140 / 683
第六幕 転生歌姫の王都デビュー
第六幕 24 『忍び寄る影』
しおりを挟む「ん…?」
「どうしたの?」
オズマさんが何かに気がついたような声をあげ、ケイトリンが何事かと確認する。
「いや…後ろから気配を感じたんだが…気のせいか?」
「…う~ん?私は何も感じなかったけど…カティア様は?」
「私も何も…でも、気になるね」
気配に敏感なケイトリンと、そこそこ分かる私…その二人がともに気付かなかったのが逆に気になる。
それに、オズマさんとて高ランク冒険者だ。
ただの気のせいと片付けるのは気持ちが悪い。
「…少し様子を見てくる」
「一人では危険ですよ。私も…」
「いや、少し確認するだけだ。すぐ戻るから待っててくれ」
そう言ってオズマさんは来た道を戻っていった。
「…あまり単独行動はしない方が良いと思うんだけど」
「…カティア様、ちょっといいですか?」
「ん?なに?」
「実は…」
そう言ってケイトリンは私に耳打ちして来て…
「あいつ、遅いですね?」
「そうだね…心配だから私達も戻ろうか?」
「あ、だったら私ちょっと見てきますよ」
そう言ってケイトリンも来た道を戻っていってしまった…
「もう…ケイトリンまで…単独行動は危険だよ…」
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも大丈夫かな?」
ミーティアが心配そうに呟く。
「すまん、遅くなった。…ケイトリンはどうした?」
ケイトリンと入れ替わりでオズマさんが戻ってきた。
すれ違わなかったのかな…?
「さっき、オズマさんを探しに行きましたけど…すれ違いませんでした?」
「いや…分岐のところで入れ違いになったのかもしれないな。少し待っとくか」
「そうですね。これ以上単独行動しても危険ですし」
そうして私達はその場で待つことにしたのだが…
ふと、私がオズマさんに背中を向けた、その時!
ガキィンッ!!
坑道に鋭い金属音が鳴り響いた!
「今、な~にをしようとしたのかなぁ?オズマくん?」
「ケイトリン!?…なぜ?」
音がした方を振り返ると、オズマさんと…いつの間にか戻ったケイトリンが切り結んでいるところだった。
そして、ばっ!とお互いに距離を取って対峙する。
「一昨日会った時から違和感を持ってたのよ。昨日一日かけて調査しても確信とまでは行かなかったけど…どうやら正解だったみたいね!」
「え~と…どういう事?」
どうやらオズマさんが私を狙って攻撃しようとしたところをケイトリンが阻止した…と言う事らしいが。
ケイトリンが探しに行く前に、オズマさんが戻ってきたらわざと隙を作ってくれって頼まれたのでそのようにしたら…今の状況と言う訳だ。
だけど、なんでオズマさんは私を狙ったのか…?
「何で分かったんだ?…一昨日から、と言っていたが…おかしな行動は取っていなかったと思うんだが」
「あんた、カティア様のことはAランク冒険者として知ってるみたいな事言ってたけど…だったら何で私が護衛してたり『カティア様』って呼ぶのに何の疑問も持ってないの?私だったら気になって聞くけどね」
…確かに、それはそうかもしれない。
一介の冒険者に過ぎないはずの私を騎士が要人の如く護衛していたら普通は疑問に思うだろう。
まだ私は王女として周知されてる訳ではないし、ましてや元騎士というなら尚更だ。
「あと、この依頼自体も違和感があったのよ。モーリス商会が大量の鉄を確保しようとしているのは確かだけど…ここ以外にも鉄鉱山は押さえているはずだし、高い依頼料を出してまで指名依頼…それも一週間以内なんて短期間で解決しようとする理由が無い」
それはレティとも話していたことだ。
でも、そんな些細な違和感から私への襲撃を予測するなんて…自称じゃなくて本当に優秀なんだね。
いや、リッフェル領の件から実力は疑ってなかったけど、普段の言動がね…
「だからね。カティア様に対して良からぬことが計画されているんじゃないかって…ずっと警戒していたのよ。でも、確証はなかったからね。だから、アンタが一時離脱したのを見た時ついに動くのかと思って…ひと芝居打ったってわけ」
う~ん、キリッとしてて格好いいわぁ~。
いつもこうだと良いのに…
「お前がいた時点で嫌な予感はしていたんだが…やっぱりな。さすがは騎士団きっての『食わせ者』ってとこか」
二つ名?二つ名なの?
ケイトリン…あなたも仲間なのね!
「そう!なんせ私は優秀だからね!」
「…そうだな。だが…護衛が護衛対象から離れるのは感心しないぞ!!」
そう言うやいなや、オズマさんはケイトリンではなく私に向かって切りかかってきた!!
ヒュンッ!
キィンッ!!
しかし、私は咄嗟に彼の剣を弾いて首筋にヒタと刃を当てる。
私が弾いた彼の剣はくるくると回転しながら地面に突き刺さった。
「…そりゃあ~、私よりカティア様の方が強いからね。本来なら護衛なんて必要ないのよ」
「…どうやらそのようだ。ここまでか…王族に刃を向けた者はどのみち死罪だ。ひと思いにやってくれ」
オズマさんはむしろ憑き物が落ちた様なスッキリした調子で言う。
…やっぱりおかしい。
さっきの攻撃も本気ではない…と言うか迷いが見られた。
最初の奇襲もそうだ。
ケイトリンが防いでくれなくても、多分躱すことが出来たと思う。
私はそれなりに人を見る目はある方だと思ってるんだけど…こんなような事をするような人にはやっぱり見えない。
そう思っていると、ミーティアが剣を持った私の手に自分の手を添えて…
「ママ…お兄ちゃん、悪い人じゃないよ…」
ああ…やっぱりそうだよね。
ミーティアも分かっているんだ。
この子を優しそうな笑顔で撫でていた…それが本来のオズマさんなんだと思う。
きっと、何らかの事情があるはずだ。
「…そうだね。ママもそう思うよ」
そう、ミーティアに答えて剣を下げた。
オズマさんは驚愕で目を見開くが、もう攻撃の意思はすっかり無くなっているようだ。
「私もそう思いますね~。騎士団が堅苦しくて辞めたなんて言う割に、コイツは私なんかよりよっぽど真面目なやつでしたからねぇ。とても自分の意思とは思えませんよ」
ケイトリンもそう同調する。
ふふ…そういうところ、お固いだけの騎士様と違って融通が効くよね。
それが彼女の魅力の一つで憎めないところだ。
「…お人好しすぎなんじゃないか?あんた、殺されそうになったんだぞ?」
「私は何の被害にもあってませんから。それに、私は人を疑うよりは信じたいと思ってます。ケイトリンだって最初はあなたのこと怪しいとは思っても、今はこうして信じてくれてるでしょう?」
「まあ、元同僚のよしみってやつですよ。八方丸く収まるならそれが一番でしょ?だから…洗いざらいゲロっちゃいなさいよ。昨日色々探って気になったんだけど…あんたの妹、ここ最近の行方が分からなかったんだよね」
「!!…そうか、それも俺を疑っていた理由の一つか」
…そこまで聞けば私にも読めてくる。
つまり、オズマさんは肉親を盾に脅されている、と。
「そこまで分かってんなら予想はつくだろ?妹を盾に脅されて…カティア王女、あんたの暗殺を指示されたんだ」
「私の…暗殺?」
「理由は分からねえ。黒幕も。詮索すれば妹の命はない、って言われたもんでな。俺はただ指示に従って動くことしかできなかった」
「…モーリス商会の方も当たったんですけどね、依頼を出した担当者はもう辞めていたんです。それも今回の件が怪しいと思った理由の一つ」
今日凄く眠そうにしてると思ったら…昨日一日だけでそこまで調べてくれたんだね。
ケイトリンには感謝しないと。
しかし、これからどうしようか?
オズマさんを罰するつもりは全くない。
いや、彼は私の事情に巻き込まれた被害者であるとも言えるし、むしろ申し訳ないとすら思ってる。
憎むべきは卑劣にも人質をとって自分は手も汚さずに、高みで見ているであろう黒幕だ。
絶対に許さない……今に見ていろ!
11
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―
中七七三
ファンタジー
ラトキア人――
雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。
ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。
ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。
「自分は男だ――」
少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。
そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。
犯され、蹂躙され、凌辱される。
肉に刻まれるメスアクメの快感。
濃厚な精液による強制種付け――
孕ませること。
それは、肉体が牝に固定化されるということだった。
それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。
原案:とびらの様
https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808
表紙イラスト:とびらの様
本文:中七七三
脚色:中七七三
エロ考証:中七七三
物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。
シノプスのみ拝借しております。
もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる