらしきモノは何も居なかった…と言うのが数件ありました」

「ただの勘違い、なのでは?」

「恐らくはそう思うのですが…」

 何か引っかかることがあるらしく、侯爵は言葉を濁す。

「何か気になるのか?」

「いえ、何がって訳じゃないのですが…何となく気になりまして」

 侯爵は見た目によらず、勘や不確かな情報で動くようなタイプではないし、それをいたずらに口に出すような事もしない。
 その彼がそう言うのは、むしろ何かがあるとユリウスに思わせる。

「気になるな。もう少し詳細な情報が欲しい」

「はっ!直ぐに指示します」






「さて、現状は大事にならずに対処できているが、今後もそうとは限らぬ。出現場所の絞り込みが出来ぬ以上は取れる対策にも限界はあるが…」

「少なくとも、これまで以上に退魔系魔法の使い手の確保は急務でしょうな。神殿の人員頼みだけでは心許ないと思います」

「先ずは騎士団や領軍なども含めた人材の把握や配置の整理、冒険者への協力要請、あとは…」

「長期間に及ぶことを考えると、人材育成も必要かと」

 流石に国家運営に携わる者たちと言うだけあって、様々な具体性のある意見が飛び交い議論が進む。




 そうしてある程度は対応方針も整理できたところで、もう一つの議題となる。

「『異界の魂』とは切り離せないもう一つの問題…『黒神教』についてですが、拠点の一つではないかと目される場所の情報が上がっております」

「それは真ですか?」

「はい。ただ、そうは言っても大まかな情報に過ぎませんが」

「それでも、何も分からないよりは…」

「その通りです。これはレーヴェラントの王太子であるアルノルト様からお聞きした話ですが…」

 カティアのお披露目パーティに出席した、各国の賓客を交えて情報交換を行った際に聞いた情報だ。

 それによれば、レーヴェラントの王都レーヴェンハイムに、黒神教の拠点が築かれている可能性が高い、との事だ。
 もちろん表向きは巧みに秘匿されているだろうが、かなりの規模の組織であると推測されている。

 そして、カティアやステラの暗殺未遂とカイト…テオフィルスの暗殺未遂が同じ手の者によるものと考えた場合、それは黒神教が絡むのではないか?とのテオフィルスの推測も踏まえて考えれば、アクサレナにも活動拠点があるとの予測も。

 グラナと国境を接するレーヴェラントの方が主たる活動拠点で、アクサレナは支部のような位置付けではないか、と。
 

「黒神教については、実はレーヴェラントは以前より調査を行っていたらしくてな。今後は我が国も含めた各国とより綿密な情報共有を…情報機関も含めて組織的な連携を図っていく事で合意している」

 ユリウスが国賓たちと協議した結果を伝える。





 こうして、少しずつではあるものの、『異界の魂』や『黒神教』に関する情報がようやく見え始めてくるのであった。

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