上 下
188 / 683
第七幕 転生歌姫と王都大祭

第七幕 36 『武神杯〜準決勝 ステゴロ』

しおりを挟む

「オラオラオラぁーーっっ!!!」

「くっ!!」

 ラウルさんのギアが徐々に上がってきて、怒濤のラッシュが私に襲いかかる。
 躱し、いなし、弾き、合間で何とか反撃するが単発ではどうにもならない。


「うらぁーーっ!!」

 渾身の右ストレート!!

 私はそれを躱しざま、腕を折りたたむように薙刀を身体に引き寄せながら回転させてカウンターで斬り上げる!!
 以前ディザール様にはあっさり躱されたが、今度はどうだ!?

「うお!?危ねえ!!」

 既のところで躱されてしまう。
 惜しかったけど、これで少し距離を取ることができた。

 ここでお互いに一旦呼吸を整える。
 紙一重の攻防にいつの間にか息が上がっていたみたいだ。
 じっとりと汗ばんでもいる。
 思ったよりも体力を消耗している。


 一方のラウルさんはと言うと、私と同じように呼吸を整えてはいるが、まだまだ余裕がありそうだ。

 やはりこの距離は向こうに分がある。
 このまま付き合っていても体力の差で何れは均衡を破られてしまうだろう。

 それに…どんなに間合いを取ろうとしても容易に懐に飛び込まれてしまう。
 長柄武器の利点を活かせない以上、このまま戦っていては不利になる一方だ。


 シギルの常駐化を使えば何とかなるのかも知れないけど、あれは反則技みたいなものだしなぁ…
 できれば自分の本来の力だけで戦いたい。

 …ここは覚悟を決めるべきか。


「ふぅ…そんな長柄武器でよくもまぁこの距離で俺の攻撃を捌けるもんだ……だが、いよいよジリ貧になってきてるみてえだな?」

「……確かに、このままでは押し切られてしまいそうですね」

「くくっ…だが、これで終わりじゃねえんだろ?そう言う目をしてるぜ」

 それはもう…負けるつもりは微塵も無いからね。

 よし!
 覚悟は決まった。
 





『あっと!?カティア選手…武器を地面に突き刺して手放しました!!…これはいったい?』

『…腹ぁくくったな』

『どういう事でしょうか?』

『相手の土俵に立って戦うってことさ。つまり、格闘戦を挑むつもりなんだろ』

『た、確かに昨日のインタビューでも仰ってましたが…』

『長柄武器は懐に飛び込まれると弱いからな。それでもあんだけ捌いてたのが尋常じゃねえんだが…流石にそれも限界らしいな。さて…俺もアイツの格闘スキルがどれほどのもんかはあまり知らねえんだが…お手並み拝見だな』



 スキル的には[格闘8]だね。
 剣術、長刀術と同じレベルではある。

 多分ラウルさんもスキルレベル的には同じくらいじゃないだろうか。

 だが、技の系統は少し異なると思う。

 ラウルさんは、武器破壊や武器略奪なんかの搦手もあるが、これまで見てきたところで攻撃に関してはパワー重視の『剛』の技がメインだろう。

 一方の私の技…【俺】が習っていた古流の技は『柔』の技がやや多い。

 『剛能く柔を断つ』のか、『柔能く剛を制す』のか。
 あるいは『剛』同士の力と力の激突か。

 何れにしても、これまで以上の激戦になるだろう。



「ふ…ふふ…ふははははっ!!面白え!!本当に面白えぜ、姫さんよ!!この俺と格闘戦をやろうってヤツがいるとはな!!」

「さっきも見せたでしょ?」

「いや、さっきは武器と併用だっただろ?まさか完全に素手格闘ステゴロを挑まれるとは思わなかったぞ」

「出来ればあのまま行きたかったんですけどね……でも、こうでもしないと噛み合わない」

「確かにな。じゃあ…やるか!!」

「ええ…!」

 さあ、ここから第2ラウンドの開始だ!!







 弾丸のように飛び出したラウルさんを迎え撃つ。
 『柔』の技は受け身の技が多い。
 後の先と言うべきか…相手の攻撃を躱して隙を突くとか、相手の力を利用するとか、先ずは相手の攻撃があってこそだ。


 私の顔面に向かってくる拳を、円を描いた手で、ふわっ、と柔らかく受け止めるように反らす。
 そのまま円の動きの流れで身体を回転させてもう片方の手で掌底を叩き込もうとするが、それはラウルさんの腕に阻まれる。

 続いて鳩尾を狙って放たれた膝蹴りを、威力が乗る前に手で抑えて、私は震脚で一歩踏み込みながら肩から体当たりする!

 ドンッ!

「ハァッ!!!」

 ガッ!

 肩と肩がぶつかり鈍い音がする。
 ラウルさんも腰を落とし、迎え撃つ体勢になって耐えた。

 肩が当たった瞬間に私は既に次の流れに入る。
 押し込まれそうになる肩を、身体を反転させていなす。
 そのまま、くるっ、と回転しながら相手の背後に回り込み、後頭部を狙って回し蹴りを放つ!!
 
 しかし、ラウルさんは体当たりの勢いのまま前方に飛び込むように転がってこれを避けた。



 同じような攻防が幾度となく繰り返される。

 圧倒的なパワーとスピードで繰り出されるラウルさんの攻撃を、私は最小限の動きと力でそのベクトルを反らすように立ち回り、反撃主体で戦う。

 今のところお互いにクリーンヒットは無いが…かなり神経を削られる。

 何度か死角からの攻撃を放つものの、恐ろしいほどの勘で躱されてしまう。

 この状況を打破するに何かもう一手欲しいところだが…


 何度目かの攻防を経て、一旦距離が開く。
 これまで幾度となく繰り返されたようにラウルさんが突っ込んでくる、と思いきや…その途中、かなり手前で急制動をかけた?
 そこから何を…?

「覇ッ!!」

「!?」

 ブォッ!!

 直感に従って躱した私の顔のすぐ横を何かが通りぬけ、その衝撃で髪が揺れる。

 これは…『氣』か!!

 私が回避する隙にラウルさんは一気に間合い詰め、私の目前で大きく足を振り上げて踵を落としてくる!!

「うるぁっ!!」

 ガッ!

 何とか直前で迎撃体勢をとり、腕を交差させて受けとめるが…!

 重いっ!!

「ちっ!!」

 押し潰されそうなほど重い踵落としを何とか押し返しながら、軸足を引っ掛けて転倒を狙う!

 するとラウルさんは蹴り足に更に力を込めて跳躍し、くるっ、と宙返りしながら私の背後に回り込みつつ背中に蹴りを入れようとする!

 そうはさせじと踵落としを受け止めていた腕を、ブンッ!と、後方に投げ飛ばすように大きく振り上げる。

 私の背後で着地したラウルさんが、すかさず迫ってくる気配を感じる…
 そこに向かって後ろ回し蹴りを放つが、それは虚しく空を切った。

 いない!?
 気配はあったのに!

 …そっちか!!

 どうやらまたもや『氣』を使って、今度は気配を偽装したらしい。

 すぐさま気配を探ってそれを察知したとき、ラウルさんは既に死角に回り込み、拳を振るうところだった!

「もらった!!」

 もらってないっ!!

「[炎弾]!!!」

 私は咄嗟に魔法を放つ!
 発動速度最優先で威力も狙いも甘々だが、緊急回避には十分だ!

「うおっ!?」

 幸いにもラウルさんの顔面に直撃するコースで放たれたのが功を奏した。
 回避を優先したので攻撃をキャンセルせざるを得なかったのだ。


 やっぱり…
 魔法が効かないと言っても、タイミングによっては有効だ。

 格闘戦は互角…いや、ややラウルさんの方が優勢と感じる。
 彼を打破するにはもう一手が必要だ。
 今みたいに意表を突かなければ、勘の良いラウルさんはまともに攻撃をくらってはくれないだろう。

 それにはやはり魔法か、あるいは…


 私は再び今後の戦闘プランの練り直しを迫られるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

私って何者なの

根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。 そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。 とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...