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第七幕 転生歌姫と王都大祭
第七幕 4 『アダレットの姫君』
しおりを挟むーーーー レティシア ーーーー
お~お~、見せつけてくれちゃってまぁ…
最初は誰だか分からなかったけど、あれはカイトさんだね。
髪の毛は魔法薬でも使ってるのかな?
カティアがあんな恋する乙女の表情で見つめてるもんだから変だと思ってよく見たら…そういうことか、と。
踊り始めた時は少し表情も固くてぎこちなかったんだけど、今はすっかり二人だけの世界って雰囲気を出している。
そんな二人は、もちろん注目の的だ。
あんな雰囲気を出されたら他の男どもは尻込みしそうなものだけど、果たして…?
逆に「俺も!」ってなったりして。
しかし、美男美少女の組み合わせはホントに絵になるねぇ…
ルシェーラちゃんも兄さんと踊ってるんだけど、こっちも中々のものだよ。
あの子、大人っぽいから兄さんとは結構年が離れてるはずなのに全然違和感ないんだよね~。
そして、父さんと母さんも私を残して行ってしまった。
二人とも結構いい歳なんだけど、まだまだ若々しくてイチャラブぶりを見せつけてる。
娘としては両親の仲がいいのは喜ぶべきことなんだけど、あんまり甘々なのを見るのはちょっと複雑。
そんなリア充達のアツアツぶりに比べ私はと言えば……誘ってくれる人は未だ無し、と。
確かに以前やらかしてしまったとは思うんだけど、それでビビってなんて…全く情けない。
あ~あ、せめてリディーでもいてくれたら相手してくれるのになぁ…
そんなふうに一人寂しく壁の花になっていると…
「どうした、レティシア。踊らねぇのか?」
「あ、アーダッドおじさん…いえ、踊りたくても誘われないんですよ」
「あ~、アレか……まったく、武神の国の男が情ねぇもんだな」
「ホントですよ。もっと言ってやってくださいよ。…それより、そう言うおじさんこそどうなんです?」
「俺ぁ柄じゃねぇからなぁ…リファーナもいねえし。まぁ、挨拶周りして、あとは美味ぇもんでも食ってるわ」
ルシェーラちゃんのエスコートも兄さんに取られちゃったからね。
でも、この人も山賊みたいな見た目して(失礼)奥さんラブだよねぇ…
それにしても…傍から見たら私達の取り合わせは奇異に見えないかね。
可憐な美少女(私!)と熊みたいに厳つい大男……うん、犯罪の匂いがするね!
「…おじさん、私と踊ります?」
「いや、勘弁してくれ…」
だよね~。
ーーーーーーーー
「カイ…じゃなかった、テオフィルス様はダンスが上手だね」
「テオでいいぞ。…久しぶりで心配だったんだが、何とかな」
「ふ~ん…もう何人もの女の人と踊ってるんだよね」
「それはまぁ…そんな目で見ないでくれ」
「ふふ、冗談だよ」
ホントはちょっとヤキモチだけど。
「でも、私もこれから誘われちゃうかな?」
「それはそうだろうな。仕方のないことだ」
「…妬ける?」
「…まあな。だが、初めてのダンスの相手ができたので、それは何とか我慢するさ」
「えへへ~。…そうだ、後でレティも誘ってやってくれない?何だかあの子、やさぐれオーラを出してるのよね…」
「なんで彼女は誘われないんだ?引く手数多だと思うのだが…」
「なんか、前にやらかしたってリュシアンさんが言ってたけど…詳しくは教えてくれなかった」
「…気にはなるが、承知した」
そして、一曲終わってテオとのダンスが終わる。
名残は惜しいが…今日は私が主役だから、彼とだけ踊り続けるわけにも行かない。
でも、とっても楽しかったな。
相手がテオだったからと言うのもあるけど、ダンス自体が楽しいと思った。
練習の時はとにかく必死だったから、そんなこと思ってる余裕なんて無かったけど。
誘われるとしてもあまり連続にはならないように配慮するのがマナーらしいので、取り敢えず元の場所に戻ることにする。
「カティア、ダンス上手だったわよ。それに、凄くお似合いだったわ」
「あ、ありがとう、母様」
もう、アルノルト様ご夫妻は他のところに行ったようだ。
武神祭まで滞在するみたいなので、またお話する機会もあるかもしれない。
私が戻ってからそれほど間をおかず、新たなお客様が私達のもとやって来た。
「こ、国王陛下、王妃殿下この度は御息女のお披露目の場にお招きいただきまして、ま、真にありがとうございます。カティア様におかれましてはお初にお目にかかります。わ、私はアダレットの王女、ステラと申します。以後、お見知りおきのほどよろしくお願いいたします」
この方がアダレットの王女ステラ様か…
何だか凄く緊張しているけど、大丈夫かな?
とにかく、こちらも挨拶を返す。
歳は私とそう変わらないくらいかな?
まぁ、見た目で判断すると結構違ってたりすることも多いのだけど。
ルシェーラとか、姉さんとか…
緩やかに波打つ美しい白銀の髪は肩口まであり、大きな瞳の色は空色。
凄い美少女なんだけど…今はとても不安げな表情をしていて、気が弱そうで…小動物みたいな感じがする。
何かこう…庇護欲をそそると言うか、守ってあげたいというか。
「よく来てくれたな、ステラ王女」
「もう王都での暮らしには慣れたかしら?」
「は、はい…皆様、とても良くしてくださいます…我々アダレットの者が皆様にお手数をおかけするのは、とても申し訳ないのですが…」
「…まだそんな事を言っておるのか。気にするなと申してるのだがな…」
「そうですよ。大戦の時の話はアダレット王家に責は無いと…そうあなたのお父様にも伝えているのですよ」
「で、ですが…我が王家が不甲斐ないばかりにご迷惑をお掛けしたのは事実です」
「だからと言ってな…まぁ、我々としては交流の一環と考えているのだが…」
つまり、彼女は人質ということらしい。
先の大戦でアダレットはクーデターによって一時期王権が失墜したことがあり、その結果私の母が行方不明…亡くなったと言う経緯がある。
だから、その時の償いと言うか…信頼を取り戻すためという事で、常にアダレットの王族の者を人質としてイスパルに滞在させているのだ。
そして、彼女は最近になってやって来て…以前の人質と入れ代わりで、しばらく王都で暮らすことになっているとのこと。
「そうだ、そなたも学園に通うのだろう?カティアもな…試験はこれからではあるが、おそらく通うことになる。どうか学友として仲良くしてやって欲しい」
「ステラ様、よろしくお願いしますね。まあ、合格すればですが」
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「は、はい…」
「だから、私達はお友達になりましょう?信頼はこれからまた積み重ねていけば良いのですから」
「は、はい…!」
ようやく笑ってくれたね。
…しかし、すごい破壊力だよ、彼女の笑顔は。
そんな表情を見せられたら…きっと、男どもが放っておかないと思うよ。
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