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第六幕 転生歌姫の王都デビュー
第六幕 29 『査問』
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暗殺未遂事件の翌日。
私はケイトリンと一緒に再び騎士団詰所のリュシアンさんの執務室にやって来ていた。
現場の捜査状況については昨日のうちに報告があったらしいけど…賊との明確な繋がりを示す物的証拠は見つからなかったそうだ。
まあ、侯爵家保有の施設内での話になるので当然疑いの目は向くし、証言や他の状況証拠もある。
現時点では限りなく黒に近いし、仮に罪状に問えない…あるいは真に黒幕ではなかったとしても、このような状況では高位貴族としての責任を問われることは免れない…らしい。
そんな訳で、これから当事者であるアグレアス侯爵が王城に呼ばれて査問が行われるとのことだ。
暗殺目標とされた私は声は掛けられているが出席は必須というわけではない。
まぁ、配慮してくれてるんだと思うけど、ブルブル震えて部屋に籠もるほどヤワな精神ではないつもりだ。
どんな人なのか、自身の目で確かめたいと思う。
さて…どうでるのか?
時間になり、私は査問が行われる会議室へとやって来た。
集まったのは父様、母様を筆頭にこの国の重鎮たちが勢揃いといった感じだ。
騎士団からは実質的な責任者であるリュシアンさんが参加する。
私の護衛をしているケイトリンは、私が母様の隣の席に座ると少し斜め後ろに下がって待機する。
アグレアス侯爵は何ていうか…普通な感じだった。
格好は如何にも貴族らしい豪奢なものだが…当人はと言うと、先代国王陛下(私の祖父)の頃より仕えていると言うことだから結構な高齢で頭髪はすっかり白くなっており、深い皺が刻まれながらも温厚そうな顔立ちは、今は不安そうな表情をしている。
彼は他の人たちとは離れて…まあ、被告人席みたいになっている。
出席者が全員集まったところで、父様が査問会の開催を告げる。
「さて皆の者よ、今日集まってもらったのは…既に聞き及んでいるものもおろうが、我が娘であるカティアが昨日襲撃されるという事件が起きた」
父様のその言葉に、ざわめきが起きる。
どうやらまだ知らなかった人も結構いるみたいだ。
父様が手を上げると直ぐに静かになる。
場が落ち着いたのを見計らって、詳細な説明はリュシアンさんが行うことに。
事の経緯とこれまでの捜査で分かったことを説明していく。
アグレアス侯爵は段々と顔が青ざめていき、事情を知らなかったであろう人たちは非難の目を彼に向け始める。
「…以上が経緯と捜査の報告になります」
リュシアンさんの説明が一通り終わった。
誰もが厳しい目をアグレアス侯爵に向けている。
その当人はといえばすっかり顔色は悪くなり、小刻みに震えている。
今にも卒倒してしまいそうだが、大丈夫だろうか?
「皆、事の次第は分かったと思うが…さて、アグレアス侯爵?」
「は、はいっ!!」
父様に声をかけられた彼はビクッとなって吃りながら返事をする。
「今リュシアンが説明したように…あらゆる状況が貴殿を指し示しているのだが、何か申し開きはあるか?」
「お、恐れながら申し上げます…確かに今回の件、私に疑いの目が向くのは致し方ない状況とは存じますが…何れも私の預かり知らぬところで起きた事にございます」
アグレアス侯爵は遠慮がちに、しかしはっきりと疑惑を否定する。
「ふむ、では順に確認しておこうか。まず、カティアに対する指名依頼についてだが。依頼の発行元はモーリス商会だが、証言によればアグレアス侯爵家との取引を担当している者が関り、そのルートからの指示があった…とのことだが、これについては?」
「存じませぬ。そもそも商会との取引と言った雑事は部下の裁量に任せておりますゆえ…細かな事情は分かりませぬ」
幾分落ち着いたのか、今度は淀みなく答える。
言い分も、まあそうだろうね…という内容だ。
「では、アグレアス侯爵家所有の倉庫に人質を監禁していた件はどうだ?」
「それも同じ事です。そのような賊がいた事など、全くの寝耳に水でございます」
「全く関わりは無いと?」
「はい」
…開き直っているのか、本当に関わりがないのか、その態度からは何とも言えない。
しかし、他の重鎮たちはその回答には納得できずに非難の声をあげる。
「これだけの状況証拠が出揃っているのだ。知らぬ存ぜぬで通じるとお思いか?」
「仮に貴殿が直接関わっておらずとも、最低でも管理責任は免れぬだろう!」
「そうだ!」
しばらくはそのように、侯爵の責任を問う声があがり、皆から一通り発言がされたところで父様がまた手を上げて静かにさせる。
「疑わしいが、証言だけでは確証と言えないのも事実。だが、皆が言うように全く責任に問わないという訳にはいかない」
「…はい、承知しております」
父様の言葉に侯爵は神妙に頷いて肯定する。
「処遇については追って沙汰するが、捜査もまだ続いているところだ。先ずは捜査に対しては協力を行うこと」
「はっ、我が身の潔白を晴らす為にも是非。天地神明に誓って虚言を申すことはしないとお約束いたします」
「うむ……誰ぞ異論がある者はいるか?」
父様の問いかけに対しては、皆は沈黙をもって肯定する。
いまいち納得出来ない者もいるみたいだが、落としどころに文句をつけるほどではないと言った感じだろう。
私自身はどうかというと…正直よくわからない。
今回初めてアグレアス侯爵に会ったわけだが、その印象は『よく分からない』だ。
最初は気の弱そうな雰囲気を醸し出していたのだが…詮議に対しては臆することなく一貫して関与を否定する様は毅然として、捜査の受け入れについては誠実さを感じた。
演技のようにも見えるしそうでないようにも見える…掴みどころがなく、結果人物像としては『よく分からない』、という事なのだ。
その後も質疑は続いたものの、他に大きな進展があるわけでもなく査問会は終了となるのであった。
私はケイトリンと一緒に再び騎士団詰所のリュシアンさんの執務室にやって来ていた。
現場の捜査状況については昨日のうちに報告があったらしいけど…賊との明確な繋がりを示す物的証拠は見つからなかったそうだ。
まあ、侯爵家保有の施設内での話になるので当然疑いの目は向くし、証言や他の状況証拠もある。
現時点では限りなく黒に近いし、仮に罪状に問えない…あるいは真に黒幕ではなかったとしても、このような状況では高位貴族としての責任を問われることは免れない…らしい。
そんな訳で、これから当事者であるアグレアス侯爵が王城に呼ばれて査問が行われるとのことだ。
暗殺目標とされた私は声は掛けられているが出席は必須というわけではない。
まぁ、配慮してくれてるんだと思うけど、ブルブル震えて部屋に籠もるほどヤワな精神ではないつもりだ。
どんな人なのか、自身の目で確かめたいと思う。
さて…どうでるのか?
時間になり、私は査問が行われる会議室へとやって来た。
集まったのは父様、母様を筆頭にこの国の重鎮たちが勢揃いといった感じだ。
騎士団からは実質的な責任者であるリュシアンさんが参加する。
私の護衛をしているケイトリンは、私が母様の隣の席に座ると少し斜め後ろに下がって待機する。
アグレアス侯爵は何ていうか…普通な感じだった。
格好は如何にも貴族らしい豪奢なものだが…当人はと言うと、先代国王陛下(私の祖父)の頃より仕えていると言うことだから結構な高齢で頭髪はすっかり白くなっており、深い皺が刻まれながらも温厚そうな顔立ちは、今は不安そうな表情をしている。
彼は他の人たちとは離れて…まあ、被告人席みたいになっている。
出席者が全員集まったところで、父様が査問会の開催を告げる。
「さて皆の者よ、今日集まってもらったのは…既に聞き及んでいるものもおろうが、我が娘であるカティアが昨日襲撃されるという事件が起きた」
父様のその言葉に、ざわめきが起きる。
どうやらまだ知らなかった人も結構いるみたいだ。
父様が手を上げると直ぐに静かになる。
場が落ち着いたのを見計らって、詳細な説明はリュシアンさんが行うことに。
事の経緯とこれまでの捜査で分かったことを説明していく。
アグレアス侯爵は段々と顔が青ざめていき、事情を知らなかったであろう人たちは非難の目を彼に向け始める。
「…以上が経緯と捜査の報告になります」
リュシアンさんの説明が一通り終わった。
誰もが厳しい目をアグレアス侯爵に向けている。
その当人はといえばすっかり顔色は悪くなり、小刻みに震えている。
今にも卒倒してしまいそうだが、大丈夫だろうか?
「皆、事の次第は分かったと思うが…さて、アグレアス侯爵?」
「は、はいっ!!」
父様に声をかけられた彼はビクッとなって吃りながら返事をする。
「今リュシアンが説明したように…あらゆる状況が貴殿を指し示しているのだが、何か申し開きはあるか?」
「お、恐れながら申し上げます…確かに今回の件、私に疑いの目が向くのは致し方ない状況とは存じますが…何れも私の預かり知らぬところで起きた事にございます」
アグレアス侯爵は遠慮がちに、しかしはっきりと疑惑を否定する。
「ふむ、では順に確認しておこうか。まず、カティアに対する指名依頼についてだが。依頼の発行元はモーリス商会だが、証言によればアグレアス侯爵家との取引を担当している者が関り、そのルートからの指示があった…とのことだが、これについては?」
「存じませぬ。そもそも商会との取引と言った雑事は部下の裁量に任せておりますゆえ…細かな事情は分かりませぬ」
幾分落ち着いたのか、今度は淀みなく答える。
言い分も、まあそうだろうね…という内容だ。
「では、アグレアス侯爵家所有の倉庫に人質を監禁していた件はどうだ?」
「それも同じ事です。そのような賊がいた事など、全くの寝耳に水でございます」
「全く関わりは無いと?」
「はい」
…開き直っているのか、本当に関わりがないのか、その態度からは何とも言えない。
しかし、他の重鎮たちはその回答には納得できずに非難の声をあげる。
「これだけの状況証拠が出揃っているのだ。知らぬ存ぜぬで通じるとお思いか?」
「仮に貴殿が直接関わっておらずとも、最低でも管理責任は免れぬだろう!」
「そうだ!」
しばらくはそのように、侯爵の責任を問う声があがり、皆から一通り発言がされたところで父様がまた手を上げて静かにさせる。
「疑わしいが、証言だけでは確証と言えないのも事実。だが、皆が言うように全く責任に問わないという訳にはいかない」
「…はい、承知しております」
父様の言葉に侯爵は神妙に頷いて肯定する。
「処遇については追って沙汰するが、捜査もまだ続いているところだ。先ずは捜査に対しては協力を行うこと」
「はっ、我が身の潔白を晴らす為にも是非。天地神明に誓って虚言を申すことはしないとお約束いたします」
「うむ……誰ぞ異論がある者はいるか?」
父様の問いかけに対しては、皆は沈黙をもって肯定する。
いまいち納得出来ない者もいるみたいだが、落としどころに文句をつけるほどではないと言った感じだろう。
私自身はどうかというと…正直よくわからない。
今回初めてアグレアス侯爵に会ったわけだが、その印象は『よく分からない』だ。
最初は気の弱そうな雰囲気を醸し出していたのだが…詮議に対しては臆することなく一貫して関与を否定する様は毅然として、捜査の受け入れについては誠実さを感じた。
演技のようにも見えるしそうでないようにも見える…掴みどころがなく、結果人物像としては『よく分からない』、という事なのだ。
その後も質疑は続いたものの、他に大きな進展があるわけでもなく査問会は終了となるのであった。
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