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第七幕 転生歌姫と王都大祭
第七幕 41 『武神杯〜決勝 決死の覚悟』
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[霞鏡]はティダ兄には通じないのが分かったので早々に解除。
司会のお姉さんも、視界が晴れて安心だろう。
…スミマセン。
再び超高速の剣戟が振るわれるが、やはりこれに付き合うのは危険だ。
実際スタミナに劣る私の方が少しづつ押され始めている。
今のうちに次の一手を考えなければ…
「考え事とは余裕だな?」
ビュッ!!ビュンッ!!
「うわっとぉ!?」
突然背後からの斬撃を前方に跳んで辛うじて回避する。
あっぶな~…
おちおち作戦を練ることも出来やしない。
少し間合が離れたところで魔法を…と思っても魔力を集中して練り上げる暇も与えてくれない。
う~ん…[雷龍]とかで少しでも手数を増やしたいんだけど、それも無理そうだ。
だったら…
瞬時に発動可能な初級の魔法で手数を補う!
しかし、発動速度最優先だとアレンジで散弾にする暇もないから…
接近戦で切り結んでる間に攻撃や防御に織り交ぜるんだ!
「[炎弾]!!」
ティダ兄が正面から切りかかって来たタイミングで魔法を放つ!
ティダ兄は顔面に向かってくる炎弾を僅かに首を傾けて躱しながら、攻撃の手は緩めない。
だが…これなら!
剣だけで相手にするよりは幾分か余裕が生まれた。
そうやって単発でも初級魔法を織り交ぜる事によって再び均衡を保ちながら攻防が繰り返される。
しかし、これで五分五分の状況…勝利を掴むためにはもっと踏み込んだ策が必要だ。
ーーーー 観客席 ーーーー
貴賓席のレティシアとルシェーラは息もつかせぬ戦いに、瞬きすることすら忘れて魅入っていた。
「うわ~…準決勝でももの凄いスピードだったけど、さらに速くなってない?私はもう目で追うことも出来ないよ」
「そうですわね…私はまだ辛うじて見えますけど」
その会話を聞きつけたのか、クラーナが話しかけてくる。
ミーティアは前列に陣取って必死に声を張り上げ、カティアだけでなくティダのことも応援している。
どこかのアネッサと違って良くできた子である。
「ルシェーラねえさま、あれが見えるんですの?」
ルシェーラはクラーナとは初対面だったが、ここで一緒に観戦しているうちに懐かれたようだ。
この場にいる人の中ではミーティアを除いて一番歳が近く、優しく落ち着いた雰囲気で話しやすかったと言うのもある。
「ええ、クラーナちゃん。でも、あれがカティアさんではなく私でしたら…一合も合わせられなかったと思いますわ」
「ふわ~…私は全く見えないですけど、カティアねえさまもルシェーラねえさまもすごいということが分かりました!」
「クラーナちゃんはお姉ちゃん大好きだね」
「本当、カティアさんみたいなお姉さまがいて羨ましいですわね」
「はい!私もおねえさまみたいになりたいです!」
ーーーーーーーー
『カティア選手、ティダ選手、双方一歩も退かず互角の戦いが続いております!』
『カティアは魔法を織り交ぜて手数を稼いでるな』
『俺との戦いでも見せたが、ありゃあ厄介だぜ。ティダのアニキはよく凌げるもんだな』
『…あの男の反応速度を持ってすれば造作ないことだろう。私の蛇剣でも結局捉えることができなかった』
そう。
結局のところ、ティダ兄の反応速度を上回る攻撃をしなければ勝てない。
小細工を弄する余裕も無い。
全身全霊の一撃を放つ必要がある。
どこかで無理を通してでもやらなけれなならないだろう。
あとはその覚悟をどこで決めるか…
だが、そうやって私が迷っていると、ティダ兄の攻撃は益々苛烈さを増していき、ついには気配を伴う残像が縦横無尽に舞台を舞う!
準決勝で見せた『残影』のスキルか!
「くっ…厄介な。狙いを絞れない…!」
残像に惑わされ焦っていると、突然後方に鋭い殺気を感じる!
後ろかっ!!
私は咄嗟に前方に飛び込んで転がりながらティダ兄の攻撃を躱す!
正に間一髪だった…
転がった先で直ぐに起き上がって体勢を立て直すが…
「くっ…!どこに!?」
ヤバイっ!
見失ってしまった!
気配を察知するんだ!
……上っ!?
気がついて見上げたときには振り下ろされる双剣がもう眼前に迫っていた!!
ダメだ、剣での防御は間に合わない!?
いや!
まだだっ!!
諦めるな!!
左手はくれてやるっ!
もはや防御が間に合わないと悟った私は咄嗟に左手を双剣の前に差し出した!
「何っ!?」
ざんっ!と肉を斬られる感触と鋭い痛みが電流のように駆け巡り思わず悲鳴を上げそうになるが、それを無理矢理飲み込む。
ここは逆にチャンスっ!!
肉を斬らせて骨を断つんだ!
渾身の力を振り絞った私の剣が、攻撃直後の硬直がまだ解けないティダ兄に襲いかかる!!
「…ぐっ!!」
首を狙った斬撃は、しかし既のところで身を捩って避けられるが、完全に躱しきる事はできなかったみたいで脇腹を掠めた。
ちっ、浅いか…
もう少し踏み込めていれば深手を与えられたものを…!
そこでお互いに一旦距離を取る。
「…その腕ではもう戦えまい?」
「まだだよ。利き腕じゃないし、剣を振るのに支障はないよ」
そうは言ったもののそれは強がりだ。
ティダ兄の双剣で斬られた左腕は全く力が入らず、だらんと垂れ下がっている。
…なるほど。
これまでは致命の一撃で決着してきたから分からなかったけど、ダメージを受けるとこうなるのか。
出血しないのが救いかな…
しかし、これではバランスが崩れてこれまでのように切り結ぶことは出来ないだろう。
否が応でも覚悟を決めて、もはや一撃にかけるしかなくなった。
「流石の根性だな。だが、これで終わりにさせてもらうぞ」
歴戦の勇士は相手が手負いであるなんて関係なく、最後まで油断せずに全力を尽くす。
…そうこなくっちゃね。
もう私に出来ることはあまり無い。
こうなっては、ティダ兄の剣が届くそれより前に攻撃を当てるしか勝機はないだろう。
次が最後の一撃だ。
だけど負けるつもりはない。
私の持てる全ての力を出し切って…そして勝つ!
司会のお姉さんも、視界が晴れて安心だろう。
…スミマセン。
再び超高速の剣戟が振るわれるが、やはりこれに付き合うのは危険だ。
実際スタミナに劣る私の方が少しづつ押され始めている。
今のうちに次の一手を考えなければ…
「考え事とは余裕だな?」
ビュッ!!ビュンッ!!
「うわっとぉ!?」
突然背後からの斬撃を前方に跳んで辛うじて回避する。
あっぶな~…
おちおち作戦を練ることも出来やしない。
少し間合が離れたところで魔法を…と思っても魔力を集中して練り上げる暇も与えてくれない。
う~ん…[雷龍]とかで少しでも手数を増やしたいんだけど、それも無理そうだ。
だったら…
瞬時に発動可能な初級の魔法で手数を補う!
しかし、発動速度最優先だとアレンジで散弾にする暇もないから…
接近戦で切り結んでる間に攻撃や防御に織り交ぜるんだ!
「[炎弾]!!」
ティダ兄が正面から切りかかって来たタイミングで魔法を放つ!
ティダ兄は顔面に向かってくる炎弾を僅かに首を傾けて躱しながら、攻撃の手は緩めない。
だが…これなら!
剣だけで相手にするよりは幾分か余裕が生まれた。
そうやって単発でも初級魔法を織り交ぜる事によって再び均衡を保ちながら攻防が繰り返される。
しかし、これで五分五分の状況…勝利を掴むためにはもっと踏み込んだ策が必要だ。
ーーーー 観客席 ーーーー
貴賓席のレティシアとルシェーラは息もつかせぬ戦いに、瞬きすることすら忘れて魅入っていた。
「うわ~…準決勝でももの凄いスピードだったけど、さらに速くなってない?私はもう目で追うことも出来ないよ」
「そうですわね…私はまだ辛うじて見えますけど」
その会話を聞きつけたのか、クラーナが話しかけてくる。
ミーティアは前列に陣取って必死に声を張り上げ、カティアだけでなくティダのことも応援している。
どこかのアネッサと違って良くできた子である。
「ルシェーラねえさま、あれが見えるんですの?」
ルシェーラはクラーナとは初対面だったが、ここで一緒に観戦しているうちに懐かれたようだ。
この場にいる人の中ではミーティアを除いて一番歳が近く、優しく落ち着いた雰囲気で話しやすかったと言うのもある。
「ええ、クラーナちゃん。でも、あれがカティアさんではなく私でしたら…一合も合わせられなかったと思いますわ」
「ふわ~…私は全く見えないですけど、カティアねえさまもルシェーラねえさまもすごいということが分かりました!」
「クラーナちゃんはお姉ちゃん大好きだね」
「本当、カティアさんみたいなお姉さまがいて羨ましいですわね」
「はい!私もおねえさまみたいになりたいです!」
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『カティア選手、ティダ選手、双方一歩も退かず互角の戦いが続いております!』
『カティアは魔法を織り交ぜて手数を稼いでるな』
『俺との戦いでも見せたが、ありゃあ厄介だぜ。ティダのアニキはよく凌げるもんだな』
『…あの男の反応速度を持ってすれば造作ないことだろう。私の蛇剣でも結局捉えることができなかった』
そう。
結局のところ、ティダ兄の反応速度を上回る攻撃をしなければ勝てない。
小細工を弄する余裕も無い。
全身全霊の一撃を放つ必要がある。
どこかで無理を通してでもやらなけれなならないだろう。
あとはその覚悟をどこで決めるか…
だが、そうやって私が迷っていると、ティダ兄の攻撃は益々苛烈さを増していき、ついには気配を伴う残像が縦横無尽に舞台を舞う!
準決勝で見せた『残影』のスキルか!
「くっ…厄介な。狙いを絞れない…!」
残像に惑わされ焦っていると、突然後方に鋭い殺気を感じる!
後ろかっ!!
私は咄嗟に前方に飛び込んで転がりながらティダ兄の攻撃を躱す!
正に間一髪だった…
転がった先で直ぐに起き上がって体勢を立て直すが…
「くっ…!どこに!?」
ヤバイっ!
見失ってしまった!
気配を察知するんだ!
……上っ!?
気がついて見上げたときには振り下ろされる双剣がもう眼前に迫っていた!!
ダメだ、剣での防御は間に合わない!?
いや!
まだだっ!!
諦めるな!!
左手はくれてやるっ!
もはや防御が間に合わないと悟った私は咄嗟に左手を双剣の前に差し出した!
「何っ!?」
ざんっ!と肉を斬られる感触と鋭い痛みが電流のように駆け巡り思わず悲鳴を上げそうになるが、それを無理矢理飲み込む。
ここは逆にチャンスっ!!
肉を斬らせて骨を断つんだ!
渾身の力を振り絞った私の剣が、攻撃直後の硬直がまだ解けないティダ兄に襲いかかる!!
「…ぐっ!!」
首を狙った斬撃は、しかし既のところで身を捩って避けられるが、完全に躱しきる事はできなかったみたいで脇腹を掠めた。
ちっ、浅いか…
もう少し踏み込めていれば深手を与えられたものを…!
そこでお互いに一旦距離を取る。
「…その腕ではもう戦えまい?」
「まだだよ。利き腕じゃないし、剣を振るのに支障はないよ」
そうは言ったもののそれは強がりだ。
ティダ兄の双剣で斬られた左腕は全く力が入らず、だらんと垂れ下がっている。
…なるほど。
これまでは致命の一撃で決着してきたから分からなかったけど、ダメージを受けるとこうなるのか。
出血しないのが救いかな…
しかし、これではバランスが崩れてこれまでのように切り結ぶことは出来ないだろう。
否が応でも覚悟を決めて、もはや一撃にかけるしかなくなった。
「流石の根性だな。だが、これで終わりにさせてもらうぞ」
歴戦の勇士は相手が手負いであるなんて関係なく、最後まで油断せずに全力を尽くす。
…そうこなくっちゃね。
もう私に出来ることはあまり無い。
こうなっては、ティダ兄の剣が届くそれより前に攻撃を当てるしか勝機はないだろう。
次が最後の一撃だ。
だけど負けるつもりはない。
私の持てる全ての力を出し切って…そして勝つ!
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